彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

10/2(金) 穂積音和⑨

 盗撮が引っ込んだあとに、メガネが出てきた。あの人も見たことがある……。


「うげ、八代!」


 生徒会の人か。出るのを知らなかったみたいで、生徒会長は驚いていた。


「生徒会副会長、八代です。今日はみなさんに謝辞を申し上げに参りました」


 なーーにーーーー?


「話すと長くなりますので短くまとめますが、先日、私が原因で生徒会を解散するという話が出ておりました。しかしご迷惑をかけてしまった虎蛇会会長の計らいにより、生徒会が存続できることになったのです」


 わーーーーーー!!!


「凛々子、その節はありがとう」

「生徒会がなくなると不便だからよ」


 生徒会長とかいちょーが、目を合わせずに言葉を交わしてる。


「虎蛇会会長、部田さん。本当にありがとうございました。そして度重なる非礼をお詫びします」


 ぱちぱちぱちぱち


「そして生徒会会長吉崎いのさん。好きです。付き合ってください」


 ぱちぱちぱち……
 えええええええええーーー!!?!?

 ワンテンポ遅れて地面が揺れた。
 今度は生徒会長に視線が集まる。
 真っ赤になってぐるぐると目を泳がせる生徒会長の背中を、武士道が「お気を確かに!」と叩いた。


「え、え、え、あわわわわわわ」


 それでもまだ生徒会長は正気に戻らない。


「きゃーーー♡♡」


 日野さんが興奮して、あたしに抱きついてきた。メガネは、無表情で答えを待ってる。


「…………はぃ」


 生徒会長が頷いて、大きな歓声と拍手に包まれた。

 ……いいなあ。良かったねえ。


 告白、謝りたいこと、将来の夢、後悔していること……。それから何人かの勇気ある人たちが、いろんな主張をした。
 みんな本気で叫んでいて、自分以外の人も、本気で生きてるんだなあって。当たり前なんだけど、改めて感じた。
 人の数だけ、いろいろな人生がある。みんな一生懸命生きてる。
 でも……。やっぱりあたしは納得ができない。

 なんで知ちゃんなの。なんで、他の誰でもなくて知ちゃんが選ばれたんだろう。
 友だちはできたけど、知ちゃんの代わりなんていない。知ちゃんがいなかったら、あたしは誰に甘えたらいいの?
 ……違う、甘えられなくてもいい。ただ、知ちゃんが生きていてくれたらそれだけでいいのに。


「穂積?」

「え、音和ちゃん大丈夫!?」


 隣の会長と日野さんに声をかけられて、涙が溢れていたことに気づいた。慌てて袖で目元を拭うけど、全然、涙、止まらない。
 日野さんが背中をさすってくれているうちに、主張も終わりに近づいてきた。


「それでは最後の方、お願いしますー!!」


 最後、というところで、周りが大きくざわついた。
 えづきながら涙をぬぐって、もうだいぶ暗くなった空を見上げる。


「……ど、どうも。成年のおじさんです……」


 ……。
 思わずぱちぱちと瞬きをしてしまった。

 だるだるなシルエット。
 ダサいポロシャツ……。


「え、なんでパパ……」


 口元がひきつる。
 知らないおじさんの登場で、ざわめきが一層大きくなる。先生たちも慌てはじめた。


「ねえ、なんで、日野さんっ」


 助けを求めると、日野さんはまた、ぽんぽんとあたしの背中を叩いてウインクして見せた。

「彼女たちを守るために俺は死ぬことにした」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「学園」の人気作品

コメント

コメントを書く