異世界の死の商人
第九話 ミーラ見敵
時は少し戻る。
俺が見た港湾都市の町並みは故郷の日本とは全く異なっていた。まず建物の色が違う。画一的な日本の家屋と港湾都市のカラフルな家は違った良さがある。黄色や水色そして橙色、中には桃色も合った。三方を海に囲まれたこの都市は異世界を感じさせた。
「ミーラ、困った事になった。何処に艦を停泊させよう?」
「それを私に聞くんですか?私は船に乗るのはこれが初めてなので分からないです。」
ミーラは何て言えば良いのか分からずオロオロしている。それよりもこの船が初めてだと?良いな羨ましい。
「えっ!?そうなの?羨ましい。」
「羨ましいですか?、まぁ聞いていたよりも揺れなくて楽でしたけどそういう理由ですか?。」
「いや違うよ。」
ミーラは誤解していると思うけど普通はもっと揺れる。そう俺の乗るこの空母は大きすぎた。そして排水量が十万トンを超える艦が停められる埠頭など無かった。港町を名乗るならこれぐらい停めてみせろって言いたいけど異世界に求めるのは酷だろう。適当なボートに乗って行くとしよう。
「ユータ様、近づいて来る船があります。」
「え、何処?見えない。」
「ほらあっちの方です。」
目を凝らす。池に浮かぶ木の葉のように揺れる船。ミサイル駆逐艦よりもずっと小さい船だ。とりあえず空母を停めて話を聞いてみよう。
「第一艦隊は停泊せよ。」
錨が降りてやがて艦は止まった。俺とミーラはただこちらへ向かう小舟を眺めていた。快晴の下、小舟はゆっくりと空母の影に近づく。そして突然、胃の浮き上がるようなあの感覚に襲われた。また重力が戻って甲板に人が落ちた。空から落ちてきた。信じられない翼が無くても人は飛ぶ事が出来るのか。
『敵性個体の乗艦を確認。いかがしますか?』
アトランは文字で訴える。まさかこの船に乗れる人がいるとは思わなかった。とりあえず話して見よう。
「アトラン、様子を見てくれ。俺が話してくる。」
『了解。』
俺は艦橋を降りて甲板に出る。サッカーコートと遜色ない広さの甲板。全長が三百メートルを超える巨艦を歩き俺とミーラは不審者に会いに行ってみた。
不審者は物珍しそうにF/A-18(艦上戦闘機)を見ていた。手で翼を触ったり叩いたりしている。互いが視認出来る距離まで近づくと彼女は気づいたのか話しかけてきた。
「あなたがこの船の所有者?……ですか?」
「えっと、そうです。」
「船員は?どこにいるのですか?」
「いないよ。俺とミーラだけだ。」
敬語に余り慣れていなさそうな言葉遣いだ。彼女のオレンジのツインテールが好天の光でまた違った色に見える。見た所髪の色以外は普通の人だ。
「私はアイス・メラージ。一応貴族だけど肩書だけだから気を使わなくて良いわ。あなた方は?」
「俺はユータ。武器商人だ。」
「私はミーラです。階級は平民です。」
階級……?そんなものがあるのか。明確に区別されているとしたら態度に気をつけないと……いや別に従う理由もないか。特に貴族に守られている訳ではないし。アイスは少しいぶかしげに次の質問を飛ばした。
「何をしにここまで?ユータさん。」
敬語が使えているようで使えていない。本当に貴族か?とりあえず美味しいと感じられるご飯が食べたいからここに来たんだ。もう調味料の味しかしない料理はいらない。他に理由は無い。いや金が無いから商売が先か。
「商売だよ。何か欲しい武器はある?」
「いえ、先に入港料を払って……ください。」
入港料だと…………。偽造通貨を作ってる国があったなあれは兵器に分類されるのか?状況は最悪だ。金が一円も無い。まずこの世界の通貨の単位すら知らない。やっぱり偽造通貨しかないか……。
「何処の国の通貨?」
「このフロント王国銀貨十枚よ。」
素が出たな。銀貨か……流石に偽造出来ない、紙幣ならできたのにな。何か適当な物を渡して穏便に済ませてもらおう。何があるか。武器以外は何も無いな……。
「何か好きなものを一個あげるからそれで何とかならないか?」
「え……。何でも良いの?」
アイスは驚いた顔で聞き返してくる。どうせ大したものは無い。どれも少しの時間で召喚できるものばかりだ。アイスはどれにしようかと周りを見ながら考え始めた。するとミーラが良い案を出してくれた。
「ユータ様、調理場にあったコショウを渡せば良いかと。」
