異世界の死の商人

ワナワナ

第二十八話 城塞都市の外へ

 冒険者ギルドは俺の想像とはかけ離れていた。俺の想像では間違いなく先輩冒険者に絡まれるあのテンプレが起こる筈だった。


「あのオレンジの髪まさかSランクのgravitation……?」


「あのクエストを受ける奴がいるとは……。」


「畜生、畜生。俺だって彼女ぐらい……いない……」


「はっ!スライムを全て狩ればクエスト自体が消失するのでは。」


「「「それだ!」」」


 先輩冒険者達は個性的な人たちで全く収入にはつながらないスライムを絶滅させに行った。俺のスキルだとあのテンプレは乗り切れないから逆に良かったかもしれないが何故か悲しくもある。


「馬鹿ばっかりね……。」


「いつも通りで楽しいですけどね。」










 俺の最も身近な先輩冒険者二人はそれぞれの反応を見せた後俺と百希をスライムのいる場所へ案内した。


 人の身長など優に越す城壁をくぐり城塞都市の外へ出る。地平線の先には高くそびえ立つ山々が王都の方向に見える。


「すごくきれいだね。僕らがあの星で見て回った山々といい勝負だ。」


 百希は過去に俺と一緒だったかのように話す。おそらく彼女は全てを知っている筈だ。


「確かにそうだね。」


「あれはアンテラ山よ。この国で一番高く誰も登れない山。」


 草原を歩きながら更に会話を続ける。会話に参加していないミーラは真剣に辺りを見てスライムを探している。俺も周りを探す。


「誰も登れないってどういう事だい?」


「それぐらい険しいのよ。」


 百希とアイスは余裕綽々だ。彼女達はいつもと同じ服装だ。アイスは水色と白の服でところどころに金色の円の装飾がある。首にはあの真円とバツマークのマジックアイテムもあった。こういう服装からも彼女が貴族だということは伝わる。


「見つけました!」


「え、どこ?」


 ミーラがスライムがいると思われる場所に指をさすが全く分からない。


「あっちです。」


「…………双眼鏡召喚。」


 軍用の双眼鏡もあったはずだ。ぎりぎり武器にも入る。黒光りするそれで覗いてみるとようやくスライムが見つかった。


「あっ、いた。」


「そんな遠くよりも目の前にいるわよ。」


「本当だ。」


 アイスが見つけたのは草と同じ緑色の小さなスライム。保護色だから見つからなかった。灯台下暗しだ。


「へぇ、小さくて可愛いね。」


 百希がスライムを手で撫でる。俺もそれに釣られて人差し指で押してみた。少し冷たいがそれだけで他に特筆すべき事は無かった。


「説明すべきだったわね……。」


「あの、百希さん。スライムは繊維を好むんです。」


「え?」


 彼女達がすごく気まずそうに百希に忠告する。そして百希がよそ見をしている間にも右腕の先から洋服が溶け始めた。


「ま、待ってやめ……。」


 このままスライムが進むと俺が見てはいけない状態になる。スライムの倒し方をミーラに聞くことにした。


「スライムの倒し方は?」


「核に傷をつけるだけです。」


「今回は私が倒すわ。」


 アイスが指を横に振るとスライムの横方向が下となり、百希から離れて横へ落ちた。さすが重力操作だ。


「gravitation。」


 スライムのいる点が重力の中心となり砂、小石が一点に集う。やがてスライムは圧死した。チート過ぎないか?


