彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

11/4(水) 日野 苺⑧

 目の前が真っ暗になる。

 あ。ごめんなさい。ごめんなさい……。

 やっぱりいくら嘘をつき通そうとしても、好きになってしまった時点でだめだったんだ。友だちと同じ人が好きだなんて、気分がいいはずないもの。

 足が震える。

 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……。

 自業自得だ……。
 あたしなんかが人を好きになったから。
 そもそも音和ちゃんが知実くんのことを好きな時点で、好きになるべきじゃない人だって知ってたのに。

 手も唇も動かない。

 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……。

 すぐにでもあやまりたいのに、声帯を取られたかのように喉が動かない。
 みんなで一緒にいられなくなるのは怖い。
 なによりも、初めての親友を傷つけたくない……っ!?

 気づくと、いつの間にか七瀬ちゃんに抱きつかれていた。


「よろこんじゃうんだよ! 友だちだからっ!!」
「!?」


 叫ぶと七瀬ちゃんは一度離れて、あたしの両肩に手を乗せた。


「いっちーがあたしのこと思って言ってくれてたんだなって、めっちゃうれしかった! でもね、逆に悲しいなとも思ったの!」


 彼女の大きな瞳から、今日何度目かわからないけれど大きな涙の雫が零れ落ちた。


「いっちー、自分を大切にして? それで、あたしたちにも大切に思わせてよ!!」
「七瀬……ちゃん……っ」
「そんな悲しい顔、させたくないよ! 友だちなら好きな人も取り合って、けんかとかしようよ! そんで、仲直りしたらいーじゃんっ?」


 七瀬ちゃんも辛いはずなのに。ずっとあたしのことばかり気にかけてくれていて。本当にあたしは、人に恵まれた。


「ね、友だちとけんかするのも青春でしょっ?」
「……だけど、できればしたくないよっ」
「そだけどー! するならあたしとがいいよ! ガチだけどさっぱりしてるからさ!」
「もう、七瀬ちゃん大好きだよぉ……!」


 たまらなくなって、あたしから抱きついた。
 それを拒絶することなくしっかりと抱きとめてくれたのが、うれしかった。


「うう……ごめんね、ごめんね七瀬ちゃん。あたしも……知実くんが好きだあー」


 嗚咽とともに、抑えていた気持ちが溢れてくる。
 ついに言っちゃった。誰にも言うつもりなかったのに。特に七瀬ちゃんには絶対に言えるはずなかったのに!


「あはは〜、だよねえ。うん、うんっ。わかるよぉーなっちゃんカッコいいもんね!」
「でもあたし七瀬ちゃんも好きだから、二人がくっつくならいいかなって思ったのは本気だったの」
「いっちぃ優しいかよーーー!! でもいっちー、いっそ告白っていう青春もしといたほうがよくない?」
「っ!」
「だって誰かを好きになることも幸せだけど、誰かに好かれるのも気持ちいいことじゃん」


 しみじみと七瀬ちゃんがつぶやいた。
 誰かに好かれること。
 あたしが今日、みんなにもらったあたたかい気持ち。
 こんなあたしでも、好きな気持ちを……伝えてもいいんだ。


「……そっかぁ。だったら、初めて伝えるなら……」
「えっ?」


 涙を拭って七瀬ちゃんの体から離れた。戸惑うような表情の七瀬ちゃんと顔を合わせる。七瀬ちゃんと出会えて、あたしは少し自分のことが好きになれたよ。
 入り口に走り、置いていたカバンを拾ってドアのカギを開ける。


「七瀬ちゃんありがと。あとで、いっぱいけんかしようね!」


 そう伝えると、そのまま校舎へと飛び込んだ。


「えーー! ちょっと、まじで行っちゃうのーーーー!? ……ぷっ、あっははははははははは!!!」


 七瀬ちゃんの笑い声が後ろから聞こえた気がする。だけどあたしはそれよりも、まっすぐに知実くんの姿だけを追い求めた。

「彼女たちを守るために俺は死ぬことにした」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「学園」の人気作品

コメント

コメントを書く