異世界の死の商人

ワナワナ

第四十一話 好景気

たくさんの人々が新大陸のゴールドを目指して移住している。ここはニューフロントア、新しく作られ始めた都市だ。今は町という表現の方が適切かもしれない。


「とうとう二号店を開けるなんて……。」


「ユータ様……感動してますけど前のお店って儲かってましたか?」


 お店の外装は西部劇風にしてある。だから冷静なツッコミを無視できるくらいロマンに溢れている。


「聞こえてないわね……でもいい趣味よ。」


「商売です。」


「聞こえてましたね。」


 そう押し通す。断言することが大事だ。今はみんながお金を持っているから売れるかもしれない。


「今、僕らは海運業が本業になりつつあるけどね。」


 百希静かに……最初は一隻だったがワトソン級車両貨物輸送艦を三隻、マーシー級病院船を二隻追加して計六隻で現在は運用している。突然の需要の急拡大に俺も戸惑ってはいる。


「外海だから競争相手もいないし良いわね。」


「うん、でもそれより言わなければならないことがある。」


「どうかしたんですか?」


 暑いからかミーラは麦わら帽子をしていた。おかげで猫耳が見えない。今日の彼女の機嫌は少し分かりづらい。


「ここにあるのはコルトシングルアクションアーミー。西部開拓時代から使われてきた素晴らしい銃器です。どうですか奥さん、一人に一丁。」


「「「奥さん!?」」」


「え、いや、今のは宣伝文句というか……。」


「ユータ、どうしたのよ……。熱でもあるのかしら?」


 アイスはおでこに手を当てて本気で心配している。……俺の冗談は確かに分かりづらいけどそんな本気で心配されると何て返せばいいか分からなくなる。


「熱は無いから。」


「僕にもう一回言ってくれない?」


「ポッキーゲームの時に全部やるよ。」


「男に二言はないよね?」


 どうしようあることない事、全てやることになりそうだ。


「…………うん。」


「何その間は!?」


 先延ばしって良くない事だよね。やるけど。百希はこの答えに一応満足したのかそれ以上は追求してこなかった。


「ユータ様……嬉しいですけど神様はいつもあなたを見てるんですよ。」


 信心深い彼女らしい忠告だ。だけど俺は地獄に行くほどの悪いことはしていない。ただここからさらに追求されると分が悪いから話題を変えよう。


「東の大帝国とも不可侵条約を結んで戦争は起きそうに無い。新大陸の富で順調に経済も成長している。ミーラとの約束も果たしたし、不労所得はあるし、もう仕事しないで良いよね。この新大陸に引きこもろう。」


「君もいいこと言うね。ぜひ僕と一緒に百年ぐらい休もう。」


 百希が大真面目な顔でそう言うから笑ってしまった。ただ賛成したのは彼女だけだった。アイスは歯に衣着せぬ忠告をしてきて、ミーラは手を俺の肩に置いて説得してくる。誰も新大陸に引きこもるというワードに突っ込んでくれない。


