彼女たちを守るために俺は死ぬことにした
11/14(土) 小鳥遊知実③
………………
…………
……
知実くんは夕方過ぎまで苦しんでいた。何度も吐いて、何度も気を失って、その度に血だらけになった。
最後の方は本当に見ていられないくらいであたしも動けなくて、佐倉さんのサポートを見ていることしかできなかった。
「日野さん、お疲れさま」
指定されたロビーのソファに座って放心しながら待っていると、美原先生が来てくれた。
隣に腰かけたとき少しタバコのにおいがして、ふわふわしていた意識がハッキリと戻された。
「で、どうだった?」
すぐに答えられなくて口ごもってしまったけれど、意を決して聞いてみる。
「あの……これは手術したらもう終わるんですか?」
「いいえ」
すぐにきっぱりと否定される。
「その後5年が大事だからね。しばらく似たような治療は続くわ」
それで冷たい絶望感に襲われた。
「だったらわたし、もう手術してって言えないです……」
あたしは手で顔を覆って俯いた。
「こんなのひどすぎます。なんで普通の人が普通の顔して生きているのに、知実くんは生きるためにこんなにきつい思いをしないといけないんですか」
それを今まで知らなかった自分が、わかったふりして隣にいたのも惨めな気持ちがする。
「せめて苦しいって辛いって、泣き喚いてくれたらよかった! そしたら、もうやめようってすぐに言えたのに! でも知実くんは嫌な顔ひとつ見せないんです! こんなのあたしなんか、なにも言えないです……!」
「……小鳥遊ね、絶対に投薬治療の立ち会いは拒否の姿勢だったの。手術を受けないって話よりもね」
美原先生が静かなトーンで口にした言葉に、顔をゆっくりとあげる。
「でも『日野さんが小鳥遊との将来を望んでいるけど、言い出せないのは知ってるの? つらい姿を見せるのも見るのも精神力がいるけれど、お互いに乗り越えてから話した方が、ベストな答えに行き着くんじゃない?』って言ったら少し考えて。書類3枚、黙ってサインしてくれたのよ」
治療に入る前に知実くんが言ってたことって。……そうだったんだ。
「彼の気持ちがどう、じゃない。彼はあなたが思っている以上に、あなたのことを頼りにしてる。ひとりの人間として、そして大切な人として。もっと自惚れていいのよ」
「……っ!」
胸が苦しかった。
知実くんはあたしのこと、いつもいちばんに考えてくれてる。惜しみない愛情をくれているのに。あたしは、あたしができるのは……。
「あたし先生に言われないと、考えるのを諦めるとこでした。ありがとうございますっ」
涙声で恥ずかしいけれど、頭を下げてお礼を伝えた。
「いいこと教えてあげるわ。男ってね、好きな女からのお願いごとは全力で叶えようとするものよ」
そのときの先生の表情はいつもの仕事モードの笑顔ではなくて、もっと力の抜けたそれだったように見えた。
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知実くんは夕方過ぎまで苦しんでいた。何度も吐いて、何度も気を失って、その度に血だらけになった。
最後の方は本当に見ていられないくらいであたしも動けなくて、佐倉さんのサポートを見ていることしかできなかった。
「日野さん、お疲れさま」
指定されたロビーのソファに座って放心しながら待っていると、美原先生が来てくれた。
隣に腰かけたとき少しタバコのにおいがして、ふわふわしていた意識がハッキリと戻された。
「で、どうだった?」
すぐに答えられなくて口ごもってしまったけれど、意を決して聞いてみる。
「あの……これは手術したらもう終わるんですか?」
「いいえ」
すぐにきっぱりと否定される。
「その後5年が大事だからね。しばらく似たような治療は続くわ」
それで冷たい絶望感に襲われた。
「だったらわたし、もう手術してって言えないです……」
あたしは手で顔を覆って俯いた。
「こんなのひどすぎます。なんで普通の人が普通の顔して生きているのに、知実くんは生きるためにこんなにきつい思いをしないといけないんですか」
それを今まで知らなかった自分が、わかったふりして隣にいたのも惨めな気持ちがする。
「せめて苦しいって辛いって、泣き喚いてくれたらよかった! そしたら、もうやめようってすぐに言えたのに! でも知実くんは嫌な顔ひとつ見せないんです! こんなのあたしなんか、なにも言えないです……!」
「……小鳥遊ね、絶対に投薬治療の立ち会いは拒否の姿勢だったの。手術を受けないって話よりもね」
美原先生が静かなトーンで口にした言葉に、顔をゆっくりとあげる。
「でも『日野さんが小鳥遊との将来を望んでいるけど、言い出せないのは知ってるの? つらい姿を見せるのも見るのも精神力がいるけれど、お互いに乗り越えてから話した方が、ベストな答えに行き着くんじゃない?』って言ったら少し考えて。書類3枚、黙ってサインしてくれたのよ」
治療に入る前に知実くんが言ってたことって。……そうだったんだ。
「彼の気持ちがどう、じゃない。彼はあなたが思っている以上に、あなたのことを頼りにしてる。ひとりの人間として、そして大切な人として。もっと自惚れていいのよ」
「……っ!」
胸が苦しかった。
知実くんはあたしのこと、いつもいちばんに考えてくれてる。惜しみない愛情をくれているのに。あたしは、あたしができるのは……。
「あたし先生に言われないと、考えるのを諦めるとこでした。ありがとうございますっ」
涙声で恥ずかしいけれど、頭を下げてお礼を伝えた。
「いいこと教えてあげるわ。男ってね、好きな女からのお願いごとは全力で叶えようとするものよ」
そのときの先生の表情はいつもの仕事モードの笑顔ではなくて、もっと力の抜けたそれだったように見えた。
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