異世界の死の商人
第十六話 権威を得て
戦車は西へ進む。雨の中でただひたすら進む。渡河し、湖を迂回し、草原に二本の爪痕を残して進む。そして俺達はようやくここにたどり着いた。
「ここは……どこだ?」
「私も来たことが無いわ……。」
俺達の目の前には壁に囲まれた都市と壁を囲むようにして設営されたテントがあった。小雨が降る中で俺は戦車をテントへ向かわせた。
「多分ここは私が生まれ育った領地の一番発展している所です。確か……村のみんなは城塞都市って呼んでました。」
「ならここは王国西端の都市、侯爵が統治する場所よ。」
「へ、へえー。」
二人共よく知ってるな……。そんなことより弾を渡さないとならない。俺は一番偉そうな天幕を探す。中々見当たらない。前来た時よりも天幕の数そのものが増えている。
「二人共、一旦外に出よう。」
俺は武器使役スキルで戦車のハッチを開けた。ミーラは少し驚いて、それから外へ出た。
「外は久しぶりですね。空気が美味しいです。」
「ええ、本当にそうね。」
彼女は伸びをする。俺も全く同じ気持ちだ。俺達は戦車から降りて歩いて反乱軍の所へ歩く。砂利道を歩くのは久々でアスファルトや石畳の道路が恋しくなった。
前から馬の蹄の音が聞こえる。俺がいた世界では騎兵は過去の物だった。こちらの世界ではごく自然に馬が使われている。
「よぉ、良いところで来てくれたな。」
全く危機感を感じさせない声だ。俺の目の前にいる彼は指名手配犯にして反乱軍のリーダーである、リベレだ。彼は馬から降りて俺に目線を合わせてくれる。
「雨も降っているし、こっちに来てくれ。歓迎する。」
リベレは俺達を天幕へ案内した。前とは場所が違うがテントの中はそこまで変わっていない。テーブルとその上に地図がある。地図には駒がいくつか置かれていてキングの駒が現在地から東にいた。
「弾が足りないって聞いて急いで来たんだ。いくつぐらい必要なんだ?」
「……まて誰から聞いたんだ。」
「俺の武器使役のスキルだよ。」
「文字通り、武器を使役するのか?」
「その通り。」
「もう一つある。武器召喚でこれも文字通りだ。」
彼は少し逡巡してから自らの左手を俺に見せてきた。虹色の文字が彼の手に浮き上がっている。俺と同じスキルの色だ。
「お前が明かしたなら俺も言わないといけないな。ユータ、俺のスキルは『国家俯瞰』だ。国家を一歩引いて見通すスキルって説明されてる。」
国家俯瞰だと……俺の武器召喚とかミーラの小さな幸運とかアイスの重力魔法よりも難しい字だな。みんなの左手を見ようとふと隣を見るとミーラがいなくなっていた。リベレの他の村人に会いに行ったのだろうか。何だろうかこの胸の辺りの貫くような痛さはどこから来ているのだろうか。
「まぁそんな事より、まずは弾を持ってきてくれてありがとう。」
「いや、これから喚ぶんだ。持ってきてはない。」
リベレは数秒おいてから納得がいったのか別の話題に変えてきた。
「なぁ所で、あなたは誰なんだ?」
彼はアイスに尋ねる。そういえば紹介していなかった。テーブルの上に乗ったキングの駒が突然倒れる。アイスはそんな事を意にも介さず手紙を取り出しながら答えた。
「それを読めば分かるわ。」
彼はそれを無言で受け取り読み始めた。彼はナイフで手紙の封を開ける。俺も中身は知らない。沈黙が場を支配する。手紙はそういう事に疎い俺でも分かるほど歴史を感じさせる紙質で荘厳な雰囲気を醸し出していた。
「…………こいつは金貨にも勝る知らせだ。」
リベレは手紙を置いて短くそう呟いた。そして俺とアイス両方に語りかける。
「朕、王国の惨憺たる状況を憂い今後を鑑みるに現政権は王国の統治に相応しく無いと判断するに至る。
朕は革命軍の主導者、リベレに命ず。現政権を打倒せよ。
第二十七代目皇帝。」
は?何を言ってるんだ。難しい言葉を並べたてて全然言いたい事が分からない。反対にアイスは分かったのか凄く驚いていた。
