異世界の死の商人
第四十話 隠し事は良くない
ここは港湾都市の広場だ。海に近いベンチに三人が座っている。目の前で百希がにこにこしながら新聞を広げている。そこには『新大陸に行こう!』ってチープな広告がある。
「じゃーん、金貨五百枚したけど僕らで頑張ったんだ。」
「金貨五百枚……。」
ミーラは目を回してしまって椅子に座っているのがやっとだ。試しに頬を指でつついてみたけど何の反応も帰ってこない。
「思ったより少ないわね。」
「君の実家が協力してくれたからね。」
アイスは知らなかったのか驚いている。彼女はこうやって時々抜けているところもある。
「金貨が五百枚は少ない?私がおかしいですか……。」
今なら何を言っても信じそうなくらい混乱してしまった。最近財布を落としたことを告白するチャンスかもしれない。
「ユータ、さっきから黙っているけど何か隠してないかしら?」
「いやそんなことは……。」
「それって多分僕が見つけたスマホの……。」
急いで百希の口を塞いだ。彼女との距離がいつもより近くなる。しかしどうしよう問題を先送りしているだけで全く解決していない。息が苦しいのか百希の顔が赤くなっている。慌てて俺は手を離す。
「ごめん大丈夫?」
彼女の顔はまだ赤いままだった。
「うん……平気だよ。」
そして彼女はしばらく目を合わせてくれなかった。さっきまで普通に喋っていたのに奇妙な間が生まれる。
静寂を破ったのはアイスだった。彼女は俺の手の甲にデコピンをする。
「何?」
「別に何でもないわよ……。」
俺と目を合わせまいと分かりやすく彼女は拗ねていた。どうやって機嫌を良くしようか考えている間に話題が変わる。
「そういえばこの街は不思議な形をしていますね。三日月みたいです。」
「ここの湾がきれいな円だからよ。湾に沿って少しづつ街が発展していったの。」
近くにあった街の案内図を見てみると確かにそうだと分かる。今まで横からこの街を見ていたから全く気が付かなかった。まるでえぐられたみたいだ。
「この街の地形と教会のシンボルは何か関係がある?」
「私が知る限りでは関係は無いです。」
「そうね……教会が縁起が良いって言って大きな聖堂を立てたくらいよ。」
「あれ……百希さんはどこですか?」
あたりを見回すと彼女が何かを抱えながらこちらに歩いてくる。今は遠くで表情は読めないが俺の勘が何か企んでいると言っている。
「食べる?」
彼女の手にはフライドポテトがあった。特筆すべきこともなく警戒しすぎていた。
「うん、ありがとう?」
「待って、僕良いこと思いついたよ。」
そう言って彼女はそれを引き寄せて俺に取らせなかった。目を爛々とさせていてアイデアの凄さが俺にも伝わってくる。
「ポッキーゲームって知ってる?」
出来るだけ影を薄くしてそっとその場から立ち去ろうとする。このゲームで致命的なのは二人でしか出来ないことだ。そうなると当然俺はいないほうがいい。
「どこに行くんですか?」
流石と言うべきかミーラの目からは逃れられなかった。
「いや、別に……。」
「ユータが恥ずかしそうで百希さんが嬉しそうってことは協力したほうが良いわね。」
「どっちに?」
「百希さんに決まってるわよ。」
アイスはまた楽しそうにしていた。彼女はゲームのルールを知らないからそう言えるだけだから気にしてはいない。問題はミーラが賛成するかどうかだ。
「どんなゲーム何ですか?」
「ポテトを端から二人で食べて先に離したほうが負け。」
「……ずいぶん簡単ですね。」
彼女が意図的に説明を避けた部分があるがミーラは気づいていない。
「そうね……えっ?」
アイスは気づいたようだ。彼女の性格からして参加はしないだろう。
「ユータ、早くやろうよ。」
「私もやってみたいです。」
「ミーラ、このゲームは終盤で……。」
俺が百希にやった事をやり返される。彼女は最後まで言わせなかった。何かこの危機を回避する策はないかな……。
「そうだ、二人でやってみれば。」
言った直後は天才的な気もしたが時間が経つにつれて選択を間違えたことに気がついた。
「へーそういう事を言うんだ……。」
「分かった。今度二人きりの時にやるよ。百希。」
「その言葉忘れちゃ駄目だよ。」
全力でうなずいた。何か間違えた時はリカバリーが大事だ。たとえ問題を先送りにしたとしてもとりあえず今はまずい。
