異世界の死の商人

ワナワナ

第三十六話 ミーラのスキル

 帝都には偉い人が多すぎて逃げ出すように城塞都市へ帰ってきた。伯爵になったとはいえ怖かった。お店のカウンターに座る百希に逃避する。


「僕に案を確認して欲しい……?」


「そう。フロント武器製造商会は民需に転換する。」


「軍隊で民間に近いのはどの兵科だと思う?」


「僕はクイズが得意だよ〜えーと 音楽?ほら行進するときの。」


 無言で頭を撫でる。可哀想に……これで同じ転移者というのが驚きだ。


「えへへ正解しちゃった。」


 ポジティブって長所だと思う。うん。


「それもありだけど補給、工兵どっちかの方がお金になりやすいと思う。」


「例えば新大陸と航路を結んだり列車砲に付随する鉄道をたくさん敷いたりして輸送で儲けるとか。」


 ボーナスタイムが終わってしまった以上、何らかの手を打たないと大変なことになる。


「僕も概ね賛成かな。ただそれより君に渡した書類読んだ?」


「ごめん……。」


 この場で確認する。何これ……。これは夢だうん。きっともうすぐ誰かが俺を連れ戻してくれるはずだ。
 俺が机に突っ伏すと今度は彼女が頭を撫でる。


「とんでもない税金だよね。どうするのさ?」


「……ぎりぎり払えるけど何か対策は無い?」


 もし払うとしたら総資産の八割が消し飛ぶ。しかも毎年だ。一年目は払えても二年目には首が回らなくなる。白金貨二枚だけとか笑えない。


「君が持っている財産が多すぎるのが問題だから新大陸手放したら?」


 負債になっているからそういう手段も選択肢に入れないとだめか。でも出来れば失いたくない。


「資源とかの分布図ってある?重要な土地を残してそれ以外を国に売りたい。」


「あるよちょっと待ってて。」


 彼女はいつもはふざけているけど急に優秀になる時がある。実は俺より頭が良かったりして。


「石油、石炭、鉄、金、何でもあるね。」


「ふふふ僕のこと褒めても良いんだよ。」


 またそう言って彼女は俺をからかう。でも俺が反撃するといつも動揺する。


「なら目を閉じてくれない?」


「ええええ!?待って……心の準備が。」


 彼女は三回位大きな深呼吸をする。狙い通り勘違いしているようで何より。


「……良いよ。」


 上目遣いで俺を見たあと目を閉じる。本当はつついて遊ぶつもりだったけど良心が痛む。やめようかな……。




 








