先生の全部、俺で埋めてあげる。

咲倉なこ

*44 勘違い

文化祭から一夜が明けた。
昨日は先生に自分の気持ちを思いっきりぶつけた。
正直、この想いを伝えるべきではないと思っていたけど、止められなかった。

言葉に出して伝えたら、なんか心が軽くなって。
ずっと霧がかかって見えにくかった視界が、クリアになった気がする。

昨日、先生に対して喋っている自分の声を耳で聞いて、より一層先生が好きだって自覚した。
先生はたぶんだけど、俺のこと意識してくれてると思う。
それがどの程度のものなのか分からないけど。
でも可能性を感じているうちは引きたくないんだ。

それが先生を傷つけることになったとしても。
俺を好きになってほしい。
そう思う俺はごう慢で強欲。

ちょっと前の俺だったら、持ち合わせていない感情だった。
周りがうまく回るなら、自分の感情なんてどうでもいいって思ってたのに。
先生と出会ってから俺は欲深くなった。


学校に行くと、柾木が早速声をかけてきた。
「お前昨日どこ行ってたんだよ、探したんだけど」
「だから保健室だって」
「保健室いなかったじゃーん」
柾木はあの後心配して、他の友達を連れて俺を見に来てたらしい。

「莉子ちゃんにも伝えたんだけど会えた?」
「は?」
こいつが言ったのか。
だから昨日、先生は保健室に来たんだ。

「なに言ったの?」
「なにって、1人でいる俺を見て不思議がってたから、夕惺なら保健室だって」
「お前なー、いちいち伝えんなよ」
「えーなんで?」

余計なことしたおかげで先生に変なことろを見られた。
その後の先生の反応は自分でも想像できなかったことだけど。
でも柾木のおかげでそのことに気づけたのも事実。

「先生とは会ってねーよ」
「そっか」
ふーんと言って席に戻って行く柾木。
チャイムが鳴ってみんなが席についた。


教室に入ってきた先生は相変わらずの凛とした立ち姿で。
いちいち胸が騒ぐ。
昨日のことがあったから、きっと目も合わせてくれないだろうと思っていた。
どうせまた避けれるんだろうなって。
前にキスした時だってそうだった。

それなのに、先生は真っすぐ俺を見た。


時間が止まる。
音が消える。

先生と目が合った瞬間、全身が心臓になったみたいにドキドキする。
多分時間にすると1秒もたっていない。
それくらい短い時間。
だけど俺は、もうずっと目が合っている錯覚に陥る。

俺がどうあがいたところで、俺が先生に惚れている時点で、俺の負けなんだ。
そう実感した。


先生はどういうつもりで俺を見たんだろう。
目が合うだけで、こんなにも俺の気持ちを持っていく先生には、一生勝てる気がしない。

俺を異性として見てくれてるってことだろうか。
それとも昨日の俺の挑発に、負けないとでも言いたかったんだろうか。
いや、俺を見たことに深い意味なんてないのかもしれない。

考えても考えても、先生の気持ちなんて何一つ分からなくて。
いつも一人で空回る。

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