彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

10/2(金) 穂積音和④

 体育館の外で、誘導係をしていたいちごを見つけて三人で話していると、演劇鑑賞を終えた穂積のおじさんと凛々姉が出てきた。
 凛々姉は俺と野中を並ばせるとひとつずつデカい鉄拳を落とし、「手に追えん……」と言い残して行ってしまった。
 穂積のおじさんはそれを見て苦笑いをしている。


「んで、どーでした、おじさん」

「ああ、うん、すごいな最近の女の子は強いんだな」

「違うわ、演劇のほう!」


 つっこむと、ハッとしてちょっと照れていた。
 なんなの。おじキュン出してくるのやめて。


「ああ……うん。いつの間にかこんなにも成長してたんだなあと」


 はにかみながら、少し目が潤んでいるようだった。


「最後、全員で手をつないでお辞儀をしていてね。それで胸が詰まってしまったよ」


 そうなのか。それは少し見たかったかもな。


「今日は誘ってくれてありがとう。音和からは知くんの話しか聞かなかったから、みんなと仲良くやれていることに驚いたよ」

「んじゃ、今度からもっと話を聞いてあげてください。音和、友だちの話もしたいと思うよ」


 穂積のおじさんが噛みしめるように大きく頷いている後ろで、1年の演劇の役者たちがぞろぞろと出てきた。


「あっ、音和ちゃーん!!」


 いちごが大きく手を振る。
 お姫様ドレスで歩きづらそうな音和が、足元を気にしながらもいちごに気づく。
 俺たちも手を振ると、一気に嫌そうな顔になった。


「最悪、うるさかった2年だ」
「怖!!」
「俺……シメられちゃうのかな(泣)」


 俺たちを見てざわめくクラスメイトの群れと一緒に、ドレスを両手で持ったまま、何も言わずに教室へと向かって行った。


「ねえ知実くん、『知ちゃーん!』がなかったんだけど」
「なかった」
「ショックそうな顔すんなよ。それだけのことしたんだから」


 おじさんは苦笑していた。


「着替えたらおりてくるはずだから、ちょっと待つか」

「親父さんも話して行きますか?」


 と、野中がおじさんを誘う。


「えっと……僕は」

「俺喉乾いちゃったなー。ジュース買ってください♡」

「ああ、うん、それはもちろん構わないよ」


 おじさんを自販機に案内することにして。
 いちごに目配せすると「OKよ、音和ちゃんはそっちに連れて行くわね。知実くんってば今日もイケてるわよん♡」と、目で答えてくれた。もちろん後半は幸せな妄想だ。

 なんとなく、おじさんと音和を熱のあるうちに会わせておいたほうがいいかなと思った。
 二人とも口下手だから、家に帰っておじさんが話せるかちょっと疑問だし。
 今までが今までだからな。
 しかし俺、穂積のおじさん信用してなさすぎだな。

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