異世界の死の商人

ワナワナ

第二十九話 俺は何者か?

 俺は城塞都市を目指して夜道を歩いていた。空を見上げると新月だからか星がよく見える。地上は暗く閉ざされている。


 突然スマホが振動する。


『アンノウン接近中。回避行動推奨。』


 アトランの合成音が響く。


「!ユータ様、伏せて!」


 ミーラに突き飛ばされる。彼女の方が軽い筈だが俺が倒された。
 その直後炎の矢が俺がいた場所に着弾した。草原に火が現れやがて消える。どこから攻撃された?


 死という文字が普段より近いところにいる。俺が死ぬ?こんなところで?恐怖が俺の心臓を潰そうとする。


「全軍、敵を殲滅せよ。」


 とりあえず武器使役のスキルを発動する。しかし直ぐには反撃が始まらない。本拠地もしくは洋上を移動する空母から攻撃を始めているはずだ。


「来ます!走って下さい!」


「心配ないわ。」


 次撃の炎の矢が下に叩きつけられる。アイスの重力操作だ。ただずっと彼女個人に頼る訳には行かない。敵の姿が見えない以上防空網を構築しなければならない。




「87式自走高射機関砲(自走式対空砲)召喚。」


「迎撃せよ。」


 少し離れたところに二本の砲を平行に空へ向けたそれは現れる。上のアンテナが回り、敵を探す。連続する発砲音が響き、曳光弾(発光する弾丸、軌跡が光る。)が空を切り裂く。


 一体誰が?どこから?分からない…………。俺を殺して得するのは……王国か?


 しばらく炎の矢を撃ち落としていると不意に攻撃が止む。敵は無駄だと分かったのか接近してきた。


「っ!私が時間を稼ぎます。」


 足音が聞こえるが暗闇で敵味方の識別も怪しい。同士討ちはしたくないから銃を下ろす。


  ギィンという力強い金属音が響く。誰かが戦っている事が分かる。


「そのナイフ捌き……似ているな。面倒だ。」


この状況を打開するには……少なくとも空母や本拠地からの火力投射は期待できない。敵との距離が少なすぎる。こんなことならさっきにAH-64D アパッチ・ロングボウ(攻撃ヘリコプター)でも召喚してチェーンガンでも撃ってもらうんだった。


 状況は悪化の一途をたどる。敵も味方も見えない。彼女が戦っているのに俺は……何かしようと考えていると。


「そこまでだ動くな。」


 後ろからナイフが首に突きつけられていた。気配も分からなかった。逃げられないようにしっかりホールドされている。死が更に近くなった。冷たい感触が俺の恐怖を増幅させる。


「そこの獣人のお嬢ちゃんも武器を捨てろ。」


「い、嫌です。」


 冷たい感触がより大きくなる。彼女は泣きそうな声で分かりましたと言い武器は地に落ちた。


「そこの奴隷は……動けないみたいだな。」


 俺を今殺そうとする男は何故みんなが見えるのだろうか。そういうスキルか?アイスも俺も太陽が出ていたら奇襲すら許していないはずだ。


「貴族様、不審な動きをしたらどうなるか分かるな?」


「何も出来ないわよ!」


 悔しそうなアイスの声が響く。少しわざとらしくも感じるほど大きな声だ。


 この世界に来てからの記憶が俺を駆け巡る。脳が死の間際になって生き残る方法を探すべく俺の記憶を精査しているんだ。頭は他人事のように感じられる程冷静だ。ミーラと初めて会ったときは人間と違う所が気になって全然彼女の本質を見れていなかった。耳だったり尻尾だったり暗い所が見えたり獣人の特徴は……あれ。


 暗い所が見える?
 いつ、どこでそんな結論を導いた?確か……ミーラと最初に会ってそれから本拠地で食堂を探してそれから彼女は俺の手を引いて俺が電気をつけたら眩しくて二人で倒れたのか。思い出した。