「ありがとう。助かったよ。」


「気にしないで良いわ。」


 百希の右手と左手の袖の長さが異なっているがこれぐらいで済んで良かった。


「良かった、良かった……。」


「君には残念がって欲しかったんだけど……。」


 反応に困るのでスルーした。


 俺がそう安心していると不意に手に冷たい感覚が走る。それは数秒前と同じ感触だった。背筋が凍る。


 目を向けるとそこには水と全く同じ透明なスライムがいる。俺の左手を登りさらなる服を求めている。


「9mm拳銃召喚。」


 鈍く光るそれを右手に持ちスライムを撃とうとするがこの場に適さない武器だとすぐに気づく。自分を撃つところだった。銃口を人に向けないように下に向けておく。


「う、動かないで下さい。今私が助けますから。」


「いや、ちょっと待って……。」


 ミーラがナイフを俺に向けてくるが右手の銃を上げてそれをやめさせる。この水スライム少し変だ。


「ちょっ、僕は洋服を食べられたのに君は食べられないっておかしいでしょ!」


「いや、俺に言われても……。」


 腕を登ったりはするがそれだけでこの水スライムは俺の服を溶かせられないようだ。


「試してみましょう。」


 アイスは自分の手の袖を水スライムに近づける。彼女の洋服も大丈夫ならこのスライムは洋服を食べないことになるが……。


「ふぇっ?や、やめてぇ。わたひ……」


 水スライムはアイスの服は食べるようで……アイスをこれ以上見ると俺が宇宙の彼方に飛ばされかねない。だから一旦後ろを向くことにした。


 それにしてもアイスや百希と俺の違いは何だったのだろうか?性別は言うまでもないが原因とは考えづらい。着ている服に何か違いがあるはず……。分かった俺の服は基地から持ってきたものだから合成繊維なんだ。だからスライムは全く異質な物を食べようとしなかったんだ。


「アイスさん、動かないで下さい。えい!」


 見えないがおそらくミーラがとどめを刺したのだろう。謎が解けたからかはたまたスライムが倒されたからか、俺は何故か振り向いてしまった。


「えっ……。」


「あっ……。」


 彼女の服は穴や切れ込みだらけで素肌が見えていた。彼女の頬は朱く染まりその恥じらう姿は普段とは違っていて可愛かった。しかしそれは一瞬のことで彼女はすぐに普段通りに戻った。


「ユータ、何か言い残すことはあるかしら?」


「とても可愛かった。」


「っ〜〜。」


 俺の体が上に落ちた。
 後から思えばここで謝罪していれば許してくれた気がする。ただそこまでの思考力と理性が俺に残されていたかは甚だ疑問だ。


















五時間後
 満点の星空の中を城塞都市を目指して進む。この世界の銀河も天球を右上から左下へ縦断していて丁度フロント帝国の旗と同じ方向だ。
 まだ世界中に明かりが灯されていない今だからこそ見れる星空。俺のいた世界はこんな空だったのかな……。


「結局二匹しか狩れませんでしたね。」


「こんな思いをして銅貨二枚なんて二度とやらないわ。」


「そうなの?まんざらでもなさそうだったのは僕の勘違い?」


「えぇ、そ、そうよ。」


 彼女のマジックアイテムがバツで光ったのは見なかったことにしておこう。


「ユータ様、ユータ様。楽しかったですね。」


「うん。ミーラはどうだった?」


「えっと……スライムに二匹しか会えなかったのが残念ですね。」


 ミーラは日が落ちるまでスライムを探し続けた。彼女は目が良いのか遠くのスライムは見つけられるけど近くのものは結局見つからずじまいだった。


「ミーラって優しいよね。」


「むしろユータ様の方が優しいですよ。」


「そんなこと無いよ。」


「そんなことあります。」


「無いって。」


「あります。」


 いつになく頑な彼女。その瞳の奥には絶対に曲げられない意思があった。俺は否定することを諦めて彼女に問う。


「なぜ?」


「なぜですか………………私一人のわがままのために国まで敵にまわして……普通はこんな一人に肩入れしないのに……あなたは何でもないことのように振る舞っていて。」


「ユータ様には分からないかもしれないですけど私から見たらあなたはとっても、とっても格好いいんですよ。」


 彼女は手で顔を隠しながらそう言ってくれた。俺にはもったいないほど優しい彼女だ。


「うん、ありがとう。ミーラも可愛いよ。」


 ここで格好いい事を言えたら少しは彼女の言うとおりになれるのかな……。

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