先生の全部、俺で埋めてあげる。

咲倉なこ

*30 こんなことになるなら

今日は土曜日。
外が台風で吹き荒れているのを見ると、学校が休みで心底よかったと思っている。
先生は今頃どうしてるかな。
風邪、ひいてないかな。
頭の中は常に先生でいっぱいだった。

あんなことして引かれたよな。
どうしてあんなことしちゃったんだろう。
今更あがいたってしょうがないのに。
そんなことばかり考えてしまう。
でも、あの時の先生はすごくキレイで。
ずっと俺の腕の中に納めていたかったんだ。


気が付くと、またいつの間にか寝ていた。
次起きたら夕方で、丸一日寝ていることに驚いた。
身体も重たくて。
寝すぎのせいだと思っていたけど、ちょっと熱っぽい。
どうやら風邪を引いたみたいだった。

本当に風邪をひくなんて、最悪。
トイレのついでに鏡を見ると酷い顔で。
先生に噛まれた唇の傷を見ると、やっぱり夢じゃなかったんだ、って実感した。

痛かったけど、先生が俺に残した傷。
そう思うと一生治ってほしくないと思う俺は、やっぱりちょっとおかしいのだろうか。

友達や女子からのLINEも全部無視して。
休日はずっと家に引きこもっていた。



月曜日。
ずっと寝てたおかげで、体調は少しマシになった。
まだ少しぼーっとするけど。
朝学校へ行く準備をしていると、そこで初めてブレザーがないことに気が付いた。

先生の家に忘れてきたんだ。
しょうがないから、ブレザーなしで学校へ向かう。
学校に向かう途中で柾木と会った。

「お前ブレザーは?」
いつも気づいてほしくないところに気づく柾木。
まあ、目立つよな。

「ほんとだ、忘れた」
俺はいつものようにとぼけてみせる。
「まじ?てかお前顔色悪いけど、大丈夫か?」
俺のブレザー貸すよ?と柾木は続けた。

もう、ブレザーがどうとか俺にはどうでもよくて。
金曜日、無理やりキスをした日から始めて先生と顔を合わす。
どんな顔をして会えばいいのか、俺には到底分からなかった。



学校についてHRが始まった。
教室に入ってきた先生は、いたって普通だった。
まるで、あの日の出来事なんて取るに至らないことと言われているようで。
それはそれで辛かった。

ブレザーのこと、先生は気づいてくれてるのかな?
俺はこんなにも先生のこと見てるのに。
結局、丸一日先生とはろくに目も合わなくて。
避けられているのは明らかだった。

当たり前か。
生徒が先生にあんなことして。
彼氏いるのに無理やりだったし。
自業自得だよ。

先生は授業中ずっと咳をしていて。
「先生風邪?」
女子生徒が聞いていた。
「うんん、大丈夫」
きっと大丈夫じゃないんだろうなって、なんとなく思った。

「先生も風邪かな。流行ってんのかな」
って柾木は俺に向かって言った。

結局先生にも風邪を引かせてしまった。
先生が辛いときに寄り添ってあげることもできない。
彼氏に看病されてんのかなって思うと、どうしようもなく虚しくなった。

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