先生の全部、俺で埋めてあげる。

咲倉なこ

*38

手持ちのチラシを配り終えたところで、自分のクラスの屋台へ戻る。
すると大行列で、俺を見つけた柾木は
「お前も早く手伝え!」
と、今度は接客をさせられる。
だから苦手なんだよな、接客とか。

「400円です、ありがとうございます」
店番はなかなか忙しかった。
やっと次の店番のやつらが来て、交代した。

「夕惺、どこ行く!?お化け屋敷!?」
柾木は今にもスキップをする勢いで聞いてくる。
「俺クレープ食べたい。自分で作るから待ってて」
「え、夕惺って甘いもの好きなんだ?意外なんだけど」
「好きって程でもないけど」
ずっと甘い匂い嗅いでたら食べたくなるじゃん。

「じゃあ俺の分も作って!」
「ヤだよ、自分でやれよ」
「ケチ―」

柾木はほっぺたを膨らませてブーブー言ってる。
そんな柾木は無視して、バナナの上に生クリームとカスタードたくさんのっけた。
「げー、めちゃくちゃ甘そう」
「うるせー」

俺がクレープを作ってる途中で、
「あれ、柾木くん達まだいたの?」
クラスの様子を見に来た加ヶ梨先生と目が合った。
今日初めて目が合ったのに、先生はすぐ逸らしてしまった。
俺は自分でも気が付かない間に、そんな先生をずっと見ていてハッとした。

「夕惺がクレープ食べたいって言うからー」
ダルそうに答える柾木。
「先生も食べます?」
「はー?俺には自分で作れって言ったくせに、先生には作ってあげんの!?おかしくない?!」

うるさいなー。

「食べるか聞いただけなんだけど」
「じゃあ、お言葉に甘えて柾木くんに作ってもらおうかな」
「え、先生まで?!先生も俺をいじんの!?なんなの!?」

柾木は理解できないと頭を抱えた。
そんな柾木を見て、先生はめちゃくちゃ笑ってる。



先生。

俺、ちゃっと普通の生徒っぽく先生と喋れてますか?
今の俺には普通が全然分からないから、ちゃんとできているのか不安なんだ。


結局、柾木の分も先生の分も俺が作って。
職員室に戻ると言っていた先生と一緒に校内を歩いた。
こうやって、生徒として隣を歩けるんだから、贅沢は言ってられないんだと思う。
1人余計なやつはいるけど。

先生と2人きりで、堂々と文化祭をまわれたらな。
そんなことを思っても、どうせ叶わないのは分かってるのに。

「ちょ、俺トイレ!」
トイレの前を通ったときに柾木がトイレに行って。
柾木は自分のクレープを先生に渡した。
クレープを受け取った先生も一緒に待っていてくれる。

「柾木くん、ずっとあの調子なの?」
「割と」
「大変ね」
先生は笑って、俺を見た。
なのに、またすぐに目を逸らす。

なんで?

それがすごくよそよそしく感じて、胸がザワザワした。

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