「……そうか、そうすれば良かったのか。ミーラ取りに行ってくれる?」
「任せて下さい。」
ミーラが駆け出して取りに行ってくれた。後でお礼を言わないと。それにしてもさっきの胃の浮き上がるような感覚は何だったのだろうか?少し経った後、ミーラは例の物を持ってきてくれた。少し危なげな走りでアレスティング・ワイヤー(航空機が空母に着艦する際に使われるワイヤー)で転ばないか心配になった。
「ありがとう、ミーラ。」
「はぁはぁ、これで大丈夫ですか?」
「……こんなに沢山は受け取れないわ。とにかく街の然るべき所に行きましょう。私は重力魔法使いで、これから移動するけど少し我慢してね。」
体が浮き上がる。横に落ちる。俺とは全く違う能力だ。重力魔法使いか、もしそんな人が地球にいたら航空機は生まれなかっただろう。ここはスキルを得て科学を捨てた、きっとそういう世界だ。ミーラのスキル『小さな幸運』を実感した事は俺は無いしスキルの当たり外れが大きいな。これだけ力に差があると革命が起きづらい気がする、新陳代謝が起きない社会がどんなふうなのか気になるな。
アイスのスキルで街までついた。船の積荷がところ狭しに置かれている。然るべき所とは街に入港している船を管理する場所のようだ。適当にコショウを渡すとそれを計ってくれてお釣りまで返ってきた。仕事は真面目でとても好印象だ。さてミーラと二人で街を散策しようかな。そんな事を考えているとアイスから質問がきた。
「もしかして二人って恋人?」
俺とミーラの関係は何か?この問に明確な答えは俺には無い。書類上は担保だけだが今、俺にとってミーラはもっと別の存在に感じる。チラッとミーラを横目に見るとミーラは何かを期待した目で俺を見ていた。目が合う。彼女の顔は赤く。俺もいつもより体温が高い気がする。気恥ずかしいからか本心とは違う言葉が出る。
「まさかそんな事はないよ。どうしてそんな質問をするんだ?」
ミーラを見ると選択を間違えた気がしてならない。耳が垂れている。何より顔が寂しげだ。対称的にアイスは何やら楽しげだ。俺たちの反応が面白いのだろうか?
「別に気になっただけよ。それと私が街を案内しましょうか?」
アイスを信用して良いのか?何かを見落としている気がする。何だ?彼女は貴族だと言った。重力魔法使いだ。心は信用出来ると思っているだが頭がそれを否定する。彼女に悪意は見えない。でも行動が不可解過ぎる。何が目的何だ?
「いや、二人で回ろうと思うから良いよ。」
「そう……残念ね。また暇なときに会いましょう。さようなら。」
俺は手を振りアイスと別れる。同時に少し心が痛むのだった。俺は彼女の親切心を無下にしたのではないか。もし裏が無かったなら俺は酷い事をしてしまった。
「ユータ様、良かったのですか?優しそうな方でしたけど。」
「根拠は無いんだけど胸騒ぎがしたんだ。」
「まぁユータ様に従いますけどただの親切心だと思います。」
日は西へ傾き水平線の上に第一艦隊が黒くその存在を主張していた。街の人はまばらになり夜が近づいている。石畳の道を俺とミーラは歩き宿を探すのだった。
「友達以上恋人未満の従者ってとこかしらね。二人の間に割り込むのは難しいから……まずは信頼を勝ち取らないと進まないわね。」
アイスはベッドの上に座って策を練っていた。部屋の窓が空いていてそこから見える景色は街を上から見れる程良かった。窓から鳩が入ってきて手紙をおいていく。手紙のハンコはメラージ家当主の物だった。
「伯父から?状況を報告せよ。必要なら支援する。
返事を書かないと……面倒ね。
状況は良好。ターゲットとの接触に成功しました。されど恋敵あり、交際費を要請します。」
彼女は手紙を書き終え次の策を練る。彼女の障壁はミーラなのだ。日がとうとう落ちて暗くなる。アイスはロウソクに火を付けて考えを更に巡らせる。
「ミーラさんの魅力は多分優しさね。それを逆手に取れば……。二人で共闘も可能かしら?」
夜が更けていく。ミーラとアイス、二人の恋は圧倒的ハンデを抱えて始まった。目的が明確か不明確かこの差はやがて歴然となる。戦略を描けぬ者か戦術を描いてもその差を埋めるのは容易では無い。アイスは『メラージ家恋愛指南書』という題の本を読み作戦を形にしていった。
