先生の全部、俺で埋めてあげる。

咲倉なこ

*49

「俺に、話ってなんですか?」
暖かいコーヒーのコップを両手で握りながら聞いた。

「莉子のことなんだけど」
「はい」
「どれくらい本気なの?」

どれくらい本気か。
お兄さんの質問は、度が付くほど直球で。
思わず体に力が入る。
俺の動揺を表すように、コーヒーの水面がかすかに揺れた。
そんなこと聞くってことは、俺の気持ちはお兄さんにバレてるってことだよな。

「分からないです」
「分からない?」
「初めて好きになった人なので、比べる値がありません」
「ははっ。キミ、変わってるね」

今の俺の発言のどこに変わってると思ったのか俺には分からない。
でも。
「やっぱり莉子のこと好きなんだ」
「はい」
きっとこの気持ちは、誰にも負けない自信はある。

お兄さんはゆっくりと、話を続ける。
「じゃあ、莉子のこと諦めてって言ったら?」
やっぱりそうか。
かわいい妹が生徒と恋愛だなんて、そりゃ止めるよな。
でも、やっぱり。

「諦めません」
俺は誰になんと言われようが諦めないって決めたんだ。

「どうしても?」
「はい」
「なんで莉子なの?」
「なんでって」
そんなの俺だって知りたいよ。

「里巳くん、その容姿だったら相当モテるよね?なんでよりによって担任である莉子なの?
年も離れてるのに」
モテるとかうんぬん関係ないし。
年とかそこまで離れてなくね?

「別に担任だから好きになった訳じゃないです。好きになるのに理由なんていりますか?」
だんだんムカついてきて、口調が荒くなっていくのが自分でも分かる。

そんな俺にお兄さんはため息をつく。
「俺、一応莉子の身内なんだけど、少しはこび売ろうとか思わないの?」

俺の不機嫌な雰囲気を察知したんだろう。
ぶっちゃけ彼氏だって思ってた人にいきなり兄だって言われて、今だって混乱してる。
今更、お兄さんだからって態度を改めるとか、俺はそんな器用じゃない。

「お兄さんは先生を諦めろって言うために、俺を誘ったんですか?」
俺がそう投げかけたタイミングて、コーヒーを口に運ぶお兄さん。

「苦っ。里巳くん、よくこんな苦いの飲めるね」
「いや」
え、飲めないなら何でブラックにしたの?

「逆だよ」
「は?」
「俺は、里巳くんのこと応援してんの」

応援してる?
あ、さっきの話の続きか。

「それはどういう意味ですか?」
「そのまんまの意味だよ」
そう言ってもう一度ブラックコーヒーを口に運んで、苦そうな顔をするお兄さん。
応援してるって…?

「莉子から、学校とか生徒の話とかよく聞くんだけど」
「はい」
「キミの話をする時はすごくいい表情してるんだよね」


え?


「俺の話?」
「そう。莉子はたぶん、キミのこと好きだよ」

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