藤ヶ谷海斗は変われない。

うみはかる

はじめてのそくてい。

それからしばらくして。
話が纏まったところで、ずっと後ろにいた、アカムと呼ばれた鎧を着た男が、口を開いた。

「勇者様方、私は王国騎士団所属のアカムと申します。これから戦争に参加していただくにあたり、まずは能力測定をさせていただきます。能力の測定は我らが騎士団長が直々に見てくださるので、私についてきてください。」

そう告げたアカムは、俺たちがその言葉に対し何かを発する前に足早に部屋を出て行った。この城...というか王宮なのだが。
王宮なら王がいるのが当たり前なのだが、その王への挨拶は今度ということになるらしい。どうやら召喚された俺たちと同等かそれほどの用事なのだろうが、王は今とある所へ出かけているらしく、俺たちは王が帰還するまでの間は普通に戦闘訓練をするようなのだ。
広すぎる王宮を案内なしに歩いて迷わない自信がある者などここにはいなかったので、アカムと名乗った騎士の後ろを追いかけるように、俺たちは大広間から出て行った。


アカムについていくと、大きな教室...というのが正しいのだろうか?その部屋の中。
そこに待っていたのはさわやかな笑顔を浮かべた若い...若すぎない?

「やあ、君たちが勇者...かな?僕は王国騎士団団長を務める、フリードだよ。以後宜しく。」

赤髪を揺らす、ほぼ俺たちと同い年にしか見えない青年がそこに立っていた。
顔は美形で、面食いな女どもは見惚れているようだ。

「驚いているかもしれませんが、こちらが騎士団長のフリード様です。若くして天才的なまでの剣才で騎士団長に上り詰めた、すごいお方なんですよ!」

アカムと呼ばれた騎士が兜を外すと、一つ下程度のまだ垢抜けぬ顔の少年が覗いた。
アカムはふふん!と鼻高そうにフリードについて語り始めた。

「こら、アカム。君はすぐに熱くなるんだから...」

「いえ、大丈夫ですよ。それにしても驚きました、私達に教えていただける方はもう少し高齢かと...」

物腰低く前に出たのは亜月。イケメンとイケメンの絵である。殺意しか湧かない。隣にいる早乙女は目をハートにして魅入っている。さっきまでの不安な顔をどこに置いてきてしまったのか。

「とりあえず、貴方達の能力を測ろうと思う。といっても貴方達異界人はこの世界の住民と比べて、高い能力を持っていると聞くし、きっと私なんてすぐに抜かされてしまうよ。」

隣でアカムがそんなことはないですよ!とまた熱くなっている。それを流すようにハハハ、といって笑うフリード。歯はなんか輝いている。もう怖い。イケメンってすぐ笑う。距離感詰めるのも早い。今とある道具を持ってきているのでしばらくはお互いに質問をしてお互いを知ろう。とのことだ。それに食いついた女子どもは彼女はいますかだのなんだの聞き出した。地獄である。

「お待たせしました勇者様方、団長、持ってまいりました。」

そう言って現れたのは40近くになるだろうかと思われる面持ちの男性だった。しわがあるのはわかるがダンディな顔、引き締まった身体。一眼で強いと思わせる彼よりも、フリードの方が上という事実に仰天しそうである。

「ありがとう、ロイス副団長。今持ってきたものはプレート。正確には長い名前があるんだけど、俗名としてプレートと呼ばれているんだ、まあ正確な名前は覚える必要はないよ。これを手に持つと、自分の魔術適性や魔力量とか、いろんな事が分かるんだ。」

「魔術適性...それに魔力量....ってなんですか?」

全員の疑問を代表するかのように、亜月が質問をする。周りの空気を察知するのが得意なのか、ただ疑問に感じたことを聞いただけなのかがわからないけれど、あのイケメンに質問をするのは俺にはあまりにも大きな壁なので、素直に感謝しておくこととしよう。なんだかファンタジー要素が多く、ありふれたモブキャラだった俺たちが勇者という存在になったんだという喜びに、顔が綻びそうになる。現にめちゃくちゃ気持ち悪い表情をしている奴もいて、なんだか鏡を見ているようで悲しくなってくる。あれは未来の俺かもしれない。

