彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

11/3(火) 日野 苺⑥

「はあ。直接話つけに行くしかないか」


 俺はスマホをポケットに入れて、伸びをした。


「え、それはやめたほうがいいよ」


 みちるが慌てて首を振る。


「なんで?」
「いのりの彼氏、たぶん今日も部活終わるの待ってるんじゃないかな? 超ヤバそうな大学生なんだよ。ナイフ持ってるって噂だし!」
「そんなことか」
「そんなこと……? だって、脅しじゃないかもだよ!? だから誰もあの子たちに手も口も出せなかったのに、なんで部外者の君が急に来て、そんなことするっていうの!?」


 みちるが必死に止めてくれる。心配してくれるのはうれしいけど。


「そうなん。それ聞いて、余計にやる気出た。止める人がいないっていうのは、そいつらもかわいそうだよな」
「な、なんで彼女たちの心配してんの!? 君、刺されるかもしれないんだよ!?」


 そうだよな。刺されたら痛いし苦しいし、後遺症が残るかもしれないし、最悪死ぬかもしれないな。
 怪我をするのは誰だって怖い。……けど、それは普通の人はってことで。


「頭をやられるのは勘弁だけど。腹の血くらいなら、いくらでも見せてやるよ」


 野中が大きくため息をつく。みちるも目を見開いて、口を手で覆った。


「ええー! その顔で!?」
「顔に傷がつくのを心配して頭部守ってるわけじゃねえよ、バカ!!」


 泣いていいですかねえ!?


「んで、みちるちゃん、テニス部はどこ?」
「3丁目の市民コートだからすぐそこだけど……。本当に行くの? だって君、強いの? 勝算は?」
「勝つとかじゃなくて話しに行くだけよ。だって俺、普通の高校生だし」
「だったら! 相手は普通じゃないんだって!」


 みちるには答えず、寄りかかっていた鉄の柵から離れて、パンパンと鉄の屑を払い落とした。


「んじゃ野中、俺の顔は守ってね♡」
「オッケー。ハニーの顔に傷ひとつ付けさせねえよ」
「っだから、なんであんたは顔守る必要あるのーーー!?!?」


 後ろから聞こえる叫び声には振り向かずに、二人並んで、教えてもらったテニスコートへと向かう。

 昨日、あれからいちごの抱える“なにか”について考えた。
 彼女がのらりくらりとかわしていた過去にそれがあるのかもしれないと思って、前の学校に来た。
 詮索されていちごは嫌だろうな。嫌われるかもしれない。

 でも、来て正解だった。
 俺は静かに、怒ってる。

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