「えっと何て言ってるんだ?」
「勅命だよ。こいつは、この国で一番権威ある人の命令だ。俺達は正当性を得る事が出来たんだよ。」
「アイスってそんな偉い人を知ってたのか……。」
「前に言った気がするのだけど……。」
アイスは呆れていた。そしてこう続ける。
「一応、メラージ家は千年前ぐらいにあった帝国の皇帝の末裔なのよ。かつては結婚だけで大陸の西を制したのよ。だから権威とかそういう面で言ったらまだ私の家は力がある方なの……。
私にはそこまで関係無いけどね。」
最後に彼女はそう付け足した。前に嘘だと思っていた事は本当だったのか……。でも正直アイスに権威の欠片も感じた事が無いから嘘と思っても仕方ない気がする……。
アイスは何かを感じ取ったのか俺の耳を引っ張って何か失礼な事を考えていたわねと耳元で囁いた。俺は図星だったので何も答え無かった……。すいません。
「その様子だと、特にユータが手助けした訳では無さそうだな。完全にメラージ家独自の動きか。」
「ええ、そのようね。私もこうなるとは思わなかったわ。」
「本当ならパーティーでもしたいが状況が状況だ。ユータ実は相談したいことがある。」
リベレはまた真面目な顔で切り出す。俺は黙って頷く。
「現在、我々は城塞都市を包囲している訳だが……正直奇跡に近い。」
「俺の誘引戦術がなかったらそもそも包囲出来る程我々の数も増えていないし敵も減っていない。」
「我々には攻城兵器が無い。良いものはあるか?」
なるほど。難過ぎる政治用語は分からないが戦争と経済は少し分かる。攻城兵器か……。そもそも現代戦は要塞そのものが無かったからな……。あ!そうだよ丁度いい戦車の主砲なら城門ぐらい吹き飛ばせるだろう。
「ある。丁度それに乗ってきたんだ。」
「本当か?」
それにしても今のリベレはまさに指揮官って感じた。人を率いるタイプ。俺とは違う。
場所は変わって、ミーラは戦車の上で空を見ていた。彼女は革命軍の中で知り合いを探したがあまりの人数の多さに諦めてしまった。
「最初は村人だけだったのにここまで多くなるなんて……。」
彼女は自らの左手を眺める。『小さな幸運』というスキルの文字を右手の指で彼女はなぞる。
「もっと強いスキルなら私は彼の隣に立てたのでしょうか?」
「もし隣に立てたらそれが多分一番の幸せですけどもうすぐ身分も違くなるし無理なのかなぁ……。」
彼女は敬語を微妙に使えていなかった。それは恐らく彼がいないからだろうか?それとも別の気持ちからだろうか。彼女以外、知るものはいない。
ただ水滴が戦車と彼女の頬を濡らしていた。
「あれ?どうして……。」
彼女は目をこする。そして突然エンジンの音が響いた。戦車は操縦士なしで前進する。彼女は何が何だか分からず、ただ座っていた。そしてある三人の前で止まった。
「あれ、ミーラだ。ここにいたのか。」
「ゆ、ユータ様。どうしたんですか?」
「取り敢えず降りてきなよ。」
ミーラは数分後、彼と同じ目線まで降りてきた。
「良かった迷子になったのかと思ったよ。」
「はい。ユータ様は用事は終わったのですか……。」
ユータとミーラが話始めるとリベレも話し始めた。小雨が彼等の話を覆い隠す。
「気まずいな……。」
「全く持って同感ね。」
アイスも思う所があるのか彼等の話は弾む。
「まだくっついて無いのか?」
「そうよ。どっちかがアタックすれば終わると思うけど。」
「……それだと終わらないと思うが……。」
「その通りね。」
リベレはアイスとユータを見比べてこう聞く。
「……アイス・メラージか……なるほどな。ユータは落とせそうか?」
「そうね……彼はまだ気づいて無いから言わないようにね。五分五分よ。」
リベレは頷くとユータとミーラの会話に割り込むために四歩程歩き始めた。今日は小雨が降る。しかし戦車の残した二本の爪痕は小雨程度にはかき消されないほど深い物だった。
