異世界の死の商人

ワナワナ

第二十四話 王国正規軍

 スマホのカメラを使って街の風景を窓から撮ろうとする。この城塞都市は大きな壁に囲まれていて日が沈むのが早い。夕日はまだまだ先だが良い写真が撮れそうだ。


『マスター、敵戦力の一部を把握しました。』


 スマホの通知欄にアトランからの連絡が現れる。人ならざる別の知性は最近俺が命令していない事までやるのが好きなようだ。


 『王国正規軍は近年の重税によって他国と比べても頭一つ抜けている強さです。この世界は火砲の変わりに魔法を使っています。そして王国正規軍は魔法使いが多く火力が非常に高いです。しかし総数は少なく反乱軍以下です。少数精鋭ですね。』


『彼らは騎兵です。兵種を決めるなら魔導騎兵といったところでしょうか。その機動力と火力を武器に数多の諸侯をまとめ揺るがぬ王政を築きました。』


『またフロント王国につくか、フロント帝国につくか悩んでいる宙ぶらりんの貴族がまだ多いので外交戦が続きそうですね。決戦は先です。』


 魔法か……海賊と戦った時はファランクス(近接防御火器システムの一種)で迎撃出来てたし勝てる勝てる。問題なし。


「他に報告は?」


『……このフロント帝国のインフラは貧弱です。革命軍の戦車も無用の長物かと……。』


 インフラか……。俺が戦車で移動したときも河を渡るのは大変だったからな。道路網の拡充がこの国の課題かもしれない。












 コンコンとドアを叩く音が聞こえる。俺が入って良いことを伝える前にドアが開く。セミロングの白髪の彼女はいつもとは違い腰に短剣を下げていた。


「どうしたの?ミーラ。」
「あ、あの。えっと……。」


 彼女は恥ずかしいのか中々次の言葉が出てこない。俺は立ち上がって開いたままのドアを閉める。一体何の用だろう?


「深呼吸でもする?」
「そうします……。」


 彼女が深呼吸をしている間、空を流れる雲が遅く感じられた。夕闇が暗闇へと移ろい街の明かりが灯る。俺がベッドから窓の外を眺めていると、彼女は落ち着いたのか俺の隣に座ってきた。


「実は、一つ頼みがあって……、」


「今日は一緒にいたいです……。だめ……ですか?」


「うん、良いよ。」


 彼女はそう言って俺の手を握り寄りかかる。ミーラらしくない行動だ。酒だろうか?それとも何か別の理由がある?夜だから彼女の顔を見ることもできない。お互いが黙り、支え合っていると彼女から口を開いた。


「実は今日、初めて魔物と戦ったんです。」
「あ、大丈夫ですよ怪我とかはしてないです。むしろ魔物に完勝しました。」




「アイスさんも私の戦闘を褒めてくれましたでも……。」
「でも?」
「私、まだこの短剣を使い始めて一週間半しか経ってないんです。どう考えても早すぎてそれで私自分が怖くなって……。」
「私が私ではなくなって行く気がして……。」


 彼女の手は震えていた。短剣が上手いという事は常識的に考えたら喜ばしい事なのに彼女は違う。


「村のみんなに育てられてきたから私は自分の両親を見たことがなくて……ずっと思ってたんです。私のお父さんとお母さんは何をしていたのかな?って。」


「もしお父さんとお母さんも短剣が上手かったならそんな職業何て暗殺者ぐらいしか思いつかなくて……。」


「ミーラはミーラだよ。気にしない方が良い。」
「それにミーラと同じ冒険者だったかも。」


 部屋は暗く視覚が頼りにならない。でもその代わり彼女の体温がよく感じられる。俺はミーラの震える手を両手で握る。彼女が自分自身を恐れるのは何故だろうか?


「そう……ですね。私の早とちりでした。」
「ユータ様は自分の事を怖くなったりしませんか?」
「いや。」


 自分の力が自分のコントロールを離れると初めて感じる感覚なのだろう。俺の武器使役スキルのアトランは何度か俺のあずかり知らぬ所で動いているが情報収集ばかりで恐怖を感じた事は無い。


「たとえミーラがどれだけ強くても怖くは無いかな。」
「どうしてですか?」
「…………信頼してるから。」


 彼女の震えが止まる。


「アイスに褒められるぐらい短剣の使い方が上手って事は誇れることだよ。」
「…………。ありがとうございます。」


 彼女は珍しく特に謙遜しなかった。俺はミーラの手から片手を離す。月明かりで見えた彼女の顔に恐怖の色は見られなかった。俺の視線に気づいたのか彼女はこう言う。


「そろそろ一緒に寝ますか?」


 今度は俺の思考が止まった。彼女の今日は一緒にいたいという言葉にはこの意味も含んでいたのか?唐突過ぎる。


「あ、あの駄目ですか?」
「いや、そういう訳じゃないけど……。」


 彼女は俺の答えに満足したのか俺のベッドで寝てしまった。隣を手で叩いて俺を促す。心拍数が上がる。特に意識しないでも心臓の音が聞こえる。
 俺は彼女の隣に寝る。本来は一人用のベッドなので狭く、彼女との距離は近い。でも彼女の表情は暗くてよく分からない。互いにまたしばらく話題が見つからず沈黙する。この永遠とも思われた沈黙はあっけなく終わった。


「zzz…」


 隣から寝息が聞こえてきた。彼女は眠ったようだ……。彼女は言葉の意味を純粋にとらえていたのに対し俺は……。心の中でため息を吐く。
 俺はベッドから起き上がりカーテンを閉じる。本当に月明かりも何も無い暗闇の中で俺は自分の位置を手探りで把握しながらベッドに入った。
 思いがけなく俺の手が彼女に触れる。


「ん……。」
「あっ……ごめん。」


 決してわざとでは無い。そう自分に言い訳しないと危なかった。彼女が冒険の疲れで眠っているのに起こすのは無粋だ。俺は何も考えずにただ眠る事にした。




















 余りにも恥ずかしくなって寝たふりをしてしまいました。私は薄く目を開けて彼を見ます。私は昔から目は良い方でどんな。でも初めて彼と会った時みたいに急に明るくなると目が全然見えなくなっちゃいます。


 彼はカーテンを閉めて眠るようです。あれ?ユータ様って暗い所でも目が見えたっけ?彼は視覚ではなく触覚に頼りました。


「ん……。」


 彼の手が私の尻尾に触れます。声を出さないように必死で我慢しました。彼にとっては私は寝ているはずなのに小さく謝罪していました。答えられませんがいつか必ず仕返しします。




 彼が眠ります。私は目を開けて彼の顔を見ます。すごく幸せそうです……。私は彼の左手を握ります。海岸の時とはすっかり立場が逆ですね。何か感慨深い物があります。


「こうしてあなたと過ごす時間すごく好きですよ……。」


 いつかユータ様を呼び捨て出来たら良いな……。心が温かくて私の意識はまどろみました。














 朝が来た。時計を確認すると十一時だったが俺にとっては朝だ。隣で起きていた彼女と目があう。何故起こさなかったのか聞くと彼女は起こすのが可愛そうでしたと答えた。


 更に部屋を見回すと何故か百希が倒れてアイスが看病していた。


「えっと、どうしてこうなった?」
「あなたが起きないから百希が起こしに行こうって提案したわそれで……。」


「それで百希さんが私達を見て倒れちゃいました。」


「…………。」


 ま、まぁこの問題は先送りにしよう。

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