先生の全部、俺で埋めてあげる。

咲倉なこ

*64

「俺、今先生と同じ大学に行ってます」
「…そう」

先生はちゃんと俺の顔を見てくれなくて、それがまた俺を焦らせる。
「先生の昔のこと聞きました」
「うん…」
「だからこの場所に来ました」

「…じゃあ、彼のことも聞いたんだね」
先生をお墓を眺めながら言う。
「はい」

「じゃあ分かったよね?私のことなんてもう放っておいてよ…」
そんなの、
「放っておける訳ないじゃないですか」

先生に手を伸ばすとその手を振り払われる。

「私はまだ彼のことが好きなの!だから里巳くんの気持ちは受け止められない。帰って」
「彼のことがまだ好きなら!なんで一度でも俺のことを受け入れたんですか!」
「それはっ…」

「先生は彼への罪悪感だけでここにいる」
「違う…」
「違わない」
「なんで私の気持ちを勝手に決めつけるの…!」

だって、そう思ってしまうから。
違うの?先生。

「だったらなんで、俺のこと受け入れたんですか?」
「…あの時は流されただけだから」
「じゃあ、今も流されろよ!いいよ、流されただけでもなんでもいい!もう一回ちゃんと俺のこと見ろよ…!」

言っていることがめちゃくちゃだ。
でもそれくらい俺は必死だった。

「ごめん…」
「ねえ、先生。先生が学校を辞めて、先生と会えなかった時間、俺がどんな思いをしてたか知ってますか?」

俺の問いに先生は応えてくれなくて。

「先生に会いたくて会いたくてしょうがなくて、頭がおかしくなりそうでした」

ずっとずっと苦しくて、ずっとずっと会いたかった。

「今でも俺の頭から先生が離れない」
「ごめん…」
「今でも俺っ…「ごめん…」

先生は俺の言葉にかぶせて謝った。
それ以上の言葉を、言わせないようにしているようだった。


「…本当に彼のことがまだ好きなの?」
「うん…」


「もう死んでんのに?」


そう言った瞬間、頬に刺激が走って。
先生に叩かれたことに気づいた。

「もう二度と会いに来ないで。この場所にも絶対!」
俺があっけに取られている間に先生は走り去ってしまった。


俺は最低だ。
あんなこと言うつもりなかったのに。
また先生を傷つけてしまった。

「なんでだよ…」

こんな終わり方ないよ。
先生ごめん。
いつも必死で、訳がわからなくなって。
いつも先生を傷つけてしまう。
こんな事になるなら、会いになんて来なきゃよかった。


俺はあの時のまま何も成長していない。



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