 結局長い時間悩みに悩んでいたら彼女が目を開けてしまった。






「僕の恋心で遊ぶなんていくら僕でも怒るよ。言い残すことは?」


 ぺちって叩いてきたけど特に痛くない。


「僕の攻撃が効かない!?」


 そんな驚愕な表情をされてもこっちが困る。冗談か本気か分からなくなった。


「えっと……百希これ持てる?」


 店に飾られているAK-47を持たせてみる。最初はぎりぎり持てていたが三分もすると足が震えていた。


「も、もう無理……限界。許して……。」


 可哀想だからAKを元に戻す。自分もそうだけど転移者って体力がなさすぎないか。


「奴隷にこんな労働させるなんて君はひどいね。」


「ごめん。」


 ……?反射的に謝ってしまったが、逆に百希はどんな労働を期待していたんだ。


「まぁいいや、新大陸へ行ってくる。」


「いってらっしゃい。」


 そう言って彼女は左手を振る。そこには特に何も書かれていなかった。
























 百希に店番と国へ提出する書類を任せてミーラとともに新大陸へ飛び立つ。空中給油を受けてようやくたどり着いた。


 乗ってきたF-15(戦闘機)の影で休む。流石に空中から空港を召喚してそこに着陸するのは無茶だったかもしれない。


「大丈夫ですか?」


「今は休ませて……。」


 俺は大の字でアスファルトに寝る。ミーラはその隣に体育座りで周囲を警戒している。






「ユータ様のスキルは効果もそうですけど反動も凄まじいですね。」


「話せるだけ……ましかな。」


「ミーラのスキルってどんな効果だっけ?」


「私……ですか?『小さい幸運』ですよ。」


「このスキルは幸運を引き起こす確率を上げるんです。」


 幸運って曖昧な表現だ。何が起きてもそれがスキルによるものかそれともただの幸運なのか分からない。


「使ってみてくれない?」


「なんにも起きないですよ。小さい幸運発動。」


 ミーラは左手を俺に向けてかざす。しかし何も起こらない。き、気まずい。ここまで何も起こらないとは思わなかった。


「……うん、ありがとう。」


 無言で彼女が俺に寄り添って耳元で言う。


「私にはナイフがありますから問題ないです。」


 彼女が索敵とか近接戦が上手なのは本当だけど、いつか選択を誤ると刺されそうでその発言は怖い。


 もし彼女とこの距離で本気で戦ったら負ける。俺が何かを召喚して引き金を引く前に押し倒されてナイフが俺に突き立てられるだろう。まぁ俺が死ぬ覚悟なら引き分けに持ち込めるけど勝てない。


「何を考えてるんですか?」


「思考実験。俺とミーラが今ここで戦ったらどうなるかなって?」


「……もう疲れは取れたみたいですね。」


 そう言われたから立ち上がる。ちょっと機嫌が悪くなっちゃったかな?確認すると猫耳と尻尾見ても特にそんな素振りは無かった。


「所でどうしてこんな遠い所まで来たんですか?」


「……強いて言うなら税金対策?」


 さてこの土地が俺のものである内に出来ることは全てやっておこう。百希からもらった資源マップを広げる。今回はただの紙だ。


「あ、端っこを抑えて。」


「はい。」


「ありがとう。ミーラ、また倒れるからよろしくね。」


「膝枕はしますか?」


 冗談っぽく彼女は聞いてくる。


「アスファルトだからしないでいいよ。痛いでしょ。」


 事前に地図には線を書いておいた。そして命令文も作っておいた。これは果たして武器商人がやることか?と言われると疑問だが戦争がないから仕方ない。この商売は平時になるととても暇になる。


「北緯40.058886西経73.50860に……以下略。」


 全部言い終えた後はいつもどおり眠りにつく。少し不安なのはいつもより非常に多くの召喚をしたことだ。その弊害が分からない。


 何せ前回の理論を応用して大陸を横断して東海岸を縦断する鉄道と高速道路を網目のように細かく敷設した。これ程の召喚は前例がない。そして本来の使い方でもない。






















 知らない天井だ。いつの間にかベッドで俺は寝ていた。カーテンを開けて外を見ると月があった。誘導灯と満点の星空が景色を味気あるものにする。


 ドアが開く音がした。


「……ユータ様。起きたんですね!」


 ミーラが後ろから駆け寄って抱きしめてくる。


「どれぐらい寝てた?」


「七日ですよ七日。本当に心配だったんですから……。心臓が動いてるか毎日確認してたんですよ。」


 彼女がより強く抱きしめる。だから俺は一旦外を見ることをやめて彼女の方に向き直った。一週間もかかるなんて思わなかった。予定と大幅にずれてしまった。


「心配かけてごめん。後は運んでくれてありがとう。」


「……起きてくれて良かったです。」


 彼女の目から涙が溢れる。ふと彼女の右手に小瓶が握られていることに気づいた。


「……それ何?」


「周囲を探索してたら見つけました。きれいですか?」


 小瓶を渡してもらってよく見てみる。指でつまめる位の小さな金色の石だ。


「『小さい幸運』が発動したのかな?良かったね。」


「もしそうだったら嬉しいですね。」


 俺に鑑定みたいなスキルがあればいいんだけどいまいち分からない。


「明日ユータ様も探しに行きますか?河にあったんですよ。」


 俺が起きたからか尻尾が後ろでぶんぶん揺れてる。猫耳を撫でながらしばらく小瓶の中の石を二人で見ていた。

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