異世界の死の商人
第三十三話 王国の終わり
後もうすぐで冬になろうとしている。フロント帝国の全てを賭けた攻勢作戦が始まろうとしていた。城塞都市でたなびく斜線の旗、人々はそれを振って出兵を見守っていた。
「ユータ、近づかなくて良いの?」
「あの人混みには行かない。」
道路の端の人の少ない所からパレードを見る。
「ユータ様、そうやって背伸びしても見えないと思いますよ……。」
ミーラが呆れた顔で見てくる。……後五年もしたら背も伸びるはずだ多分……。俺もミーラも百希も大人達の背中が見えるだけで結局遠くから眺めるしかなかった。
そしてそんな喧騒に少しづつ歌が響く。はじめはバラバラだった声も重なりやがて大合唱となった。
「「♪〜」」
歌が聞こえる。今、この街からアンテラ山脈を越えようとする革命軍に手向けられているのだろうか。自然とミーラとアイスも歌い出す。
「歌えないのは僕らだけみたいだね……。」
「まぁ仕方ないよ俺も百希もこの国の人じゃないから。」
「これが国ってものなのかな……僕も君も初めて見るね。」
「初めて?」
「あっ……ごめん、なんでもないよ。」
昨晩あんなに膝枕、膝枕騒いだとは思えないほどの大人しさだ。百希、どうしたんだろう?
「まぁまぁ歌えない同士仲良くしようよ。今は寒いからね。」
百希はそう言って俺の腕に抱きついてくる。杞憂だったか。心配して損した……。
「……なら仲良くしようか。」
「へ?それってどういう意味……。」
百希はからかってみると面白い反応をする。耳の先まで真っ赤にして風邪を引いたみたいだ。
「「〜♪」」
そんな事をしてると歌が終わった。しばらく静寂が辺りを包んでから一人、また一人と帰り始めた。
「今のは?」
「今よりずっと昔の古い歌よ。ユータは知らないの?」
「初めて聞いた。もう一回歌ってくれない?」
「後でなら良いわよ。」
彼女はしょうがないわねとか心の中で思っていそうだ。最近何を考えてるか分かりやすい。
「あのユータ様、そろそろ時間だと思いますよ。」
ミーラが俺の腕時計を見て言う。俺も確認すると確かに約束の時間が迫っていた。昔と比べたら随分距離感が変わった気がする。
五十台のM113装甲兵員輸送車とM1 エイブラムスがエンジンをふかして移動を始めていた。砂煙をあげて東のアンテラ山脈へ進む。
「お、来たか。早く乗れ!」
リベレは自分のスキルを操作しながら俺に気づいた。たくさんの人を管理する事に彼のスキルは向いているのだろう。
「契約書は持ってきたか?」
「僕が持ってきたよ。」
得意げにクリアファイルに入った紙を持っている。あれ?俺はそんなこと聞いてない気がする……。
「最終確認と行くか。」
初めて見るなんて言えない……。チラッと助けてを求めてミーラの方を見ると彼女はきちんと周囲を警戒していた。
「甲は乙に対し……。」
聞いてた限りそんな変な事は言ってなかった。いつも百希が契約書とか書類関連をやってくれたな……今度何が欲しいか聞いてみよう。
「うん、まぁ大丈夫。」
「君が心配になるよ……。」
「本当です。ユータ様、いつか騙されちゃいますよ。」
俺はむしろミーラの方が心配だけどなぁ……。ちらっと見ると彼女の水色のリボンが風にたなびいていて少し嬉しかった。
「今度、私と練習でもしないかしら?」
アイスが踊りませんかみたいな調子で聞いてくる。契約の練習って何?
