先生の全部、俺で埋めてあげる。

咲倉なこ

*58

大学に入って数か月がたった頃、柾木から連絡があって、久しぶりに会うことになった。
柾木とは大学は別々になったけど、今でもこうやってたまに会う。
ファーストフード店で適当に飲み物を注文して席に座った。

「お前最近どうよ?」
柾木の第一声はいつもこれだ。
「別に何も変わったことはないけど」
「大学にかわいい子いないの?誰か紹介して」
彼女と別れたばっかりなんだよーと柾木は続けた。

「お前、女の話しかできねーの?」
「それ以外なんか話すことある?」
もはや呆れるのを通り越して尊敬すら覚える潔さ。

「逆に聞くけど夕惺は何でそんなに女子に興味ないわけ?」
「ない訳じゃないけど」
「お前から誰かが好きとか聞いたことないんだけど」
「そうだっけ」
確かにわざわざ誰かに自分の気持ちを言ったりしないな。

俺が適当に返事をすると妙な間があって。
柾木がすげー俺を見るから「ん?」と首を傾げた。

「莉子ちゃんから連絡あった?」
「なんだよそれ」

突然柾木から先生の名前が出てきて驚いた。
「なんで俺になにも言ってくんねーの?」
俺って夕惺のなに?って、うざめトーンで聞いてた。

「情緒不安定の女子かよ」
柾木の真面目な雰囲気がイヤで、俺は適当にごまかす。
「あのなー。俺、お前の考えてる事、割と分かってるつもりだよ」

さっきから何なんだよ。

「莉子ちゃんと何があったか知らないけどさ、お前明らかに好きだったじゃん?」
やっぱり柾木には俺の気持ちはバレていた。
あんまり自分の感情を言わない俺の性格も分かっていたんだろう。
だから今まで、そのことに直接触れてこなかったんだと思うけど、今日の柾木は違った。

「今でも引きずってんの?」
その柾木の言葉がダイレクトに俺に響く。

「割と」


ここでしらばっくれても何もかもお見通しだと思って、素直に認めると、
「やっと認めた」
って柾木は少し嬉しそうに笑った。

「いつから気づいてた?」
「先生が赴任してきた日。って言ったらどうする?」
「は?」
「だってお前嬉しそうにしてたじゃん。分かるよ」
そう言ってストローに口をつける柾木。

さすがにそんな前から気づいていたなんて思ってもいなかったから。
今までとぼけてきた自分が、とてつもなく恥ずかしい。

「夕惺、意外と一途なんだ」
「意外とってなんだよ」
「どおりで特定の彼女作らない訳だよな。もったいない。俺がその顔だったらもっと遊びまくってるけどな」
「もうその発言、聞き飽きたんだけど」
「うわ、何それ。俺も言ってみてー」

柾木と喋っているとなぜかホッとする。
他愛もない話をして。
くだらない話で盛り上がって。
一瞬でも苦しい気持ちを忘れられる。

「まあ、俺に協力できることがあったら何でも言えよ」
「やだよ」
「は?俺はここまで夕惺のこと思ってんのに泣くわ」
そう言ってウソ泣きを始める柾木。
昔からほんと変わらないな。

「ウソだって。これからは言うようにする。ありがとう」
「お、おう。なんか素直に言われると恥ずかしいな」
「なんなんだよ、お前」


なんだかんだ言って、柾木にはいつも感謝してる。
こんな不器用な俺を分かってくれていて。
いつも気にかけてくれて。
俺はきっといろんな場面で柾木に救われているから。

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