先生の全部、俺で埋めてあげる。

咲倉なこ

*57 先生の過去

あれから月日は流れて、俺は大学生になった。
先生は学校を辞めた日から、忽然と姿を消した。
なんの音沙汰もなく、俺の前からいなくなった。
アパートもいつの間にか引っ越していた。

今もずっと連絡が取れないまま。
どこで何をしているのか、俺にはさっぱり分からない。



先生は、学校を辞めても会ってくれるって言ったのに。
今、なんで先生に会えていないのか。
なんで何も言わずに俺の前から姿を消したのか。
考えても分からないことだらけ。

先生も俺を好きなんだって、そう思ってたのに。
ただ想い上がっていただけで、本当はそんなこと全然なかったんだって。
俺が勝手に抱いた妄想だったのかもしれないと思うようになっていた。

今でもたまにあの時のことを思い出すんだ。
先生のことを思い出してしまうと、ずっとその記憶が頭の中でループして、パンクしそうになる。


先生。
なんで何も言わずにいなくなったのか教えて。
じゃないと、俺の時間はあの時からずっと止まったまま。



先生ともう会えないと悟った高校生の俺は荒れた。
何もかもがどうでもよくなって、学校も休みがちになった。
言い寄ってくる女子たちも、断るのが面倒になっていて。
ただ、寂しさを埋めるためだけに関係を持った。
その時は必死で無我夢中で、満たされるのに、終わると直ぐに虚しくなって。
現実がいかに残酷かを思い知るんだ。

虚しさの中で、先生の存在の大きいさを感じた。
俺は、こんなにも誰かに執着するなんて思ってもみなかった。
彼女も友達も親だって、別にいなきゃいないでそれでいいと思っていたのに。
先生だけは、どうしても諦めきれなかったんだ。



大学は結局先生の通っていた大学にした。
未練タラタラすぎて自分でも笑ってしまうけど。
もしかしたら先生に会えるヒントがあるかもしれないと、その時の俺は単純にそれだけの気持ちで動いていた。
別に他に行きたい大学もなかったし、親も何も言わなかった。

高校を卒業してすぐに俺は一人暮らしを始めた。
親は高3の秋に日本に帰って来ていて。
相変わらず忙しそうな2人だったから、日本にいてもいなくても顔を合わす機会なんてめったになかった。

別に同居のままでもよかったんだけど、俺は早く大人になりたかった。
誰の世話にもなりたくない。
ちゃんと一人で自立して、自分のことは自分でできるようになって。
それで、誰かを支えられる人間になれるように。


先生は今頃、どこで何してるんだろ。
気を抜くとつい考えてしまう。
今でも俺の気持ちの大部分を占めるのが先生で。
どうすれば消えるのかいまだに分からない。

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