先生の全部、俺で埋めてあげる。

咲倉なこ

*50

お兄さんの話すスピードに全然ついていけない。
今何の話ししてたっけ?
お兄さんは何を言ってるんだろう。
ポカンとしたままの俺は置き去りのまま、お兄さんは話しを続ける。

「でも、たぶん莉子はそのことに気が付いていない。もしくは気づかないようにしてる」
「ちょっと待って下さい…。さっきから何を言っているのかよく分からないんですけど…」
「え、そうかな?キミだって本当は気づいているんじゃないの?」

ドキっとした。
確かにお兄さんの言う通り、もしかしたらって思う場面はあった。
もしかしたら先生も、俺のこと好きでいてくれてるんじゃないかって。
だから、まだ可能性のあるうちは諦めたくないって思ってた。


「莉子はね、もう自分は恋愛しちゃいけないって思ってるんだ」
「恋愛しちゃいけない?」

それは生徒と先生だから、とか関係ないってこと?
他になにか理由があるってこと?

「そう。莉子の心の扉、こじ開けてよ。里巳くんならできる気がするんだ」

さっきからお兄さんの話は完結すぎて、内容が全然伝わってこない。
「あの、もっと分かるように説明してくれませんか?」
「俺が言えるのはここまで。あとは莉子に聞いてよ」

ここまで言っといて、なんだよそれ。

「聞いてもきっと教えてくれないよ」
だって、今までそうだったから。
いつも俺が助けられてばっかりで。
俺は先生のこと、何も知らない。

「あれ、弱気じゃん?さっきまでの勢いどうしたの?」
だって。
先生を好きな気持ちは誰にも負けない自信があるけど、先生が俺のどう思っているかなんて俺には到底分からないから。


「あの…じゃあ、いいんですか。俺が先生のこと好きでいても」
「ははっ。どうせ止めたってやめられないでしょ?恋愛なんてそんなもんだよ」
お兄さんは悟っているかのように言う。

「えっと…」
思ってもみないお兄さんの言葉に、なんて返せばいいか分からなかった。
自分の気持ちを誰かに喋るなんて、今までの俺には考えられなくて。
気が付けばペラペラと本音を話していて。
お兄さんはそんな俺を否定しなかった。
俺が先生を好きでいてもいいって、初めて肯定された気がして、嬉しかった。

正直、今は先生の考えていることなんて全然分からないけど。
俺に心を許してくれる日が来るなんて、想像もできないけど。
それでも俺が先生のことを救ってあげれるのなら、俺はなんだってしたいと思った。


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