彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

11/11(水) 小鳥遊知実

「小鳥遊、俺は、俺は〜〜〜〜!! うぅ〜〜〜〜〜!!!」
「……」


 夕方、HRを終えた担任が見舞いに来た。けどずっと泣いてて、マジでうっぜーーーーー。早く帰ってくれないかな……。頭に響いて死にそう。


「もちろん病気のことは話してないがな、クラスのみんなもお前のこと心配してる。お前はお前が思っている以上に、みんなに好かれているんだぞ? 手術のこと、よく考えてみろ? 俺もお前のこと、ずっと待っているからな!! ううぅ〜〜〜〜っ!!」


 悪気がないぶん、地獄かよ。
 うんざりしてると、タイミングよくドアが開いた。顔を出したのは、野中だった。


「……」
「……」
「先生、ちょっと」
「!? おお、野中ぁ〜〜〜っ!」


 野中が担任の肩を叩き、外に連れ出してくれた。一瞬のアイコンタクトで見極めてくれてすごいなあいつ。助かった。

 やっと静かになった病室で大きなため息をつき、頭を後ろに預けた。
 泣かれると、自分が「かわいそう」って言われているような気がして精神的にしんどい。他人から見たら俺って詰んでるし、かわいそうなんだろうけどさ。

 担任が出ていってから少し経ち、再びノックがあった。野中が戻ってきたのかと思ったら、開いたドアの向こうにいちごの顔が覗いた。


「わあ、本当に入院してる……」
「してんすよ」
「おじゃましますっ」


 深夜に知らない屋敷に忍び込むように、そろりそろりと入ってくる。いちご、学校帰りに来てくれたんだろうけど……。


「バイトは休み?」
「ううん、あるよ! 1時間遅く入らせてもらうことにした〜」
「1時間じゃ間に合わなくない?」


 隣町の病院だから往復の電車賃もかかるだろうし、しかもここ高台だから駅からバスで来ないと無理だし、移動だけでも時間がかかる。
 野中みたいにバイクでも持っていれば別だけど、いちごは持ってなかったはず。


「時間をずらしてもらったのも、マスターとサチさんに『知実くんとお付き合いさせていただいてます!』ってご報告したからなんだよ。それで病院教えてもらって、あと自転車もね、貸してくれたぜ〜」


 ええぇ。いちごちゃん大胆っ。つか、それ昨日の話? 親、見舞いのときなにも言ってなかったんだけど。うっわ、急に恥ずーーー!
 昨夜の母親の顔を思い出して頭を抱えていると、いちごが「おじゃましまーす」と、布団をべりっと剥がし、布団に入ってきた。


「えっ!? 何で!?」
「えっ!? ダメだった!?」
「ダメじゃないけど、何してんの!?」


 とがめると、拗ねたようにして口を尖らせる。


「我慢しなくていいって言ったの、知実くんだからね? 知実くんが誰ともしてないことがしたいんだもん……。ってわけで、もちょっとそっち詰めて!」
「ああー」
「えっ、なにその顔。誰か女の子と一緒に寝たことあるの!? 音和ちゃんか!?」
「詰めまーす!!」


 奥にずるずると寄らされて、二人で後ろにもたれかかりつつ並んで座った。なんじゃこれ。


「へえ。これが知実くんの見る景色かー」


 二人でまっすぐに、ただただ白い壁を見つめる。


「なんにもないねえ」
「うん」
「海も見えないんだ……」


 今度は窓へ目を向けて、いちごは寂しそうにつぶやいた。


「ここからは見えないけど、海見えるところに行ってぼーっとすることもあるよ」
「そっか。やっぱ好きだね」
「うん、好き」


 どちらともなく、シーツの上で手を握る。
 なにもない病室だけど今はひとつ花が咲いたように、世界がキラキラして見えますよ。

 しみじみモードに入っていると、乱暴なノックのあと、返事も聞かずにドアが開いた。


「野中おかえりー」
「あ、野中くんだー」
「……お前らさ、可愛いことしてるけど、俺が今までなにしてたか知ってたよね?」


 口調は優しいけど、顔はキレてた。



┛┛┛



 いちごはそのあと慌ただしく帰り、残ってくれた野中と2時間くらいだらだら過ごした。
 夜に母親と音和が来て、入院に必要なものを置いていった。
 音和は病院にいる間、ずっと手を握ってくれていた。
 二人とは最低限しか言葉をかわしてない。それで否応なく、自分の置かれた状況が身に染みた。

 二人の帰り際に「また明日来る」と言われて頷いているとき、ふいに音和が手を強く握ってきた。

 ほぼ半泣きで見上げてくる彼女を見て、無意識に自分の手が震えていたことに気づいた。

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