「ところでユータのスマホには何があったのかしら?」
たとえ問題を先送りにしたとしてもリカバリーさえできれば問題ない。この問題は彼女との交渉に応じていないから仕方ない。交渉するとは言ったがいつとはお互いに言っていなかった。
「そういえばユータ様、財布を落としてましたよ。」
だいぶ怖い笑顔でミーラは切り出してくる。彼女はお金には厳しいがこれもリカバリーさえできれば問題ない。
「君って人は……ほら謝ったほうが良いよ。」
「百希、どうにもならない時の俺の行動って予想できる?」
「あっ、アイスさん早くユータを……。」
俺は全力で走った。たまたま海風が追い風になっていつもよりも速く走れた。本当は何か兵器を召喚すべきだったがまぁ追い詰められていたし仕方ない。
「Gravitate」
まおうからはにげられない。
「……すいません。」
さっきとは違う沈黙が訪れた。
あれから真面目に仕事をした。そのおかげで今初めてマーシー級病院船が港湾都市を出港する。奴隷にマニュアルを教えたりチケット販売店を作ったりしたが正直覚えていない。
「どうしたのよ、ユータ。」
「アイス……そうだ航路の認可と桟橋の増設してくれてありがとう。」
「そんな死んだ目で言われても嬉しくないわよ。」
俺は船から水平線を見つめる。彼女は俺の隣に立って話し始める。手にはワイングラスがあるが気にしないでおこう。
彼女はしばらく黙っていた。そして彼女はスキルを使って海から丸い水を浮かばせて話始める。
「記憶のこと?。百希さんから聞いていずれこんな日が来るとは思っていたわ。」
「うん、だいたい合ってる。」
彼女は俺の前まで水球を持ってくると二つに分ける。右側の水球は小さくて左側の水球は大きい。
「知ってたの?」
「ええ私もミーラさんも知っていたわよ。」
彼女は少し声が震えていた。何かドラゴンに立ち向かうかのような覚悟か恐れそんなものを目の奥から感じた。
「これから私はひどいことを言うわ。だから聞き終わったらあなたの気が済むまで殴って。」
「右の水があなただとしたら左のは前のあなた。」
「百希さんとあなたの十九年間の記憶はそれほど多いはずよ。」
彼女は大きな左の水へ赤ワインを注ぐ。その水は上から下に湾曲しながらやがて時間をかけて球に戻った。先程より大きな淡い赤色の水の星が出来ていた。
「ここに右の水を混ぜてもほとんど変わらないわ。」
彼女は右と左の水をスピンさせてぶつける。確かに彼女の言うとおり色は何も変わっていなかった。
「右の水球は透明から色を変えて取り込まれて終わりよ。」
「つまり?」
彼女は心を落ち着かせるために深呼吸する。どれほどの覚悟を彼女は胸に秘めているのだろうか。
「ユータの記憶は取り戻させないわ。どんな手を使っても。」
「あなたが消えるくらいなら私が恨まれた方がずっと良いわ。」
「……そんな思いつめないで良いよ。大した問題じゃない。」
俺は彼女の手を握る。
「大した問題よ。あなたの命に関わるんだから。」
彼女の目が潤む。俺は安心させるように手を強く握った。
「……いや記憶は本当に大した問題じゃないんだ。」
「それよりも俺と彼女が何者かの方が問題。」
「転移者ってだけよ。二人も現れるのは珍しいけどそれだけよ。」
彼女は俺の目を見て更なる真意を問う。こんな真面目で逃げることを許されない雰囲気の彼女は少し苦手だ。ミーラも同じように思っているのだろうか?だとすると少し話すのが怖い。
『…………1ルーブルっていくらだっけ?』
『僕は滅んだ国の通貨何て知らないよ。』
『電気がここに通るとは思わなかったよ……。あの時代から電気の時代だよね。』
まぁ技術的特異点という存在を信じきれるかどうかはさておき、おそらく俺と百希の正体は会話の端々や俺が使える兵器から見るに……。
「アイス、俺と百希は多分自分たちの意思でこの世界へ渡ったんだ。そんなことが出来るって事はきっとここよりはるかに進んだ文明を持っていた。」
「あなたが凄い文明を使ってるのは知ってるわよ。」
「それよりもはるかに進んだ文明があるとしたら?」
「空を飛べて、何百メートルの船を作れるのにさらに求めるの?」
「うん、さらに進める。」
「そんなの想像も出来ないわよ……。」
俺がなぜ記憶を消したのか?おそらくはここと二人だけというところにある気もする。俺なりに考えてそれから百希と答え合わせをしよう。