「あなた駄目になるわよ。」


「そ、そうですよ。何か辛いことがあったなら言ってください。」


「大丈夫、お金ならたくさんあるから。」


 ミーラの目が潤んでしまった。困っている彼女は少し可愛いけどそろそろ譲歩しよう。でないと悲しんでしまう。


「確かに……いや駄目です。駄目です。」


 彼女は首を振って自らに言い聞かせるように言った。彼女は真面目だからやっぱり働いたほうが良さそうだ。


「ユータはさっきから饒舌じょうぜつね。何か良いことでもあったのかしら?」


「…………いや別に。」


「君はいつも嘘をつくときは目をそらすよね。」


 俺は窓の外を見ることをやめてミーラとの目を合わせる。いつもの隠し事とは重要性が格段に違うからなんとか誤魔化さないとならない。


「また何か隠しているんですか?」


「神に誓ってそんな事はしてないです。」


「神様ですか……分かりました。」


 ミーラが大切にしている事を踏みにじるようで申し訳ないが彼女のためでもある。


 さて百希がポストから手紙を二通持ってきてくれた。一通は帝国からだ。古めかしい紙質で王冠と斜線のマークが入っている。


「帝都宝飾品店と帝国から手紙だね。僕が開けていい?」


「……一通は良いけどもう一通は駄目。」


 そして百希は俺の意を汲まずにまずい方の手紙を開けようとする。


「百希、デートしに行こう今すぐ。」


「へ?」


 多分人生で二番目に早く彼女を連れ出した。そこでさり気なく宝飾品店の手紙も回収することが出来た。


「ええ待って、待って、僕の心の準備が。」


 彼女は強引な俺に流されて結局ついてきている。俺のこんな態度は珍しいからか彼女は深呼吸して心を落ち着かせていた。












「絶対にユータ様は何か隠してました……。」


「多分この手紙が答えよ。」


 アイスの手元には一通の手紙があった。こちらは帝国からの手紙だ。

「……ユータが仕事したくなくなるのも分かるわ。」

 手紙には帝国本土の交通網の建設が依頼されていた。少し補足をすると、彼が以前に建設したアンテラ山脈のトンネルや新大陸の数々の道路網を一部の貴族や革命軍出身の議員の目に止まって帝国本土への建設の要望を政府に出した。


「でもお仕事を隠す理由はありますか?」


「……確かにその通りね。」


 ミーラがアイスを疑いの目で見ていた。
















「それでどこに行くの?」


 もし彼女の隣に好感度が表示されていたら今は最大値だろうが次の返答次第では急落しかねない。しかし何も決めていなかったのも事実。


「百希は行きたい所はある?」


「ここは何もないし僕は帝都に行きたいな。」


「なら何か召喚して……。」


 そう俺が言いかけたところで百希は左手で髪をくるくるしながら真剣に考えていた。彼女の左手には何も書かれていない。正確には奴隷の目印があるがそれだけ。スキルは何も書かれていない。


「……そういえば僕のスキルを言ってなかったね。」


「僕のスキルは瞬間移動だからすぐに移動できるよ。」


 彼女は俺と目を合わせずにそう言った。俺でも分かる嘘。もしくは冗談。その後彼女は右手を俺の前に持ってきた。最初はその意図が分からなかったが手をつなぐと彼女が微笑む。


「えへへ、君からデートに誘うなんて珍しいよね。」


「僕と君をここから帝都へ移動させよ。」


 まるで誰かに命令するように彼女は言う。俺のスキルとそっくりだ。一瞬、視界が白くなった後そこはもう帝都だった。












 帝都は当たり前だが帝国一の都市だ。故に様々な誘惑も多い。例えば今百希がじっと見ているお菓子なんかまさにそうだ。俺はそのお菓子を2つ買う。


「金貨と銅貨を間違えなかった?」


「……まさか。」


 冗談めかしながら彼女はクッキーを受け取る。なぜ彼女がその失敗を知っているかはさておき、ずいぶんと幸せそうだった。


「百希はどっちが銅貨か分かる?」


 俺は彼女にその二枚を見せてみる。彼女は口をもぐもぐさせながら正解する。


「流石に僕も間違えないよ。」


「それで今日は何するか決めてるの?もし無いなら僕が……。」


 彼女がそこまで言いかけたところで見知った人が話しかけてきた。こんな帝都のありふれた繁華街で何をしているのか。


「よぉ、ユータ。」


「何してるんだ?リベレ。」


「お忍びだから黙っててくれ。」


 そういえば帝都で女性を口説くとかのたまっていたな。行動力が俺とは桁違いだな。百希が俺と腕を組んで存在感を示す。


「国庫にうなるほど金があるから仕事終わったら期待しててくれ。」


「仕事?」


「これ詳細な計画書な、よろしく。ついでに前払えなかった諸々も清算したから確認しといてくれ。」


 これはブラック企業か?だけど報酬はたくさんもらっているし休日の方が多いから意外とそうでもない。


 ただそれよりもっと問題がある。


「あの、百希痛い。」


「僕と仕事どっちが大事なのさ。」


「ちょっ百希だから離して。」


 彼女が俺の腕に全体重をかけてぶら下がる。これで重いって言ったら悲劇が待っている。俺はただ空を仰ぎ見ていた。デートはまだ始まったばかりだ。


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