先生の全部、俺で埋めてあげる。

咲倉なこ

*18

そう気が付いた瞬間、顔がみるみると熱くなって、耐えきれずに先生から目をそらした。
そんな俺を横目に、先生は言葉を続ける。

「私に気を使わなくて大丈夫よ。里巳くん優しいのね」
気を使う?

俺が先生だったら付き合うって言ったこと、気を使って言ってると思われてる?
先生と生徒だから?
それとも年齢が離れてるから?
別に気を使ったわけじゃないんだけど。

「先生っていくつですか?」
「女性に年齢聞いたらダメだって教わらなかった?」
「じゃあ干支はなんですか?」
「それ計算したら分かっちゃうじゃない」
「先生は若いですよ」
「年齢知らないのに?」
「だって教えてくんないんだもん」
なかなか教えてくれない先生に、俺はちょっといじけたように言う。

「7こ上だよ、君たちより」
先生は仕方ないなーって顔で、しぶしぶ教えてくれた。
「24」
「こらー、はっきり言うな」
せっかくごまかしたのに、って言いながら先生はちょっと楽しそう。

「7つなんて全然許容範囲です」
「だから気を使わなくていいって」
気なんて使ってない。

「だって、里巳くんが小学一年生の時私中学生だよ?」
って言いながら先生は笑う。
もう俺が何言っても、”気を使ってる”って言われて処理されるのが目に見えてしまった。

相手にされてないんだな俺。
なんか、虚しい。


俺は、ずっと俺に告白してくる女子を少しバカにしていた。
俺のこと何も知らないくせにって。
その好きは所詮その程度のものだろって。
振られるたびに思った。

でも今の俺も、俺に告白してくる女子と同じ。
先生のこと何も知らないのに好きになって。
ちょっとバカにしていたあいつらの気持ちが、今は少し分かるような気がする。

あいつらもこんな気持ちだったんだって。
好きな人に相手にされていないって分かった時の空虚感。
胸が苦しくて、痛い。

でも。
それでも、先生が”両想いだったかもね”って言ってくれて。
例え冗談だとしても、俺は嬉しいと思ってしまったんだ。




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