「ああ、とりあえずはプレートで判別してみよう。戦闘訓練だけじゃなくて座学もしっかりあるから、それらはおいおい習っていけばいいよ。」

異世界転移、この世界の人よりも強い“勇者”、魔術、と言ったワードにワクワクしていた男子陣、座学という言葉に一瞬でテンションを吸い取られる、の巻。
そんな奴らは置いて行かれ、プレートと呼ばれるものが配られていく。

「そのプレートに血を垂らすと、個人の情報が血を介して読み取られて見えるようになるんだ。
他の汗などの体液よりも、血が一番個人の魔力を読み取るのに便利でね、魔力純度が高くなりやすいんだ。」

「わたしぃ、痛いのは嫌ですよ〜。」

...うげ...
媚びた声を出してフリードにすり寄っているのは涼風花火すずかぜはなび。ショートの髪と、低身長にしては豊満な胸を押しつけている、いわゆるあざとい系。早乙女を悪化させたらああなりそう。
個人的に苦手なタイプである。

「僕は風魔術と回復魔術が使えるから、そこは安心して。痛みを感じる前に少し皮膚を切ってすぐに再生させるから。」

そう言ってにこりと歯を見せるフリード。眩しい。涼風はキャー!とか言いながら腕に組み付いてるし。周りの女の目線が怖すぎる。男衆は呆れたような視線を送っているが、ついさっきメイドに目を奪われていたことをどうやら忘れてしまっているらしい。どっちもどっちである。


そう言ってフリードのところにクラス全員が並んだ。俺はもちろん最後尾。インキャは後回しということだろう。特に異論もない。

血を垂らしてから数分経つと文字が浮かんでくるようで、プレートはどう見ても磨かれた石のような素材なのに血を垂らすと血はスッと吸い込まれていくようだ。

魔法、暴発したりしないよな...?ふと風魔法とやらが暴走し首チョンパされるシーンを思い浮かべて脂汗が滲みそうになるが、騎士団長の偉さがよくわかっていないが多分すごい役職だろうし、騎士団長にまで上り詰めたフリードがそんなヘマをするわけがないと信じて、自分の順番が回ってくるのを待った。

「神よ...彼の者に癒しを...」
どうやら詠唱が必要らしい。といっても短い文だし、聞き取れたのは回復魔術の相性のように聞こえるが、風の魔法はどこにいったんだろうか。そんな疑問を抱いているうちに俺の血はポタリとプレートに垂れていた。
どうやら俺が待っている間に文字が浮かび上がった人が出てきたようで、ほぼ痛みを感じない技量に驚きながら待つ間に、フリードは文字が浮かんできた亜月などの方に向かっていった。


俺の持つプレートにも文字が少しずつ浮かんで来たところで、ふと目をやると亜月を中心に絶賛され出しているのが見える。

少し近づいてプレートを覗いてみると

=================
スキル:異言語理解 勇者の素質 英雄の素質 全職業適性 聖剣に選ばれし者 

魔術:火属性魔術 地属性魔術 水属性魔術
光属性魔術 
〜〜〜〜〜〜〜〜

チラッと見えた文字列が、とんでもなく多いことだけはわかった。
全部が見えたわけでもなく、一つ一つの意味はよくわからないが、多い方がいいのだと思う。多分。

「すごい....努力してきた僕ですらこのスキル量と魔術適性は得られてないのに...ステータスだけで言ってしまえば、亜月くんは僕以上といっても間違いない、魔力量も鍛錬すれば伸びる。流石勇者、というべきなんだろうか...」

亜月のステータスを見たフリードがすごい驚いた顔でブツブツと言葉を発している。聞き取れるけど全くわからない言葉の羅列やめてほしい。俺たちのこと考えてくれよ。なあ。

「何かよくわからないんですけど、これって凄いんですか?僕には、皆を救える力があるのかな....」

プレートを見ても特に意味がわかっていないのは亜月も同じようだ。どうやら完全に解析が終わったようでプレートに俺のステータスが表示される。なんというか、初めてRPGを初めてステータスを開く瞬間のようでウキウキとする気持ちを抱きつつ、浮かび上がる文字をみた。


______は?


=================
スキル: 異言語理解 邊セ髴贋ス楢ウェ

魔術:

魔力量:0
================

プレートに映った文字は、本当の意味で何もわからなかった。

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