「じゃーん、金貨五百枚したけど僕らで頑張ったんだ。」
「金貨五百枚……。」
ミーラは目を回してしまって椅子に座っているのがやっとだ。試しに頬を指でつついてみたけど何の反応も帰ってこない。
「思ったより少ないわね。」
「君の実家が協力してくれたからね。」
アイスは知らなかったのか驚いている。彼女はこうやって時々抜けているところもある。
「金貨が五百枚は少ない?私がおかしいですか……。」
今なら何を言っても信じそうなくらい混乱してしまった。最近財布を落としたことを告白するチャンスかもしれない。
「ユータ、さっきから黙っているけど何か隠してないかしら?」
「いやそんなことは……。」
「それって多分僕が見つけたスマホの……。」
急いで百希の口を塞いだ。彼女との距離がいつもより近くなる。しかしどうしよう問題を先送りしているだけで全く解決していない。息が苦しいのか百希の顔が赤くなっている。慌てて俺は手を離す。
「ごめん大丈夫?」
彼女の顔はまだ赤いままだった。
「うん……平気だよ。」
そして彼女はしばらく目を合わせてくれなかった。さっきまで普通に喋っていたのに奇妙な間が生まれる。
静寂を破ったのはアイスだった。彼女は俺の手の甲にデコピンをする。
「何?」
「別に何でもないわよ……。」
俺と目を合わせまいと分かりやすく彼女は拗ねていた。どうやって機嫌を良くしようか考えている間に話題が変わる。
「そういえばこの街は不思議な形をしていますね。三日月みたいです。」
「ここの湾がきれいな円だからよ。湾に沿って少しづつ街が発展していったの。」
近くにあった街の案内図を見てみると確かにそうだと分かる。今まで横からこの街を見ていたから全く気が付かなかった。まるでえぐられたみたいだ。
「この街の地形と教会のシンボルは何か関係がある?」
「私が知る限りでは関係は無いです。」
「そうね……教会が縁起が良いって言って大きな聖堂を立てたくらいよ。」
「あれ……百希さんはどこですか?」
あたりを見回すと彼女が何かを抱えながらこちらに歩いてくる。今は遠くで表情は読めないが俺の勘が何か企んでいると言っている。
「食べる?」
彼女の手にはフライドポテトがあった。特筆すべきこともなく警戒しすぎていた。
「うん、ありがとう?」
「待って、僕良いこと思いついたよ。」
そう言って彼女はそれを引き寄せて俺に取らせなかった。目を爛々とさせていてアイデアの凄さが俺にも伝わってくる。
「ポッキーゲームって知ってる?」
出来るだけ影を薄くしてそっとその場から立ち去ろうとする。このゲームで致命的なのは二人でしか出来ないことだ。そうなると当然俺はいないほうがいい。
「どこに行くんですか?」
流石と言うべきかミーラの目からは逃れられなかった。
「いや、別に……。」
「ユータが恥ずかしそうで百希さんが嬉しそうってことは協力したほうが良いわね。」
「どっちに?」
「百希さんに決まってるわよ。」
アイスはまた楽しそうにしていた。彼女はゲームのルールを知らないからそう言えるだけだから気にしてはいない。問題はミーラが賛成するかどうかだ。
「どんなゲーム何ですか?」
「ポテトを端から二人で食べて先に離したほうが負け。」
「……ずいぶん簡単ですね。」
彼女が意図的に説明を避けた部分があるがミーラは気づいていない。
「そうね……えっ?」
アイスは気づいたようだ。彼女の性格からして参加はしないだろう。
「ユータ、早くやろうよ。」
「私もやってみたいです。」
「ミーラ、このゲームは終盤で……。」
俺が百希にやった事をやり返される。彼女は最後まで言わせなかった。何かこの危機を回避する策はないかな……。
「そうだ、二人でやってみれば。」
言った直後は天才的な気もしたが時間が経つにつれて選択を間違えたことに気がついた。
「へーそういう事を言うんだ……。」
「分かった。今度二人きりの時にやるよ。百希。」
「その言葉忘れちゃ駄目だよ。」
全力でうなずいた。何か間違えた時はリカバリーが大事だ。たとえ問題を先送りにしたとしてもとりあえず今はまずい。
「ところでユータのスマホには何があったのかしら?」
たとえ問題を先送りにしたとしてもリカバリーさえできれば問題ない。この問題は彼女との交渉に応じていないから仕方ない。交渉するとは言ったがいつとはお互いに言っていなかった。
