先生の全部、俺で埋めてあげる。

咲倉なこ

*55

何も言わなくなった先生をいいことに、俺は更に顔を近づける。
先生は硬直したまま動かない。

いいの?
このままじゃ本当に唇が当たるよ。


「やめて…」
先生の顔のすぐ近くで、先生は言う。

「言葉で止めるのなしだよ…」

そんなの、いくらだって言える。
やめてほしいなら先生が避けてよ。
俺はもう止まれない。

あと数センチ。
あと数ミリ。

ねえ、せんせ。

そのまま動かないで。

お願い。




俺の唇が先生の唇に触れた瞬間。
体全部が心臓になったみたいにドキドキした。

そっと目を開けると、目の前に映るのは紛れもなく先生で。
俺は夢を見ているんじゃないかと錯覚した。

夢じゃないよな?
夢なのかな?

先生は涙を流しながら、俺を受け入れてくれた。
もう心臓が張り裂けそう。

触れただけの唇をそっと離すと、先生と目が合う。
何かを求めるような、困っているような、なにも掴み取れない表情なのに。
すごく魅力的に見えた。


「そんな顔されたら、止まんなくなる」


俺は堪えきれなくなって、もう一度唇を重ねた。
今度は触れるだけじゃ満足できなくて。
今までずっと我慢してた俺の感情を全てぶつけるように、何度も唇を重ねた。


いいよ。
イヤだったら、あの時みたいに俺の唇を噛んでもらっても全然構わない。
それぐらい一方的なことしてるって思ってる。
でも先生はそれをしなくて。

今までのドキドキが比じゃないくらいに心臓がうるさい。
もう一生こうしていたい。


しばらくして先生からそっと離れると、先生と目が合って。
そのまま動けなくる。
お互い見つめ合ったまま、何も喋らない。
俺は、この時間がずっと続けばいいのに、って。
ただただそう思った。


チャイムが鳴って。
教室の外はガヤガヤしてるのに、俺たちがいる場所は静まり返っていて。

まるで先生と俺しか入れない空間にいるような気がして。
俺は、この時間がずっと続けばいいのにって思ったんだ。



「先生、学校辞めた後も、俺と会ってくれますか?」

先生は俺の言葉に黙って頷いた。
そのことが嬉しすぎて、人生で最大に舞い上がった。

「じゃあ、約束」
俺は自分の小指を先生の小指に絡み合わせてた。
俺を見る先生の瞳が、とろけ落ちそうなくらいうっとりとしていて。


「そんな顔されると離したくなくなる」

俺はまた感情のままに先生をギュッと抱きしめる。
このままずっと一緒にいたいと思ってしまう。
もっともっと、先生のことが欲しくなる。
先生も俺と同じ気持ちでいてくれているかな。

ねえ先生。
先生も俺のことが好き?

ねえ。
先生も俺に負けないくらい、俺のこと好きになってよ。



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