彼女たちを守るために俺は死ぬことにした
11/4(水) 日野 苺③
「……勝手なことして悪いと思ったんだけど、昨日、集森高校に行ってきた」
ぱっと知実くんを見た。
その名前を聞いて、体温が上がった。
呼吸が早くなる。体が燃えるように熱い。心臓の音が聞こえる。
自分の重心がどこにあるのか。いま立っているのか、倒れているのか。平衡感覚がなくなった。激しい呼吸とともに、視界がぐにゃりと歪む。
まずいと思って呼吸に意識を向けていると、比較的すぐに焦点が定まってきた。
ああ。少し前のめりにはなっているけど。あたし、きちんと立ってる。良かった……。
知実くんの手が伸びてきて、あたしは首を軽く振ってそれを拒んだ。
「ああ。はぁ、はぁ……そういうこと、かあ……」
知実くんは親切のつもりなんだろうなあ。前にいた学校に行ってくれて、あたしの違和感を聞いてきてくれたんだ。
でもはっきり言って。
そういうの、うざいよ。
「はぁ、ふぅ……知実くん、なんでそんなことしたの? っはぁ、はぁ。あたし、何か迷惑かけちゃったのかな……ひどすぎるよ……」
心臓を押さえながら俯くと、勝手に涙が落ちた。
今と違うあたしなんて、見られたくなかった。元気が取り柄のあたしがこうなってしまうんだよ。こんなの知られたくなかった。
「いちご……違うんだ。俺が学校に行ったのは、お前がまっさらな気持ちでみんなと腹を割って話した方が……」
「チュン太、もうやめなさい」
知実くんの言葉を遮ったのは、会長だった。
「やっぱり、それは違うと思う」
会長が隣に来て、そっと肩を抱いてくれた。
「人は誰でも言いたくない過去がある。それだけならまだいいけれど、思い出したくない過去もあるのよ。それをあなたが好奇心だけで、介入していいものだとは思わないわ」
安心感のある声に、胸を押さえる。
「あたしもそう思う!」
顔を上げると、七瀬ちゃんが腕に抱きついてきた。
「いっちーは、あたしにはわかんないけどっ。きっと、すごく大変だったんだよ! だって、だっていっちーはいつも、困ってる人を放っとけないし!!」
「七瀬、ちゃんっ……」
「いっちー、もう大丈夫だからね! あいつが最低なんだから!」
「ふぅっ……っく。……うあぁーーーっ!!」
「いっちー、なんで? やだぁーー!!」
七瀬ちゃんと顔を突き合わせて、思わず二人で声をあげて泣いてしまう。
「……あなたはいつも正しいですね。まっすぐで清らかで。でもそうやって何もかもを白日の元にさらすことだけが、正解ではないのでは、とも思いませんか?」
しおり先輩があたしと七瀬ちゃんを包むようにして知実くんに対峙した。
そして、特徴のある可愛い足音も聞こえてきた。
「知ちゃんの思いやりは好きだけど、女の子の心がわからないところはダメ! こんなやり方、日野さんがかわいそうだよ!!」
音和ちゃんが知実くんに楯突くなんて思わなくて、涙が止まらなかった。
知実くんはあたしたちの前で、困ったような顔をして黙っていた。
みんなが、あたしのためにかばってくれる。
本当はみんな、大好きな知実くんにキツイことなんて言いたくないよね。
それでもあたしのために、叫んでくれる。あたしと一緒に、泣いてくれる。
胸が、痛くて、苦しい。
知実くん……。意地悪だね。
これも予定調和なんでしょ。
ぱっと知実くんを見た。
その名前を聞いて、体温が上がった。
呼吸が早くなる。体が燃えるように熱い。心臓の音が聞こえる。
自分の重心がどこにあるのか。いま立っているのか、倒れているのか。平衡感覚がなくなった。激しい呼吸とともに、視界がぐにゃりと歪む。
まずいと思って呼吸に意識を向けていると、比較的すぐに焦点が定まってきた。
ああ。少し前のめりにはなっているけど。あたし、きちんと立ってる。良かった……。
知実くんの手が伸びてきて、あたしは首を軽く振ってそれを拒んだ。
「ああ。はぁ、はぁ……そういうこと、かあ……」
知実くんは親切のつもりなんだろうなあ。前にいた学校に行ってくれて、あたしの違和感を聞いてきてくれたんだ。
でもはっきり言って。
そういうの、うざいよ。
「はぁ、ふぅ……知実くん、なんでそんなことしたの? っはぁ、はぁ。あたし、何か迷惑かけちゃったのかな……ひどすぎるよ……」
心臓を押さえながら俯くと、勝手に涙が落ちた。
今と違うあたしなんて、見られたくなかった。元気が取り柄のあたしがこうなってしまうんだよ。こんなの知られたくなかった。
「いちご……違うんだ。俺が学校に行ったのは、お前がまっさらな気持ちでみんなと腹を割って話した方が……」
「チュン太、もうやめなさい」
知実くんの言葉を遮ったのは、会長だった。
「やっぱり、それは違うと思う」
会長が隣に来て、そっと肩を抱いてくれた。
「人は誰でも言いたくない過去がある。それだけならまだいいけれど、思い出したくない過去もあるのよ。それをあなたが好奇心だけで、介入していいものだとは思わないわ」
安心感のある声に、胸を押さえる。
「あたしもそう思う!」
顔を上げると、七瀬ちゃんが腕に抱きついてきた。
「いっちーは、あたしにはわかんないけどっ。きっと、すごく大変だったんだよ! だって、だっていっちーはいつも、困ってる人を放っとけないし!!」
「七瀬、ちゃんっ……」
「いっちー、もう大丈夫だからね! あいつが最低なんだから!」
「ふぅっ……っく。……うあぁーーーっ!!」
「いっちー、なんで? やだぁーー!!」
七瀬ちゃんと顔を突き合わせて、思わず二人で声をあげて泣いてしまう。
「……あなたはいつも正しいですね。まっすぐで清らかで。でもそうやって何もかもを白日の元にさらすことだけが、正解ではないのでは、とも思いませんか?」
しおり先輩があたしと七瀬ちゃんを包むようにして知実くんに対峙した。
そして、特徴のある可愛い足音も聞こえてきた。
「知ちゃんの思いやりは好きだけど、女の子の心がわからないところはダメ! こんなやり方、日野さんがかわいそうだよ!!」
音和ちゃんが知実くんに楯突くなんて思わなくて、涙が止まらなかった。
知実くんはあたしたちの前で、困ったような顔をして黙っていた。
みんなが、あたしのためにかばってくれる。
本当はみんな、大好きな知実くんにキツイことなんて言いたくないよね。
それでもあたしのために、叫んでくれる。あたしと一緒に、泣いてくれる。
胸が、痛くて、苦しい。
知実くん……。意地悪だね。
これも予定調和なんでしょ。
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