 もし敵が獣人だとしたらここを昼にすれば勝てる。この状況を打破出来る。何の根拠も無いし保証も無い。だが賭けてみる価値はある。


「最後にもう一度だけ機会をやろう。王国に来ないか?」


「…………重税をやめない限り王国に従うつもりはない。」


「まさか我々が重税を課した真の理由を知らないのか?」


「我々は西方世界のメラージ家を中心とする国際秩序を打破しようとしている。」


「民はそんな事を一ミリも知らない。」


「民には高尚な考えは分からない。周りの国が全て敵なら武力でそれを克服する。その為なら如何なる手段も許される。」


「武器商人よ、真の敵は王国では無い古代より権力者に取り入り数多の国を乗っ取り、既得権益を貪り食って来たメラー……。」


「gravitation」


 アイスは敵の言葉を最後まで言わせなかった。すぐに俺の首に突きつけられていたナイフが横に落ちる。そして暗殺者も横へ落ち距離が出来る。今しかない。


「M314照明弾召喚。」


 空に人工の太陽が現れる。俺はゆっくりと9mm拳銃を構えて撃鉄を落とす。草原に発砲音が響き、銃口から出る白煙が霞む。そして弾丸が目を押さえる敵の胸を貫く。あっけない終わりだった。賭けに勝ったみたいだな。


「終わったのか…………。」


「ユータ様っ……大丈夫ですか?」


「生きてはいるよ。」


「みんなも怪我とかしてない?」


 ミーラは大きな外傷は見当たらなかった。アイスはまだ暗殺者を警戒している。彼女も特に怪我はしていなさそうだ。百希は……。


「私は大丈夫です。」


「百希、平気?」


 彼女は俺の呼びかけには答えず座り込み虚空を見ている。俺は彼女に近づいて目のそばで手を振る。百希は数回瞬きをしてから俺に気がついた。


「うん平気。ごめんまだ僕はまだ立てそうにないや。」


「もう安心しても大丈夫なようね。」


 アイスは警戒を解いて俺に話しかける。俺も慢心していた。












炎の矢が俺に当たる。痛いなんて言葉は到底足りない。辛いを十乗しても足りない。
俺は……死ぬ?




















 視界が白一色になる。ここは?
 カツンカツンと誰かが歩く音が聞こえる。


『こんな所で死んでもらっては困る。』


 彼、もしくは彼女は銀河の壁よりも遠い存在に感じた。


「あなたは?」


『…………百希ちゃんが君に会った以上隠すのも無駄だろう。』


『逆に聞こう。私は何だと思う?』


 そう巨大な何かは聞いてくる。これ程大きな存在は……。


「神?」


『私は宇宙の法則を知りもその改変も出来るけどね……神とは違う。』


『私は君と同じ人類の末裔だ。君が知る時代の言葉を借りるなら……技術的特異点の先の人類だ。』


 人類の末裔……。俺と同じ……。


「AIが人間を超えるってやつ?知ってはいるよ。」


『そうそして人間は肉体を捨てて突然変異に頼らない、意思のある進化を始めた。』


「でも同じ人類の末裔の俺は肉体があるよ。」


『君のご先祖さまは進化を選ばなかった。それだけだよ。』


『バージョン1.0の肉体のままの人類は君と百希ちゃん以外今は誰もいないんだ。作れはするけどね。生命を簡単に作るのは倫理的に問題があるからね。』


「……所で話が脱線してない?」


『ありがとう……。それでね百希ちゃんが僕たちに適した時代の別の宇宙に行こうって言い出したんだ。丁度隕石が接近している危険な文明があったから私には渡りに船の提案でね君と百希ちゃんに隕石の迎撃を任せる事にしたんだ。』


「それであなたにはどんなメリットが?」


『無いよ。私は多くの宇宙の法則を知っているけど神ではなくてね……人間だからかな困っている人がいたら手を差し伸べたくなるんだ。』


「…………所で本題は?隕石を迎撃する話は聞いたよ。」


『お願いだから死なないでほしいな。昔のナノテクノロジーを駆使して生き返らせたからね。』


「もしかしてこの左手に書かれてる特性 不老不死ってやつ?」


『その通り。直に女の子達に囲まれて目が覚めるよ。この宇宙への切符と隕石迎撃という対価。君と百希ちゃんとの契約だ。』


 もう少し言い方ってやつがあると思う。しかし事実だから何も言い返せない。


『何か質問は他にある?時間的に後一つしか答えられないけど。』


 俺は自分の事は百希に質問出来るだろうから哲学的疑問をぶつけてみることにした。


「…………神は存在する?」


『神を信じない人が一番神に近い。私は進化をしてからずっと森羅万象を説明する法則を追い求めてる。この世界にはたくさんの宇宙があってそれぞれの法則があって……たくさんいや本当に少しを知った。


完全な存在って本当に遠いよ。


でもね必ずいる。』


『もう時間だね……。じゃあね最後の純粋な人類。』




 同じ人類の末裔は俺から見ると寂しそうだった。肉体を捨てて彼らが得たのは比肩なき叡智。なら俺と百希は何を得るのだろう?俺が何者であるか知った今、百希ともきちんと向き合うべきだろう。

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