異世界の死の商人

ワナワナ

第二十六話 王国との接触

 一ヶ月後
 時の流れとは非常に早いものだ。あれもこれもと準備している内に気づけば彼女達と約束したあの日から一ヶ月が経とうとしていた。端末を置いたカウンターを挟んで百希と向かい合う。互いに座ったままだ。


「はあ、君の無計画さが悪いよ諦めなよ。」
「今からミーラ達より稼ぐ方法が思いつかない……。」


 俺はこの一ヶ月で金貨二百二十枚ぐらいのマイナスだから彼女達と勝負にすらならない。明日までにいったいどれだけ稼いだら彼女達に勝てるのか……気が遠くなる。


「……約束の日は明日?」


 俺はうなずく。開店準備が楽しすぎて勝負のことなど頭から抜け落ちていた。何か逆転の一手は無いか……。一日で大金を稼ぐ方法……。


「僕、ちょっと考えたんだけど収入ってあくまでも入ってきたお金だから、たくさん金貨を使ったから負けになるって事は無いと思う。」


 百希が少し遠慮しながら俺に言う。はっ!?確かに!それなら俺にも勝ち目がある。


「そんな目を輝かされても……あくまで僕の考えだよ。」


 困惑しながらも彼女は念押ししてくる。ミーラ達がどれだけ稼いでいるかは知らないがマイナススタートで無いなら希望はある。


「ありがとう百希。」
「素直に感謝されると照れるね。」


 彼女は恥ずかしさと嬉しさが入り混じった笑みをした。その笑顔を俺は直視出来なくて顏をそむけた。


「それでどうやってここから勝つ気なの?僕はお店を開けてもいいと思うよ。」
「それしかないかな……命をかけずに稼ぐにはもう時間が余りにも少ないし、何より準備はほぼ終わった。」


 アトランと協力して進めていたPOSシステムの構築をあきらめればすぐにでも開店できる。そもそもの目的は勝負に勝つことだったからそれを優先しよう。


「なら僕が札をopenに変えて来るよ。」
「ちょっと待ってここの修正を……」
「大丈夫、まずはやってみてその後直していけば問題ないよ。」


 彼女の言うことはもっともだった。振り返ると計画を練りすぎていたかも知れない。百希は店の外まで出て札をopenにひっくり返した。




 最初はいつ来るかと身構えていたがそれは直ぐに杞憂だと分かった。誰も来ない。そもそもここは人通りがまばらで、お客さんの目に触れる機会が少ない。あと他の原因は……


「全然お客さん来ないね……。」


 百希は少し嬉しそうに言った。ん?いや何かの見間違いだ。俺は気を取り直してもう一度確認する。
 彼女は笑顔だった。


「な、なんで笑顔何でしょうか?」
「突然の敬語!?そんな距離を取られても僕は屈しないよ!」


 彼女は何に屈するのか小一時間ほど問い詰めたいが話題を変えさせるわけにはいかない。俺は目で彼女に質問に答えるように促す。彼女は俺の視線での会話に慣れているのか俺の意図を汲み取った。


「いやあ、ええとその僕としてはお客さんが少ない方が楽だから……。」
「ダウト。」


 発言と行動が矛盾している。お客さんが少なくて嬉しいなら、彼女から進んで店を開けることはやらない。俺が指摘すると彼女は顏を朱に染めて反論する。


「本当に君って僕に都合が悪いときに噓を見抜くね。」
「絶対に言わない。その……恥ずかしいし。」


 百希らしからぬ表情に俺は思わずドキリとした。彼女は顔をうつむけて俺を無言で叩いてくる。これは俺が悪かった。浅く反省している。


 その後二時間ほど閑古鳥が鳴いていてその原因を探っていると一人の来客があった。その客の容姿は本当に一般的な男性で雰囲気も特筆すべき所はないのだが何というか普通すぎて逆に違和感があった。俺は百希と共に挨拶をして見守る。


 彼が手に取ったのは現在革命軍が使用しているAK-47。革命軍の兵士だろうか?それとも冒険者か?彼の立場に興味が湧くが








「私はこういう者です。」
 先程感じていた違和感その正体は彼のつけている装飾品で分かった。人差し指の先ぐらいの大きさの王冠があしらわれた盾。王国関係者だと言うことは伝わった。不味いな……現状から考えると殺されても文句は言えない。