「アイスと練習したら俺が騙されるよ。」
「ありえるな。下手したら教会へゴーだ。」
「冗談よ。百希さんに教わった方がいいわよ。私は上手くないから。」
リベレがまるで経験したかのように返す。あれ、そういえば彼が女の子といるところを見たことがないな。
「王国がメラージ家を嫌った理由がここ数ヶ月で身にしみたぜ。」
「そういえば、ユータあの歌が聞きたいって言ってたわよね。」
露骨に話題を変えるのも嫌いではない。ただもう少し上手に出来ると思う。
「言ったね。歌ってくれる?」
「もちろんよ。」
別の言語なのだろうか?俺や百希にはどうしても聞き取れない。それとももっと別の壁があるのだろうか。アイスの歌は上手だけど全く理解できない。
不思議だ。
「そろそろだな。ユータ、召喚してくれ。」
「ここと山脈の向こうに軍事基地とその中間地点にハンヴィーを召喚せよ。」
視界がホワイトアウトしてから想像どおりの山を貫く六車線の高速道路が出来た。歓声が聞こえる。
「出発だ!」
「これが灰のスキルか……。」
「これなら勝てるぞ!」
「ハイウェイって呼べばいいのか?」
こんな事が出来るスキルはいったいどこからエネルギーを引っ張ってきてるのか……。このスキルのコストは疲労による睡眠くらいだ。眠くなるたびに不思議に思う。
「じゃあな、ユータ。後は俺に……もう寝てるか。」
「リベレ。気をつけて下さい。」
ミーラの言葉は短かったがそれだけで十分だった。もう目は閉じてて声も少しづつ遠のいている。
「ここまで来て負けるわけないだろ。自分の事だけ心配してろ。」
「じゃあな。」
もう一度彼は挨拶をして、車に乗って山へ進んだ。山の頂上には白い雪が積もっていて冬はまだ始まったばかりだと教えていた。
帝国と王国の国境部にて
夜でも陣が魔法や火で明るくなっている。その中でも一際明るいテントがあった。
「我々が渡河しようとするたびにPKM機関銃で撃たれます。反乱軍は主力が来るまでの遅滞戦闘をしているのではないでしょうか?陛下。」
「遅滞か……我々を河川に引きつけて時間を稼いでその後にどうする?敵とて馬鹿ではない。」
国王が震えた手で地図を指差す。寄る年波には彼も勝てなかったのか長い行軍と長引く戦闘で疲れ切っていた。
「私が敵なら城塞都市を落としたあと直ぐに渡河し王都の近くの平野で決戦を挑む。」
「だが何か見落としているようでならない。私が若い頃ならやっていたような奇策。」
「奇策ですか……。」
「いいか、息子よ。貴族だから王族だから何て幻想だ。目の前の勝利を見よ。」
国王は昔はこの国の将軍だった。そして軍事クーデターでこの国を奪い取った。
「もし私が負けたら素直に地位を渡せ。教科書ばかりのお前には勝てん。」
そう言われた第一王子は不満そうだったが自分が特別優秀ではない事は自覚していたので否定はしなかった。
王子は落ち込んで天幕から外に出て空を眺める。時刻は夜で星が瞬いていた。そして一際大きな星が偶然消える。
ちょうどその時に彼は天幕にまた呼び戻された。集まっていたのは建国より国を支えてきた将兵たち精鋭ばかりだった。
「諸君、敵はどうやら山脈を超えて九つの都市を落とし王都を陥落させたようだ。」
「敵ながら見事だ。我々は今、北と西で挟撃されている。」
「誤報では?いくら何でも早すぎます。」
「敵は奇怪な鉄の箱を用いて馬よりも早く駆けるらしい。数日もすれば分かるだろう。」
「私と死にたい者だけ残れ。」
翌朝には多くの貴族が降伏していた。更に次の日には、補給部隊が来なくなった。その更に次の日には帝国が攻撃を始めた。
かつて周辺国全てを敵に回し勝ってみせた正規軍も補給がなければ戦えなかった。国王の魔導騎兵は日が経つごとに縮小を繰り返しやがて、かつての威容は跡形もなく崩れ去った。
帝国は王国に勝ってみせた。それは周辺国から見れば更に強い国家の誕生でもあり、心強い味方が戻ってきたことでもあった。
「ユータ、近づかなくて良いの?」
「あの人混みには行かない。」
道路の端の人の少ない所からパレードを見る。
「ユータ様、そうやって背伸びしても見えないと思いますよ……。」
ミーラが呆れた顔で見てくる。……後五年もしたら背も伸びるはずだ多分……。俺もミーラも百希も大人達の背中が見えるだけで結局遠くから眺めるしかなかった。
そしてそんな喧騒に少しづつ歌が響く。はじめはバラバラだった声も重なりやがて大合唱となった。
「「♪〜」」
歌が聞こえる。今、この街からアンテラ山脈を越えようとする革命軍に手向けられているのだろうか。自然とミーラとアイスも歌い出す。
「歌えないのは僕らだけみたいだね……。」
「まぁ仕方ないよ俺も百希もこの国の人じゃないから。」
「これが国ってものなのかな……僕も君も初めて見るね。」
「初めて?」
「あっ……ごめん、なんでもないよ。」
昨晩あんなに膝枕、膝枕騒いだとは思えないほどの大人しさだ。百希、どうしたんだろう?
「まぁまぁ歌えない同士仲良くしようよ。今は寒いからね。」
百希はそう言って俺の腕に抱きついてくる。杞憂だったか。心配して損した……。
「……なら仲良くしようか。」
「へ?それってどういう意味……。」
百希はからかってみると面白い反応をする。耳の先まで真っ赤にして風邪を引いたみたいだ。
「「〜♪」」
そんな事をしてると歌が終わった。しばらく静寂が辺りを包んでから一人、また一人と帰り始めた。
「今のは?」
「今よりずっと昔の古い歌よ。ユータは知らないの?」
「初めて聞いた。もう一回歌ってくれない?」
「後でなら良いわよ。」
彼女はしょうがないわねとか心の中で思っていそうだ。最近何を考えてるか分かりやすい。
「あのユータ様、そろそろ時間だと思いますよ。」
ミーラが俺の腕時計を見て言う。俺も確認すると確かに約束の時間が迫っていた。昔と比べたら随分距離感が変わった気がする。
五十台のM113装甲兵員輸送車とM1 エイブラムスがエンジンをふかして移動を始めていた。砂煙をあげて東のアンテラ山脈へ進む。
「お、来たか。早く乗れ!」
リベレは自分のスキルを操作しながら俺に気づいた。たくさんの人を管理する事に彼のスキルは向いているのだろう。
「契約書は持ってきたか?」
「僕が持ってきたよ。」
得意げにクリアファイルに入った紙を持っている。あれ?俺はそんなこと聞いてない気がする……。
「最終確認と行くか。」
初めて見るなんて言えない……。チラッと助けてを求めてミーラの方を見ると彼女はきちんと周囲を警戒していた。
「甲は乙に対し……。」
聞いてた限りそんな変な事は言ってなかった。いつも百希が契約書とか書類関連をやってくれたな……今度何が欲しいか聞いてみよう。
「うん、まぁ大丈夫。」
「君が心配になるよ……。」
「本当です。ユータ様、いつか騙されちゃいますよ。」
俺はむしろミーラの方が心配だけどなぁ……。ちらっと見ると彼女の水色のリボンが風にたなびいていて少し嬉しかった。
「今度、私と練習でもしないかしら?」
アイスが踊りませんかみたいな調子で聞いてくる。契約の練習って何?
