彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

10/26(月) 日野 苺

………………

…………

……



 何度目かの寝返りを打って、パチリと目を開けた。
 初めてのファンスタではしゃいで疲れているはずなのに、まったく眠れない。

 午前2時。重いまどろみも感じるけれど、それ以上にばくばくと心臓が打って目が冴えてしまう。
 本当に偶然、音和ちゃんの恋が終わったところを見てしまった。
 知実くん、あんなに大切にしていた音和ちゃんのこと、断るの辛かっただろうな。

 二人の泣き顔はとてもよく似てた。
 それほど一緒にいた時間も長くて、共有してきたものも多かったんだろうなって、それは誰が見ても思い至るくらいに。
 あたしは柊と杏とですらずっと一緒にいたわけじゃなかったし、そんな人がいたことないから、二人の関係性がとても高尚なものに思えてとても羨ましいと思ったよ。
 だけど二人とも、明日大丈夫かな……。

 くるりと寝返りを打つ。
 暗闇の中で聞こえる弟と妹の寝息に、安らぎを感じる。
 ふと手を布団から出して伸ばし、暗くて見えない手の甲を見つめる。

 遊園地での行動の“意味”。何度も何度もなぞってみた。
 自分の行動も、知実くんの行動も。


「手、繋いじゃった……」


 伸ばして見る手はいつもと変わらない。だけど、あたしにとっては昨日とは全然別のものに見える。
 手を取ったときは本当に、はぐれるのが怖かったから。
 でも……。
 それが、柊や杏とは違うあたたかさでとても驚いた。
 今まで守る側しか知らなかったし、それが当たり前だと思っていた。

 指先から心強さが体の中に流れ込んできて、力が抜けるような感覚に、手を離すのが名残惜しくなる感情。隣に誰かがいてくれる安心感。
 それで、確実に価値観がひっくり返った。

 あたしには勉強もバイトもあるし、自分たちの生活のことでいっぱいいっぱいだし。それになによりも、パッとしないしダメ子だし……。
 そんな自分が、誰かに頼りたくなるなんて思わなかった。

 知実くんのことはいい人だしおもしろいし、なによりも感謝してた。
 だけど一歩踏み込めなかった。だって、ただの友だちにそんな資格ないから。

 知実くんはどうして今日、音和ちゃんを断ったんだろう……。

 辛くて眠れないのは音和ちゃんに感情移入しているからか、知実くんの辛さに共感してるのか……。
 とにかく、息をするのも苦しいくらいに胸が痛んで、吐く息は熱を帯びていた。

コメント

コメントを書く

「学園」の人気作品

書籍化作品