「単刀直入に言います。王国側に来る気は無いでしょうか?」


 懐柔しに来るとは予想はしていた。そして断った後どうなるかも薄々想像はしている……。


「……メリットが無い。」
「何を望みます?何でも用意すると王より仰せつかっております。」


 交渉を引き伸ばさないとおそらく俺も百希もバッドエンドだ。敵の立場になって考えればよく分かる。味方に出来ないなら殺すしかない。


「お金ですか?それとも地位ですか?それとも……」


 試しに俺が今一番欲しい物を要求してみるか。もちろん直近で欲しいのは金だがもっと大事な物がある。


「未来かな。ごく普通の平民の女の子が笑って暮らせる未来。」


「そう来ましたか……。革命に最初期から加担するだけありますね。」


 これは選択を間違えたか。でも敵も出来れば手懐けたいと思っている筈だし多分まだ大丈夫。少し視線をそらすと百希はさっき整理したばかりの拳銃の棚をもう一度整理している。


「ミーラさんでしたか?年齢は十四〜十五。暗殺で有名な迷宮都市の×××××××村に生まれて最弱のスキル故に捨てられた。そして今はあなたの彼女です。」


「彼女さんはずいぶん素敵な方ですね。」


「何が言いたいんだ?」


「いえ全く関係ない話ですよ。彼女さんは冒険者として都市の外へ出られているようですね。法の届かない場所へ出ることはあまりおすすめしませんよ。」


 俺を脅すのか……。王国の底が知れるな。フロントにふさわしいのは王国ではなく帝国だ。交渉を引き伸ばす気も失せた。


「二度と俺の前に現れるな。話が通じない相手と話すつもりはない。」
「ええ。次は話すつもりはありません。身内の不幸に気をつけてください。」


 彼が店を出た後、力が抜けて椅子に寄りかかる。はあ……。たった数回の会話でここまで疲れるなんて思わなかった。とりあえず身の安全を確保しないといけない。


「アトラン聞いてたか?」
『はい。』
「なら俺とミーラの護衛を頼む。」
『その必要はないと進言します。』
「僕もそう思うよ。」


 いつの間にか彼女も俺と同じようにタブレットを覗き込んでいた。


「アイスさんがいるから余程のことでは負けない。多分彼女はこの国の中で一二を争うぐらい強いよ。」
『私ですら勝てるか分からないです。』


 アイス?確か彼女のスキルは重力魔法。全ての方向を下と定義するというスキルだ。現代兵器が負けるか?思考実験してみよう。銃弾は重力ではじかれるし……。質量をもつ兵器は基本的にダメか。指向性エネルギー兵器は実験段階だし……。空爆しようとしても重力加速度をマイナスにされて爆弾が上にいってしまう。あれ詰んでね。
 いやゼロ距離で核兵器なり生物兵器なりを召喚すれば勝てるか。うわあ被害甚大。


「ってよくよく考えたら、この勝負最初から負けてない?」
「僕は知ってたけどね。アイスさんはもう金貨五十枚ぐらい稼いでるらしいよ。」


 金貨五十枚って日本円にしたら五百万じゃないか。これは負けた……。何で最初に気づけなかったのか、自分の短慮さが悔やまれる。ん?待てさっきの発言引っかかる。


「僕は知ってただと!?」
「……君は頑張ったよ。」


 意味深な笑みと共に彼女の右手が頭の上に置かれる。俺が座っているから丁度いい位置に頭があったのだろう。


「いやあ、ほんとに昔の君にそっくりだね。さっきもそう思ったけど改めて感じる。」


 百希は目をこすりながら嬉しそうに言った。もてあそばれるだけなのは癪に障る。女性にしてはいけない質問その一をぶつけてやる。


「なら百希は今何歳なの?」
「僕?僕は肉体年齢なら君と同じ。精神年齢なら十九。」


 彼女は一瞬キョトンとしたが直ぐに質問に答えた。駄目だ勝てる気がしない……。ため息が思わずこぼれる。俺は一体何をしていたんだ。

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