俺が見た港湾都市の町並みは故郷の日本とは全く異なっていた。まず建物の色が違う。画一的な日本の家屋と港湾都市のカラフルな家は違った良さがある。黄色や水色そして橙色、中には桃色も合った。三方を海に囲まれたこの都市は異世界を感じさせた。
「ミーラ、困った事になった。何処に艦を停泊させよう?」
「それを私に聞くんですか?私は船に乗るのはこれが初めてなので分からないです。」
ミーラは何て言えば良いのか分からずオロオロしている。それよりもこの船が初めてだと?良いな羨ましい。
「えっ!?そうなの?羨ましい。」
「羨ましいですか?、まぁ聞いていたよりも揺れなくて楽でしたけどそういう理由ですか?。」
「いや違うよ。」
ミーラは誤解していると思うけど普通はもっと揺れる。そう俺の乗るこの空母は大きすぎた。そして排水量が十万トンを超える艦が停められる埠頭など無かった。港町を名乗るならこれぐらい停めてみせろって言いたいけど異世界に求めるのは酷だろう。適当なボートに乗って行くとしよう。
「ユータ様、近づいて来る船があります。」
「え、何処?見えない。」
「ほらあっちの方です。」
目を凝らす。池に浮かぶ木の葉のように揺れる船。ミサイル駆逐艦よりもずっと小さい船だ。とりあえず空母を停めて話を聞いてみよう。
「第一艦隊は停泊せよ。」
錨が降りてやがて艦は止まった。俺とミーラはただこちらへ向かう小舟を眺めていた。快晴の下、小舟はゆっくりと空母の影に近づく。そして突然、胃の浮き上がるようなあの感覚に襲われた。また重力が戻って甲板に人が落ちた。空から落ちてきた。信じられない翼が無くても人は飛ぶ事が出来るのか。
『敵性個体の乗艦を確認。いかがしますか?』
アトランは文字で訴える。まさかこの船に乗れる人がいるとは思わなかった。とりあえず話して見よう。
「アトラン、様子を見てくれ。俺が話してくる。」
『了解。』
俺は艦橋を降りて甲板に出る。サッカーコートと遜色ない広さの甲板。全長が三百メートルを超える巨艦を歩き俺とミーラは不審者に会いに行ってみた。
不審者は物珍しそうにF/A-18(艦上戦闘機)を見ていた。手で翼を触ったり叩いたりしている。互いが視認出来る距離まで近づくと彼女は気づいたのか話しかけてきた。
「あなたがこの船の所有者?……ですか?」
「えっと、そうです。」
「船員は?どこにいるのですか?」
「いないよ。俺とミーラだけだ。」
敬語に余り慣れていなさそうな言葉遣いだ。彼女のオレンジのツインテールが好天の光でまた違った色に見える。見た所髪の色以外は普通の人だ。
「私はアイス・メラージ。一応貴族だけど肩書だけだから気を使わなくて良いわ。あなた方は?」
「俺はユータ。武器商人だ。」
「私はミーラです。階級は平民です。」
階級……?そんなものがあるのか。明確に区別されているとしたら態度に気をつけないと……いや別に従う理由もないか。特に貴族に守られている訳ではないし。アイスは少しいぶかしげに次の質問を飛ばした。
「何をしにここまで?ユータさん。」
敬語が使えているようで使えていない。本当に貴族か?とりあえず美味しいと感じられるご飯が食べたいからここに来たんだ。もう調味料の味しかしない料理はいらない。他に理由は無い。いや金が無いから商売が先か。
「商売だよ。何か欲しい武器はある?」
「いえ、先に入港料を払って……ください。」
入港料だと…………。偽造通貨を作ってる国があったなあれは兵器に分類されるのか?状況は最悪だ。金が一円も無い。まずこの世界の通貨の単位すら知らない。やっぱり偽造通貨しかないか……。
「何処の国の通貨?」
「このフロント王国銀貨十枚よ。」
素が出たな。銀貨か……流石に偽造出来ない、紙幣ならできたのにな。何か適当な物を渡して穏便に済ませてもらおう。何があるか。武器以外は何も無いな……。
「何か好きなものを一個あげるからそれで何とかならないか?」
「え……。何でも良いの?」
アイスは驚いた顔で聞き返してくる。どうせ大したものは無い。どれも少しの時間で召喚できるものばかりだ。アイスはどれにしようかと周りを見ながら考え始めた。するとミーラが良い案を出してくれた。
「ユータ様、調理場にあったコショウを渡せば良いかと。」
「……そうか、そうすれば良かったのか。ミーラ取りに行ってくれる?」
