先生の全部、俺で埋めてあげる。

咲倉なこ

*19

7月も後半になってきて、もうすぐ夏休みに入る。
じりじりと照り付ける太陽が肌を刺激する。

夏休み中は先生に会えないのか。
それなら一層のこと夏休みなんてなくなればいいのに。

いざ先生を好きだと自覚すると、その想いは加速するかのようにどんどん強くなっていく。
ただ名前を呼ばれるだけでも。
ただ目が合っただけでも。
先生のこと、好きだなって実感する。


今日は三者面談の日。
だけど俺の両親は来ない。
そのことは先生も知ってると思ってたのに。

「あれ、里巳くんの親御さんは?」
先生は天然で言ってるのか?
「俺の親、今海外で仕事してるんで」
「え!?そうなの!?」
どうやら前任の先生と引き継ぎがうまくできてなかったみたいだ。

「ご飯とかどうしてるの?」
「家政婦さんが来てくれるんで」
「そうなんだ…」
先生はなぜかショックを受けてるみたいだった。

「寂しいね」
「そんなことないです」
「強がっちゃって」
「強がってません」
子供扱いしないでほしい。
俺だってもうすぐ大人になるんだから。

「困ったことがあったら先生に言ってね。なんでも相談にのるから」
「なんでも?」
「うん。何かある?」

「いえ、特に」


先生に好きになってもらえるにはどうしたらいいですか?

どうやったら俺を男として意識してくれますか?

心の中では先生に聞きたいことが山ほど浮かぶのに。
どれも口にできない自分がもどかしい。


「里巳くんは進路はどうするか考えてるの?」
「特に何も。なんでもいいです」
ぶっちゃけ将来何になりたいとか、全然わからない。
「里巳くんの今の成績なら、ある程度大学は選べると思うんだけど」
何か将来なりたい職業とかないの?って先生は続けた。

「ないです」
本当に何にも思いつかなくて。
そんな俺に先生は眉を下げた。

「先生はどこの大学行ってたんですか?」
「私はここの大学だけど」
たくさんの資料の中から1つの大学を指さす先生。
「じゃあ、俺もそこに行きます」

「え、待って?もっとちゃんと考えよ?」
「俺もここがいいです」
先生の指に、当たるか当たらないかの距離に自分の指を置いた。

「じゃあ、とりあえずそう書いとくけど、もし気持ちが変わったら言ってね?」

先生は俺が適当に言っていると思っているのだろう。
確かに将来何になりたいとか、どこの大学に行きたいとか全然分かんないけど。
でも先生が通ってた大学だったら行ってみたい。
先生がどんな景色を見てどんな環境で過ごしてきたのか、俺もこの目で見てみたい。


「他に進路や勉強のことで聞きたいことある?」
「じゃあ、先生は夏休み、何してますか?」

俺の質問に、先生はちょっと驚いた顔をした。
それもそうだ。
進路や勉強と何も関係ないんだから。

「残念ながら教員は夏休みとかなんだよね」
「そうなんですか?」
「そうなの」って先生は笑う。

「俺、夏休み中も多分図書館に行くんで、またおもしろい本あったら教えて下さい」
「わかった、考えておくね」

俺はただ、先生と会う口実が欲しかった。
これでまた夏休みも先生と会える。
そう思うと、嬉しくてしかたがなかった。

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