先生の全部、俺で埋めてあげる。

咲倉なこ

*16

月が替わって7月になった。
晴れの日が続いているなと思ったら、いつの間にか梅雨が明けていたらしい。

校外授業の後、数人の女子に告白されたけど、全部断った。
いつもは来るもの拒まずの俺が断るなんて、柾木には不思議がられたけど、もう面倒はごめんだからと言った。

そして今日も手紙で中庭に呼び出される。
行ってみると、1年の時に同じクラスだった女子だった。
その時も結構しつこく話しかけてきて、めんどくさい奴だったよな。
なんて当時の記憶をたどる。

「私ね、ずっと前から夕惺くんが好きだったの」
「うん」
「だから私と付き合って下さい!」
「ごめん、付き合えない」

俺は誰から告白されたって答えは同じ。
断ると、その女子はその場で泣いてしまった。
泣かれると、どうしていいか分からなくなる。

「ごめん」
とりあえず謝ってみたけど
「謝らないでっ…」
って言われる。

じゃーどうすればいいんだよ。

「俺、行くね」
どうすることもできない俺は、そう言って告白してきた女子を置いて、教室に戻った。

後味が悪い。
女子に泣かれるのは苦手だ。
もう誰も俺に関心なんてなくなればいいのに。



放課後、もやもやとさっきの告白を引きずりながら図書館へ向かった。
前に先生がおすすめって言っていた作者の本を選んで席に座る。

先生キッカケで少しだけ本の良さが分かった気がする。
先生は"夢中になれる本が好き”って言ってたけど、なんとなく言いたいことが分かった気がした。
本を読んでいる間は、余計なことを考えなくてもすむ。

それに先生が好きって言っている本を読んでると、先生の頭の中を覗いているみたいで。
ちょっとだけ先生を分かった気になれて、嬉しかった。

「里巳くん、それ読んでくれてるんだ?」
本を読み進めていると、声をかけてきたのは加ヶ梨先生だった。
先生を見ると嫌だった気持ちがあっという間にどっかに飛んでいくから不思議だ。

「これ、結構面白いです」
「でしょ?勧めてよかった」
そう言いながら、いつもだったら俺の正面に座るのに、今日は隣の席に座った。


え?


「今日、私見ちゃった」
先生はなんだか嬉しそうに小声で話し始める。
「何をですか?」


「里巳くんが告白されているところ」


見られてた?
今日のあれを?

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