先生の全部、俺で埋めてあげる。

咲倉なこ

*17

「先生、のぞき見なんて趣味悪いですね」
「のぞき見なんてしてないわよ、花に水やりしてただけ」
気づかない里巳くん達が悪いんだよ、って先生は続けた。

「里巳くんってモテるんだね」
女子が恋バナに花を咲かせるかのように、弾むようなトーンで聞いてくる先生。
「そんなことないですよ」
「謙遜しちゃて。よく女子生徒からも聞くわよ、里巳くんかっこいいーって」

なんだよそれ。
そんなこと言われたって全然嬉しくないんだけど。
せっかく先生が話しかけてくれてるのに、すごくモヤモヤする。

「でもあの子すごく可愛かったのに、断るなんてもったいない」

もったいない?
「じゃあ先生は相手のこと何も知らないのに、好きになれますか?」
「そう言われると、そうね」
ほらやっぱり。

でも先生は納得しながらも言葉を続けた。
「だけど、私も同級生に里巳くんみたいにかっこいい子がいたら、好きになってたかも」


まただ。
音が消える。


先生は無邪気な顔で俺に笑いかけている。
自分の心臓が強く、大きく波打つのが分かる。

先生は何言ってんの?


「こっちの気も知らないで」

「え?」

この間の校外授業の時といい、先生はどういうつもりで言ってんだよ。



「俺も先生に告白されたら付き合います」



気がづいたらもう口走っていて。
自分で言った言葉に自分が一番驚いた。

なぜか俺は、先生に対して勝手に体が動く。
勝手に口が動く。

何言ってんだよ。
これじゃまるで…

「あら、同級生だったら両思いだったかもね?」
先生はまたあの笑顔で笑う。


同級生だったら───。


同級生じゃなくても俺は…。


この時、俺は初めて先生に抱いている感情がなんなのか分かった。
多分、初めて会った時からずっとそうだった。


先生を見ると高鳴るの鼓動も。

先生が笑っていると、嬉しくなる気持ちも。

先生が優しくしてくれると胸がギューッと締め付けられるのも。



全部全部。



俺は、先生が好きなんだ。




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