異世界の死の商人

ワナワナ

第四十四話 徹夜

 2日ほど経った。いくつかの友好国は消えたらしく東の大帝国はこれまでの相手とは格が違うことが分かる。『連合王国は未だに帝国の非難声明を無視し海峡に海軍を派遣しており……。』

「私がいない間に随分仲良くなったわね。」

 アイスは淡々と事実を述べた。

 今は夜遅くで百希は寝落ちしてしまった。彼女の華奢な体が俺に寄りかかっている。彼女にはハンデを貰ったのに負けそうになった。正直眠ってくれてほっとした。俺は百希が起きないようにそっと新聞を置く。

「チェスをしてただけだよ。」

「チェスは普通対面でやるわよ。」

 彼女はそう言って反対に座る。始めはルールを知らなかったがこの世界にも似たようなゲームがあるのかすぐに覚えてしまった。

「そっちは百希が動かしてた。」

「ユータ、百希さんは反対から遊んでいたのよね?」

 アイスは自陣の優勢な状況を見て俺に確認してきた。俺は頷く。少し彼女をからかうか。

「アイス、ここから勝負してみない。」

「……本気で言ってるのよね?ここから勝つつもりなの?」

 彼女は絶対に自分が勝つと思っているのか俺の心配までしてくる。

「もちろん。」

 時が進むにつれて自軍の状況は劣勢から優勢に変わる。彼女がこの盤面の変化に戸惑っているうちに更に変化していく。

「チェック。」

 アイスは何とかキングを逃がそうとあたふたするがそれが可愛くてつい逃げ道を作ってしまう。だがそれも何度かすると終わってしまう。

「チェックメイト。」

「……王が変わるとこうも違うものなのね。」

 彼女が女王だったらと考えると似合わなかった。そんな未来はありえないだろう。そんな事が出来るタイプではない。

「何でこんな時間まで起きてたの?」

「……なんでかしらね。でもお互い様よ。」

 結局答えないのはずるい気もするがそれ以上は聞かなかった。

「それよりもう一戦しましょう。」

「?まぁいいけど……。ハンデは。」

「必要ないわよ。私は絶対に勝てるから。」

 何故彼女がここまで強気になるかはよく分からないがとりあえず勝負してみる。あれ普通に勝った。でも彼女にはまだ勝つという確信があるように見える。

「俺の勝ち、もう勝負はついたし寝よう。」

「もう一戦よ。」

 ……そういう事か。彼女は勝つまで続けるつもりだ。これから四回負けようと五回負けようとただ最後に一勝すれば良いと……眠くなってきた。

「アイスだって眠いだろうから明日に……。」

「コーヒーを入れてくるわね。」

 砂糖を入れたコーヒーを彼女は持ってきてくれた。

「苦手だったかしら?」

「……ありがとう。」

「まだ寝かせないから覚悟しなさい。」

 もう俺は説得することを諦めた。彼女の性格からして俺がわざと負けても認めないだろう。ただ最近話せていなかったからこんなことも良いかもしれない。



 





 徹夜というものはどうしても慣れない。体調は崩すし能率は上がらないしメリットはよく分からない。

「37.5℃、風邪かな。」

 百希が体温計を見ながらそう告げる。彼女がベットに座っているから見上げて表示を見せてもらう。

「ユータ様……夜ふかしはしたらだめですよ。」

 ミーラの心配で申し訳なくなってくる。俺が風邪になった理由はとてもではないが話せない。

「そうだね。僕が眠ったあとに一体何をしてたんだい?」

「それは……まぁ色々。」

 俺が言い訳を考えているとノックの音がしてドアが開く。ここに三人いるから残りは俺と夜ふかしした彼女しかいないだろう。いつもより眠そうなアイスは何も言わずに俺のおでこに手を当ててくる。彼女は外出する気はないのかラフな服を着ていた。

「……私に責任があるから私が看病するわ。」

「うつるから良いよ。一人でも大丈夫。」

 ミーラは心配なのか最後まで残っていたが俺が説得して納得してもらった。不満でまだ何か言いたそうだったがひとまず不幸の連鎖は防ぐ事が出来た。














 こうして一人になる時間もたまには悪くない。窓の外から見える港が俺の心を落ち着かせてくれる。そろそろ準備は整いつつある、あとは先送りせずに行動するだけ。しっかりと鍵をかけてあるからみんなも気づいてはない。懸念材料はミーラは受け取ってくれるかどうか大丈夫だと思うけどそれでも怖い。

 そんなふうにひたすら考え続けていたら窓の外が暗くなっていた。ベットから這い出て何とか窓を開けて空気を入れ替える。……今日は満月だったのか。

「僕だけど入ってもいいかい?」

 彼女はそう言うが俺の返答を特に待たずに入ってきた。良いのかそれで。

「……君って人は……寝ないとだめだよ。」

「大丈夫。」

「僕は何がどう大丈夫なのかは知らないけど……夕食は食べれそうなのかい?」

「……ちなみに誰が作ったの?」

 普段はアイスか俺だがこういう日は俺のことを心配してくれる誰かが本気を出してしまう。何で料理ができるかって?死にたくないだろ。

「ん?ミーラさんだね。」

「…………食べれそう。」

 百希は恐らく彼女の腕前を知らないんだろう。場所や材料、作る料理にもよるが……いややめておこう誰にでも得手不得手はある。

「それより百希、何で俺が風邪になってるの?」

「命に別状がないのは特性の対象外にしたんだ。君にはその方が良いと思ってね。」

「……言ってくれれば良かったのに。」

「……ごめんね。でもこうでもしないと君は僕に言ってくれないから。」

 彼女から見れば過去の俺は一言も相談がなく死んでしまったようなものなんだろう。だから今こうして彼女は俺に自分が受けた痛みをだいぶ和らげて教えてくれている。

「百希、今ちゃんと相談するよ。この星に隕石が当たるかもしれないって本当?あの人に言われたんだ。」

「僕が指を鳴らすだけでその問題は終わるよ。心配しないでも大丈夫だよ。あと二百年は先の話さ。」

「先送りはしたくないんだ。そしてもう一つ。」

「なんだい?」

「技術的特異点を使わないでこの問題を解決したいんだ。」

「えっ……君は本気で言ってるのかい?」

「百希も薄々分かっているでしょ。それを使ってもつまらないし、俺の過去を否定しかねないと。」

「……それはそうだけど……ここにチョコがあるから前に約束したポッキーゲームで決着をつけるのはどうかな。」

 俺はだいぶ戸惑ったが了承した。風邪がうつるかもと一瞬思ったが彼女に限ってそれはあり得なかった。

 

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