「ここは……どこだ?」
「私も来たことが無いわ……。」
俺達の目の前には壁に囲まれた都市と壁を囲むようにして設営されたテントがあった。小雨が降る中で俺は戦車をテントへ向かわせた。
「多分ここは私が生まれ育った領地の一番発展している所です。確か……村のみんなは城塞都市って呼んでました。」
「ならここは王国西端の都市、侯爵が統治する場所よ。」
「へ、へえー。」
二人共よく知ってるな……。そんなことより弾を渡さないとならない。俺は一番偉そうな天幕を探す。中々見当たらない。前来た時よりも天幕の数そのものが増えている。
「二人共、一旦外に出よう。」
俺は武器使役スキルで戦車のハッチを開けた。ミーラは少し驚いて、それから外へ出た。
「外は久しぶりですね。空気が美味しいです。」
「ええ、本当にそうね。」
彼女は伸びをする。俺も全く同じ気持ちだ。俺達は戦車から降りて歩いて反乱軍の所へ歩く。砂利道を歩くのは久々でアスファルトや石畳の道路が恋しくなった。
前から馬の蹄の音が聞こえる。俺がいた世界では騎兵は過去の物だった。こちらの世界ではごく自然に馬が使われている。
「よぉ、良いところで来てくれたな。」
全く危機感を感じさせない声だ。俺の目の前にいる彼は指名手配犯にして反乱軍のリーダーである、リベレだ。彼は馬から降りて俺に目線を合わせてくれる。
「雨も降っているし、こっちに来てくれ。歓迎する。」
リベレは俺達を天幕へ案内した。前とは場所が違うがテントの中はそこまで変わっていない。テーブルとその上に地図がある。地図には駒がいくつか置かれていてキングの駒が現在地から東にいた。
「弾が足りないって聞いて急いで来たんだ。いくつぐらい必要なんだ?」
「……まて誰から聞いたんだ。」
「俺の武器使役のスキルだよ。」
「文字通り、武器を使役するのか?」
「その通り。」
「もう一つある。武器召喚でこれも文字通りだ。」
彼は少し逡巡してから自らの左手を俺に見せてきた。虹色の文字が彼の手に浮き上がっている。俺と同じスキルの色だ。
「お前が明かしたなら俺も言わないといけないな。ユータ、俺のスキルは『国家俯瞰』だ。国家を一歩引いて見通すスキルって説明されてる。」
国家俯瞰だと……俺の武器召喚とかミーラの小さな幸運とかアイスの重力魔法よりも難しい字だな。みんなの左手を見ようとふと隣を見るとミーラがいなくなっていた。リベレの他の村人に会いに行ったのだろうか。何だろうかこの胸の辺りの貫くような痛さはどこから来ているのだろうか。
「まぁそんな事より、まずは弾を持ってきてくれてありがとう。」
「いや、これから喚ぶんだ。持ってきてはない。」
リベレは数秒おいてから納得がいったのか別の話題に変えてきた。
「なぁ所で、あなたは誰なんだ?」
彼はアイスに尋ねる。そういえば紹介していなかった。テーブルの上に乗ったキングの駒が突然倒れる。アイスはそんな事を意にも介さず手紙を取り出しながら答えた。
「それを読めば分かるわ。」
彼はそれを無言で受け取り読み始めた。彼はナイフで手紙の封を開ける。俺も中身は知らない。沈黙が場を支配する。手紙はそういう事に疎い俺でも分かるほど歴史を感じさせる紙質で荘厳な雰囲気を醸し出していた。
「…………こいつは金貨にも勝る知らせだ。」
リベレは手紙を置いて短くそう呟いた。そして俺とアイス両方に語りかける。
「朕、王国の惨憺たる状況を憂い今後を鑑みるに現政権は王国の統治に相応しく無いと判断するに至る。
朕は革命軍の主導者、リベレに命ず。現政権を打倒せよ。
第二十七代目皇帝。」
は?何を言ってるんだ。難しい言葉を並べたてて全然言いたい事が分からない。反対にアイスは分かったのか凄く驚いていた。
「えっと何て言ってるんだ?」
「勅命だよ。こいつは、この国で一番権威ある人の命令だ。俺達は正当性を得る事が出来たんだよ。」
