先生の全部、俺で埋めてあげる。

咲倉なこ

*45

放課後、図書館に行く。
本も持たず、机に突っ伏している俺を、不思議そうに見ている図書館の人。
でもそんなことはどうでもよかった。

今日も先生は来ない。
ちょっとでも期待した自分がイヤになる。

昨日あれだけ強気に言ったけど、本当は自信なんて全然なくて。
今にも壊れてしまいそうな自分を、保つことに必死だ。
”本気で落としにいく”とか言っておいて、何もできない自分が情けない。


「先生に会いたい」


さっきまで学校で会ってたのに。
ちょっとでも空白の時間ができると、すぐに先生に会いたくなる。

彼氏がいて、先生と生徒って立場で。
俺がどう頑張ったところで、先生に振り向いてもらえるはずなんかないんだ。

今日の俺は昨日の俺がなんだったのかと思えるぐらい、弱気だった。


*

あれから数日がたって12月に入った。
吐く息が白い。

相変わらず図書館には来ない先生。
俺がいるから来ないのかな。
まあ、それしかないよな。

毎日毎日、用もないのにこんなところで先生のことを待って。
先生の授業の準備をする場所を俺が奪ってしまってる。
そのことに罪悪感を覚えつつも、何より先生と全然話せていない現状が辛かった。

来ないならいいよ。
俺にだって考えがある。

さすがに用事もないのに自宅に押し掛けるのは、引かれる可能性大だと分かっている。
だから今はやらない。

放課後こっそり職員室を覗いても先生の姿は見えなくて。
部活の顧問もやっていないはずだし。
先生が何処にいるのか分からなくて、学校中を探した。


「いた」

夕焼けのオレンジ色の光が、図書室全体を照らしていて。
そんな夕焼けの光で、あなたがより一層神秘的に見えてしまう。
図書室の中にいるのは先生一人だけ。

「里巳くん…」

先生が俺を視野に入れる。
今の先生には俺はどう映ってますか?
厄介なやつが来たなと思ってますか?
それとも…

「こんなところで何してるんですか?」
「なんにもしてないよ」
そう言って机に広げてある本やプリントをかき集めてまとめる先生。
多分俺が来たからこの場所を去ろうとしているんだろう。

「酷いな。そんなに俺のこと避けないくてもいいのに」
「避けてるわけじゃないよ」
「じゃあ、俺のこと受け入れてくれるんですか?」
「それもできない」
やっぱり先生はいつも俺の気持ちをぐちゃぐちゃにする。

先生と一緒にいるとこんなにもドキドキするのに。
先生は俺の望んでいる言葉を一切言ってくれない。
今、自分がどんな感情でいるのかさえ分からなくなるくらい、ぐちゃぐちゃになる。


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