「任せて下さい。」
ミーラが駆け出して取りに行ってくれた。後でお礼を言わないと。それにしてもさっきの胃の浮き上がるような感覚は何だったのだろうか?少し経った後、ミーラは例の物を持ってきてくれた。少し危なげな走りでアレスティング・ワイヤー(航空機が空母に着艦する際に使われるワイヤー)で転ばないか心配になった。
「ありがとう、ミーラ。」
「はぁはぁ、これで大丈夫ですか?」
「……こんなに沢山は受け取れないわ。とにかく街の然るべき所に行きましょう。私は重力魔法使いで、これから移動するけど少し我慢してね。」
体が浮き上がる。横に落ちる。俺とは全く違う能力だ。重力魔法使いか、もしそんな人が地球にいたら航空機は生まれなかっただろう。ここはスキルを得て科学を捨てた、きっとそういう世界だ。ミーラのスキル『小さな幸運』を実感した事は俺は無いしスキルの当たり外れが大きいな。これだけ力に差があると革命が起きづらい気がする、新陳代謝が起きない社会がどんなふうなのか気になるな。
アイスのスキルで街までついた。船の積荷がところ狭しに置かれている。然るべき所とは街に入港している船を管理する場所のようだ。適当にコショウを渡すとそれを計ってくれてお釣りまで返ってきた。仕事は真面目でとても好印象だ。さてミーラと二人で街を散策しようかな。そんな事を考えているとアイスから質問がきた。
「もしかして二人って恋人?」
俺とミーラの関係は何か?この問に明確な答えは俺には無い。書類上は担保だけだが今、俺にとってミーラはもっと別の存在に感じる。チラッとミーラを横目に見るとミーラは何かを期待した目で俺を見ていた。目が合う。彼女の顔は赤く。俺もいつもより体温が高い気がする。気恥ずかしいからか本心とは違う言葉が出る。
「まさかそんな事はないよ。どうしてそんな質問をするんだ?」
ミーラを見ると選択を間違えた気がしてならない。耳が垂れている。何より顔が寂しげだ。対称的にアイスは何やら楽しげだ。俺たちの反応が面白いのだろうか?
「別に気になっただけよ。それと私が街を案内しましょうか?」
アイスを信用して良いのか?何かを見落としている気がする。何だ?彼女は貴族だと言った。重力魔法使いだ。心は信用出来ると思っているだが頭がそれを否定する。彼女に悪意は見えない。でも行動が不可解過ぎる。何が目的何だ?
「いや、二人で回ろうと思うから良いよ。」
「そう……残念ね。また暇なときに会いましょう。さようなら。」
俺は手を振りアイスと別れる。同時に少し心が痛むのだった。俺は彼女の親切心を無下にしたのではないか。もし裏が無かったなら俺は酷い事をしてしまった。
「ユータ様、良かったのですか?優しそうな方でしたけど。」
「根拠は無いんだけど胸騒ぎがしたんだ。」
「まぁユータ様に従いますけどただの親切心だと思います。」
日は西へ傾き水平線の上に第一艦隊が黒くその存在を主張していた。街の人はまばらになり夜が近づいている。石畳の道を俺とミーラは歩き宿を探すのだった。
「友達以上恋人未満の従者ってとこかしらね。二人の間に割り込むのは難しいから……まずは信頼を勝ち取らないと進まないわね。」
アイスはベッドの上に座って策を練っていた。部屋の窓が空いていてそこから見える景色は街を上から見れる程良かった。窓から鳩が入ってきて手紙をおいていく。手紙のハンコはメラージ家当主の物だった。
「伯父から?状況を報告せよ。必要なら支援する。
返事を書かないと……面倒ね。
状況は良好。ターゲットとの接触に成功しました。されど恋敵あり、交際費を要請します。」
彼女は手紙を書き終え次の策を練る。彼女の障壁はミーラなのだ。日がとうとう落ちて暗くなる。アイスはロウソクに火を付けて考えを更に巡らせる。
「ミーラさんの魅力は多分優しさね。それを逆手に取れば……。二人で共闘も可能かしら?」
夜が更けていく。ミーラとアイス、二人の恋は圧倒的ハンデを抱えて始まった。目的が明確か不明確かこの差はやがて歴然となる。戦略を描けぬ者か戦術を描いてもその差を埋めるのは容易では無い。アイスは『メラージ家恋愛指南書』という題の本を読み作戦を形にしていった。
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