「アイスってそんな偉い人を知ってたのか……。」
「前に言った気がするのだけど……。」
アイスは呆れていた。そしてこう続ける。
「一応、メラージ家は千年前ぐらいにあった帝国の皇帝の末裔なのよ。かつては結婚だけで大陸の西を制したのよ。だから権威とかそういう面で言ったらまだ私の家は力がある方なの……。
私にはそこまで関係無いけどね。」
最後に彼女はそう付け足した。前に嘘だと思っていた事は本当だったのか……。でも正直アイスに権威の欠片も感じた事が無いから嘘と思っても仕方ない気がする……。
アイスは何かを感じ取ったのか俺の耳を引っ張って何か失礼な事を考えていたわねと耳元で囁いた。俺は図星だったので何も答え無かった……。すいません。
「その様子だと、特にユータが手助けした訳では無さそうだな。完全にメラージ家独自の動きか。」
「ええ、そのようね。私もこうなるとは思わなかったわ。」
「本当ならパーティーでもしたいが状況が状況だ。ユータ実は相談したいことがある。」
リベレはまた真面目な顔で切り出す。俺は黙って頷く。
「現在、我々は城塞都市を包囲している訳だが……正直奇跡に近い。」
「俺の誘引戦術がなかったらそもそも包囲出来る程我々の数も増えていないし敵も減っていない。」
「我々には攻城兵器が無い。良いものはあるか?」
なるほど。難過ぎる政治用語は分からないが戦争と経済は少し分かる。攻城兵器か……。そもそも現代戦は要塞そのものが無かったからな……。あ!そうだよ丁度いい戦車の主砲なら城門ぐらい吹き飛ばせるだろう。
「ある。丁度それに乗ってきたんだ。」
「本当か?」
それにしても今のリベレはまさに指揮官って感じた。人を率いるタイプ。俺とは違う。
場所は変わって、ミーラは戦車の上で空を見ていた。彼女は革命軍の中で知り合いを探したがあまりの人数の多さに諦めてしまった。
「最初は村人だけだったのにここまで多くなるなんて……。」
彼女は自らの左手を眺める。『小さな幸運』というスキルの文字を右手の指で彼女はなぞる。
「もっと強いスキルなら私は彼の隣に立てたのでしょうか?」
「もし隣に立てたらそれが多分一番の幸せですけどもうすぐ身分も違くなるし無理なのかなぁ……。」
彼女は敬語を微妙に使えていなかった。それは恐らく彼がいないからだろうか?それとも別の気持ちからだろうか。彼女以外、知るものはいない。
ただ水滴が戦車と彼女の頬を濡らしていた。
「あれ?どうして……。」
彼女は目をこする。そして突然エンジンの音が響いた。戦車は操縦士なしで前進する。彼女は何が何だか分からず、ただ座っていた。そしてある三人の前で止まった。
「あれ、ミーラだ。ここにいたのか。」
「ゆ、ユータ様。どうしたんですか?」
「取り敢えず降りてきなよ。」
ミーラは数分後、彼と同じ目線まで降りてきた。
「良かった迷子になったのかと思ったよ。」
「はい。ユータ様は用事は終わったのですか……。」
ユータとミーラが話始めるとリベレも話し始めた。小雨が彼等の話を覆い隠す。
「気まずいな……。」
「全く持って同感ね。」
アイスも思う所があるのか彼等の話は弾む。
「まだくっついて無いのか?」
「そうよ。どっちかがアタックすれば終わると思うけど。」
「……それだと終わらないと思うが……。」
「その通りね。」
リベレはアイスとユータを見比べてこう聞く。
「……アイス・メラージか……なるほどな。ユータは落とせそうか?」
「そうね……彼はまだ気づいて無いから言わないようにね。五分五分よ。」
リベレは頷くとユータとミーラの会話に割り込むために四歩程歩き始めた。今日は小雨が降る。しかし戦車の残した二本の爪痕は小雨程度にはかき消されないほど深い物だった。
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