彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

10/21(水) 日野 苺③

 視線を外したままだった野中くんが、


「……って、なっちゃんあれ?」


 と、前方を注視する。その視線の先に目を凝らすと、ネイビーの制服姿の目立つ男の人がふたり。あたしたちの方へと早足で歩いて来るのが見えた。


「おまわり、さん?」
「……やべ、走るぞっ」


 知実くんの合図で回れ右して、来た道へ戻るように地面を蹴った。


「やべーな、俺たちロックオンされてる」


 走りながら野中くんが、後ろを確認しつつ教えてくれる。


「どしよ、通報があったのかな?」
「わからんけど、そうなら野暮……善良な市民がいらっしゃるいい街だねえ〜」
「野中、本音漏れてるっ」
「よし、日野は……足早いから余裕だよな。俺が囮になるから、二人で逃げろっ」


 野中くんは自分の買い物袋を知実くんに渡して、あたしたちの背中を押した。


「そこの路地にっ!」


 そう言うと、野中くんは足を止めた。


「えっ野中くん!?」
「日野、なっちゃんをよろしく」


 そうだ、知実くん貧血持ちだ! あんまり走らせられないよね、うまく逃げなきゃ。


「うん、任せて!」
「逆だろ!って言いたいけど否定できず。ごめん野中! あとで落ち合おう!」


 あたしたちは路地に飛び込んだ。ふたりで細い路地をでたらめに走る。せっかく野中くんが足止めをしてくれてると思ったのに、後ろを見ると、ひとり追っ手が来ていた。


「いちご、そこ入って!」


 細い道を曲がってすぐ、屋根付きの駐車場を見つけて、並んでいる車の奥の方に身を滑らせた。
 全速力したせいでなかなか整わない呼吸を、一生懸命落ち着かせる。
 知実くんが手を広げて背中の後ろに隠してくれる。
 逃げ込んだの見られてなかったかな……。知実くんの背中を眺めながら、祈るように耳をすませて、追ってきている人の足音を聞いていた。


「……行ったかな?」


 一応人がいないのを確認して、知実くんはスマホを取り出し、おそらく野中くんにメッセを送っていた。
 そして文字を打ち終えたスマホを下ろしながら、


「……そんなわけで、いかがでしたでしょうか、補導員からの脱出劇。なかなかできない青春体験だったかと?」
「ええっ、まるで自分が用意したとばかりなドヤ顔!?」


 そんな冗談にやっと力が抜けた。
 怖かったし、野中くんのことも心配だけど、でも、遊びに出たのは後悔はなくて、むしろ逆で。


「……もう、知実くんといると飽きないよ」


 と、自然に口にしていた。
 知実くんも力が抜けたみたいで、アスファルトにお尻をついた。


「はは、俺めちゃくちゃ問題児っぽいな……」


 二人で笑いながら、駐車場に座り込んだ。

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