異世界の死の商人

ワナワナ

第四十ニ話 よくある二択

百希としばらく食べ歩きしながら街を散策する。帝国の文化なのか俺たちと同じように手をつないだ人達もちらほら見かける。



「君の串焼きちょうだい。」



「あ、全部あげるよ。」



 俺は彼女に串ごと渡す。やっぱり彼女には素直になれない。本当は互いに望んでいたことがあったにも関わらず自らそのチャンスを捨ててしまう。



「……今度はあのお店を見に行こうか。」



「君が意地悪するから僕もすることにしたよ。」



 彼女は二つの小物を手にしている。これからの展開が予想できるが俺には何の問題もない。この質問の対策は知っている。重要なのは対面にすることだ。



「一度はこの質問を君にしてみたかったんだ。君はどっちの方が良いと思う?」



「右かな。」



 俺は一切指をささずに百希の顔を見ながら言葉だけで答えた。主語を一切言わないで具体的に示さないことが大切だ。百希は右手で持った小物を見てそれからこう言う。



「そうかな?でもこっちの方が僕は良いと思うよ。」



 百希はそう言いながら自らの左手で握った商品を俺に見せる。



「違うよ、俺の方から見た右。」



「えっ、君もやっぱりそう思うの!」



 所詮二分の一だ。どうとでもなる。ちなみにミーラには真面目に答えて下さいと言われた、ただ彼女は全く罠に気づかずに心理的洞察力だけで俺の適当さを見破ったのは流石だ。アイスはその場で喜んでから後で首をかしげていた。このトリックはまだ見破られていない。



「どうかな?似合ってる?」



 彼女は俺が小物と思っていたヘアピンをつけて俺に見せてくる。随分と嬉しそうで少し申し訳なくなってきた。でもそれが彼女に似合っているのもまた事実だ。



「……良いと思う。」



「えへへ、ありがとう。」



 恋は人を馬鹿にしてしまう。普段の彼女ならすぐに気づいた筈だ。

























 この帝都から太陽を見ると新大陸と時差があることが実感できる。眠くなってきたのにまだ夕方だ。



「君は次、どこに行きたい?」



「……どこでも良いから座れる場所。」



 お互いに体力がある方では無いがすでに何店も回っているのに今日の彼女は疲れを知らなかった。



「えーもう疲れたの?なら少し早いけど宿に泊まろう?」



「泊まる……あれ百希の瞬間移動は一日一回とか制限があった?」



「無いよ。ほら立って早く行こう。」



 途中まで主導権を握っていたのに気づいたら逆転されている。俺は百希の手を取って立ち上がる。そして数分歩いて目的地に到着する。



「百希、ここに泊まるの?」



 俺は建物の外観を見てそれから財布を確認する。足りるだろうか。入っている硬貨を数えると足りないことが容易に想像できる。



「珍しいね君の手持ちが少ないなんて。」



「ごめん百希、もう少しグレードを落としてくれると……。」



「謝らないで良いよ。むしろ僕が一言言うべきだったね。」



 結局取れたのはもっとベッドも部屋自体も小さい所だった。しかしおかしい普段は金貨を一枚財布に入れるようにしていた筈だ。























 部屋にはダブルベッドしか無かった。そしてそこを百希が占有する。大の字で寝ていてどこにも俺の場所がない。



「百希……?どいてくれない?」



「君が最初に別々の部屋とか言うからだよ。」



 俺は黙って床にクッションを並べ始める。ベッドが二つの部屋を取るべきだったがもう後の祭りだ。彼女の策略にはまってしまった。



「そんなことしないでも僕の上で寝れば?」



 この奴隷は俺が出来ないことを分かって、からかうつもりだ。ただここで交渉しようとしまいと最後には場所を開けてくれるだろう。ただこのまま彼女の予想通り行くのもつまらない。彼女は起き上がってこちらを見ている。



「まだ百希も俺も眠れない。」



「そ、それって……。」



「その前に体を洗わないといけない。」



 百希の顔が一気に赤くなる。何を想像しているか手に取るように分かる。ただ俺は普通に体を洗うという至極当たり前の事を言っているだけだ。彼女がこの状況を深読みして勘違いしても俺は悪くない。



 彼女は下を向いてパニックになっていた。



「……分かったよ。君が素直になるなんて滅多にないからね。」



 百希がそう言って急いで部屋を出る。これでベッドが空いた。自分の才能が恐ろしく思えてくる。勝ったな風呂に入ってくる。



 そう思った矢先に百希が戻ってきた。



「え?百希、何で?」



「この宿はお風呂がないって……。」



「それでこの桶とタオルで体を拭くって言ってたよ。」



 女子のお風呂は長いから先に眠るつもりだったのにもう破綻してしまった。結局流されて百希と二人で座る。



「これ、君の分のタオル。」



 礼を言いながらどうするか考える。あれ、このままだとこの部屋で服を脱がないとならないのでは?俺が勘違いさせた未来が差し迫る。こ、これが策士策に溺れるか。



 仕方ない金はあるし何処か別の宿屋に……無いんだった。そんなことを考えている間にも百希が一枚また一枚と脱いでいく。



「その恥ずかしいよ……。」



「あ、ごめん。」



 魅入られてしまった。後ろを向いて極力見ないようにする。後ろから衣擦れの音が聞こえる意識しないようにすると逆に意識してしまう悪循環だ。俺は自分の服を脱いでなんとか意識を逸らそうとする。



「せっかくだから背中を拭いてくれないかな?」



 彼女は恥ずかしくないのだろうか?俺はすぐ後ろの景色を想像すると鼓動が早くなる。彼女のタオルが俺に触れる。



「ほら、早く。」



 やっぱり羞恥心は無いのだろうか。それとももう吹っ切れて行くところまで行く気なのか。彼女の気持ちが気になって仕方がない。ロングヘアの黒髪に触る。本当に服装、髪型、シチュエーション何でも変えて試すから時々こんな中途半端な関係でいることが申し訳なくなってしまう。



「あれ、まだかい?」



 手が止まっていた。俺は促されて初めて彼女の背中を拭く。ただそれだけの行為がどうしても長く感じられた。



「百希は緊張してる?」



「僕は驚きと喜びのほうが強いかな。」



 混乱して何を話せばいいか分からなくなってしまった。俺と彼女は服を着て並んで寝る。だめだ俺らしくない。普段よりも流されてる。いや幻滅されることを恐れているのか?でも罪悪感が最後の最後に勝る。前もそうだった。



「……百希、さっき言ったことは言葉通りの意味しかない。俺がわざと勘違いさせたごめん。」



「僕のことをからかうつもりなら無駄だよ。」



 彼女の方がこういう駆け引きでは上手だった。あくまでも俺の嘘を本当にするつもりだ。



「あと、ごめんねこの金貨を返すよ。いくら君と一緒の部屋がいいからってここまですることは無かったね。君のことをもっと信じるべきだった。」



 ん?って事は俺も策略にはめられていたのか。全く気が付かなかった。



「……百希、そういえば仕事があったから先にそれをやるよ。」



「…………まぁ良いけどさ。どうせ君が召喚するだけだよね。」



 こうまでして現状に留まろうとするのは俺の性格だろう。ひたすら決断を先送りして保留して……何故俺は必要に迫られない限り立ち止まるのか。答えは分からない。



「この書類に基づいて必要なものを召喚せよ。」



 ただ眠る。この行動が後の原因になるとはこの時には全く分からなかった。


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