「そういえばユータ様、財布を落としてましたよ。」
だいぶ怖い笑顔でミーラは切り出してくる。彼女はお金には厳しいがこれもリカバリーさえできれば問題ない。
「君って人は……ほら謝ったほうが良いよ。」
「百希、どうにもならない時の俺の行動って予想できる?」
「あっ、アイスさん早くユータを……。」
俺は全力で走った。たまたま海風が追い風になっていつもよりも速く走れた。本当は何か兵器を召喚すべきだったがまぁ追い詰められていたし仕方ない。
「Gravitate」
まおうからはにげられない。
「……すいません。」
さっきとは違う沈黙が訪れた。
あれから真面目に仕事をした。そのおかげで今初めてマーシー級病院船が港湾都市を出港する。奴隷にマニュアルを教えたりチケット販売店を作ったりしたが正直覚えていない。
「どうしたのよ、ユータ。」
「アイス……そうだ航路の認可と桟橋の増設してくれてありがとう。」
「そんな死んだ目で言われても嬉しくないわよ。」
俺は船から水平線を見つめる。彼女は俺の隣に立って話し始める。手にはワイングラスがあるが気にしないでおこう。
彼女はしばらく黙っていた。そして彼女はスキルを使って海から丸い水を浮かばせて話始める。
「記憶のこと?。百希さんから聞いていずれこんな日が来るとは思っていたわ。」
「うん、だいたい合ってる。」
彼女は俺の前まで水球を持ってくると二つに分ける。右側の水球は小さくて左側の水球は大きい。
「知ってたの?」
「ええ私もミーラさんも知っていたわよ。」
彼女は少し声が震えていた。何かドラゴンに立ち向かうかのような覚悟か恐れそんなものを目の奥から感じた。
「これから私はひどいことを言うわ。だから聞き終わったらあなたの気が済むまで殴って。」
「右の水があなただとしたら左のは前のあなた。」
「百希さんとあなたの十九年間の記憶はそれほど多いはずよ。」
彼女は大きな左の水へ赤ワインを注ぐ。その水は上から下に湾曲しながらやがて時間をかけて球に戻った。先程より大きな淡い赤色の水の星が出来ていた。
「ここに右の水を混ぜてもほとんど変わらないわ。」
彼女は右と左の水をスピンさせてぶつける。確かに彼女の言うとおり色は何も変わっていなかった。
「右の水球は透明から色を変えて取り込まれて終わりよ。」
「つまり?」
彼女は心を落ち着かせるために深呼吸する。どれほどの覚悟を彼女は胸に秘めているのだろうか。
「ユータの記憶は取り戻させないわ。どんな手を使っても。」
「あなたが消えるくらいなら私が恨まれた方がずっと良いわ。」
「……そんな思いつめないで良いよ。大した問題じゃない。」
俺は彼女の手を握る。
「大した問題よ。あなたの命に関わるんだから。」
彼女の目が潤む。俺は安心させるように手を強く握った。
「……いや記憶は本当に大した問題じゃないんだ。」
「それよりも俺と彼女が何者かの方が問題。」
「転移者ってだけよ。二人も現れるのは珍しいけどそれだけよ。」
彼女は俺の目を見て更なる真意を問う。こんな真面目で逃げることを許されない雰囲気の彼女は少し苦手だ。ミーラも同じように思っているのだろうか?だとすると少し話すのが怖い。
『…………1ルーブルっていくらだっけ?』
『僕は滅んだ国の通貨何て知らないよ。』
『電気がここに通るとは思わなかったよ……。あの時代から電気の時代だよね。』
まぁ技術的特異点という存在を信じきれるかどうかはさておき、おそらく俺と百希の正体は会話の端々や俺が使える兵器から見るに……。
「アイス、俺と百希は多分自分たちの意思でこの世界へ渡ったんだ。そんなことが出来るって事はきっとここよりはるかに進んだ文明を持っていた。」
「あなたが凄い文明を使ってるのは知ってるわよ。」
「それよりもはるかに進んだ文明があるとしたら?」
「空を飛べて、何百メートルの船を作れるのにさらに求めるの?」
「うん、さらに進める。」
「そんなの想像も出来ないわよ……。」
俺がなぜ記憶を消したのか?おそらくはここと二人だけというところにある気もする。俺なりに考えてそれから百希と答え合わせをしよう。
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