先生の全部、俺で埋めてあげる。

咲倉なこ

*15 両想いなら

自分の家に帰ると、俺はリビングには行かずそのまま自分の部屋に入った。
両親は仕事で海外に赴任中。
週に数回、家政婦さんが掃除や炊事をしにくるぐらいで、今はこの広い家で俺一人が生活をしている。
そのまま俺はベッドへ倒れ込むように横になった。


”夕惺のこと愛してる”


先生の声が、何度も頭の中で再生される。
先生にはご飯もしっかり食べてと言われたれど、全然食欲がない。
まだ意識がボーっとするのは、貧血のせいだろうか。

昔から体調が悪い時も、一人でいるのは慣れていたけど、今日は少し寂しく感じた。



朝起きるとやっぱり食欲はないものの、学校を休むほどでもないと思って、制服に着替えて学校に向かう。
教室に入ると、みんなが俺に気づいていっせいに近づいてきた。

「お前大丈夫なのかよ!?」
一番に声をかけてきたのは柾木。
きっと昨日倒れたことが噂となって大きく広がったんだろう。
「なんのこと?」
「は?とぼけんなよ、昨日倒れたんだろ?!」

大げさだな。

「昔からたまにやるんだよ。もう平気だから大丈夫」
人をかき分けるように教室に入って自分の席に座った。

「俺、そんなこと聞いてない」
「言ってないから」
「またしんどい時は言えよ?倒れる前に!」
「分かったから」

なんか。
朝からみんなに囲まれて変な気持ちだ。

チャイムが鳴って先生が入ってくる。
先生は俺を見てホッとしたかのように笑った。
「出欠取ります」
そう言って先生はひとりひとり点呼をとる。


”夕惺のこと愛してる”


そう言った先生の言葉が、また脳内でフラッシュバックした。



休み時間になって、先生がわざわざ俺の席まで来た。
「もう大丈夫なの?」
「はい、昨日はありがとうございました」
「ほんとにー?無理してない?」
って先生は俺の顔を覗き込んでくる。

「無理してませんよ」
「朝ご飯はちゃんと食べたの?」
「はい」
「何食べた?」

「えっと…」
「ほら!ちょっと職員室来て」

大丈夫だって言ってんのに。


職員室につくと、先生の机の上に無造作に置かれていたコンビニの袋からパンとゼリーを出して俺に渡してきた。
「え?これって」
「少しでもいいから食べて」
「でもこれ、先生のなんじゃ…」
「お昼用に買ったやつだし、また買いに行けば大丈夫だから」
「でも…」
「ぶつぶつ言ってないで、食べなさい」
「…はい」

先生はパンの袋を開けて俺に渡してくる。
ここ座ってと先生の椅子に無理やり座らされた。

「また、具合悪い時はすぐに言ってね。倒れる前に」
誰かさんと同じようなセリフ。
「分かりました」
俺が返事をするといつもの笑顔で笑う先生。

俺は昨日のことを思い出すと、なんだか恥ずかしくて。
俯いて顔を隠した。

そんな俺とは対照的に、先生はいつも通りで。
なんか、ちょっとだけ虚しかった。


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