「アイスと練習したら俺が騙されるよ。」
「ありえるな。下手したら教会へゴーだ。」
「冗談よ。百希さんに教わった方がいいわよ。私は上手くないから。」
リベレがまるで経験したかのように返す。あれ、そういえば彼が女の子といるところを見たことがないな。
「王国がメラージ家を嫌った理由がここ数ヶ月で身にしみたぜ。」
「そういえば、ユータあの歌が聞きたいって言ってたわよね。」
露骨に話題を変えるのも嫌いではない。ただもう少し上手に出来ると思う。
「言ったね。歌ってくれる?」
「もちろんよ。」
別の言語なのだろうか?俺や百希にはどうしても聞き取れない。それとももっと別の壁があるのだろうか。アイスの歌は上手だけど全く理解できない。
不思議だ。
「そろそろだな。ユータ、召喚してくれ。」
「ここと山脈の向こうに軍事基地とその中間地点にハンヴィーを召喚せよ。」
視界がホワイトアウトしてから想像どおりの山を貫く六車線の高速道路が出来た。歓声が聞こえる。
「出発だ!」
「これが灰のスキルか……。」
「これなら勝てるぞ!」
「ハイウェイって呼べばいいのか?」
こんな事が出来るスキルはいったいどこからエネルギーを引っ張ってきてるのか……。このスキルのコストは疲労による睡眠くらいだ。眠くなるたびに不思議に思う。
「じゃあな、ユータ。後は俺に……もう寝てるか。」
「リベレ。気をつけて下さい。」
ミーラの言葉は短かったがそれだけで十分だった。もう目は閉じてて声も少しづつ遠のいている。
「ここまで来て負けるわけないだろ。自分の事だけ心配してろ。」
「じゃあな。」
もう一度彼は挨拶をして、車に乗って山へ進んだ。山の頂上には白い雪が積もっていて冬はまだ始まったばかりだと教えていた。
帝国と王国の国境部にて
夜でも陣が魔法や火で明るくなっている。その中でも一際明るいテントがあった。
「我々が渡河しようとするたびにPKM機関銃で撃たれます。反乱軍は主力が来るまでの遅滞戦闘をしているのではないでしょうか?陛下。」
「遅滞か……我々を河川に引きつけて時間を稼いでその後にどうする?敵とて馬鹿ではない。」
国王が震えた手で地図を指差す。寄る年波には彼も勝てなかったのか長い行軍と長引く戦闘で疲れ切っていた。
「私が敵なら城塞都市を落としたあと直ぐに渡河し王都の近くの平野で決戦を挑む。」
「だが何か見落としているようでならない。私が若い頃ならやっていたような奇策。」
「奇策ですか……。」
「いいか、息子よ。貴族だから王族だから何て幻想だ。目の前の勝利を見よ。」
国王は昔はこの国の将軍だった。そして軍事クーデターでこの国を奪い取った。
「もし私が負けたら素直に地位を渡せ。教科書ばかりのお前には勝てん。」
そう言われた第一王子は不満そうだったが自分が特別優秀ではない事は自覚していたので否定はしなかった。
王子は落ち込んで天幕から外に出て空を眺める。時刻は夜で星が瞬いていた。そして一際大きな星が偶然消える。
ちょうどその時に彼は天幕にまた呼び戻された。集まっていたのは建国より国を支えてきた将兵たち精鋭ばかりだった。
「諸君、敵はどうやら山脈を超えて九つの都市を落とし王都を陥落させたようだ。」
「敵ながら見事だ。我々は今、北と西で挟撃されている。」
「誤報では?いくら何でも早すぎます。」
「敵は奇怪な鉄の箱を用いて馬よりも早く駆けるらしい。数日もすれば分かるだろう。」
「私と死にたい者だけ残れ。」
翌朝には多くの貴族が降伏していた。更に次の日には、補給部隊が来なくなった。その更に次の日には帝国が攻撃を始めた。
かつて周辺国全てを敵に回し勝ってみせた正規軍も補給がなければ戦えなかった。国王の魔導騎兵は日が経つごとに縮小を繰り返しやがて、かつての威容は跡形もなく崩れ去った。
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