彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

9/29(火) 部田凛々子⑤

 有志の男たちも毒気が抜かれたように勢いがしぼみ、何事かと、入り口方向をキョロキョロと伺っていた。
 しばし待つと、人をかきわける野中とその後ろにぴたっとくっつく七瀬を先頭に、ぞろぞろと虎蛇メンバーが中央に集まった。


「はあ、着いた……。あんたらの悪事は、全部お見通しだーーー!!!」


 と、七瀬が生徒会長を指差す。
 急に注目を浴びて驚く吉崎の前に、すっと出てきたのはいちごだった。


「まずはか弱き乙女たちの個人情報を抜いた犯人ですが、音和セキュリティーグループ、サイバー班山下くんお願いします」

「はいどうも山下ですよ」


 頭に赤のヘアバンドをつけ、PCを持った男もいちごの後ろから出てきた。つか音和セキュリティーグループ、組織だったの!?!?


「いえね、簡単でしたよ。被害アイドルAさんに連絡を取っていた男の身元を調べてそこから情報を流した人間を探せばいいだけなんですね。まあ複数のSNSとフリメを介してましたが、僕に言わせれば赤ちゃんですわ。最終的に生徒会のドメインが出てきました。んじゃ証拠はPDFにまとめましたので、メールで……送・信・完・了ッ☆」


 首から下げた台にPCを置き、スパパパパン!っとタイピングし、ッターン!とエンターを押してからの決めゼリフ。
 なんか知らんが、かっこいいな山下くん!


「次に虎蛇に忍び込んだ犯人ですっ。『ごんす』という口癖から滋賀出身だと睨んで、目撃された身体的特徴からひとりの1年男子をピックアップし、顔を見ている事務員さんに面通しもしました。以前にもうちからプリントを盗んで捨てたことも彼は自白しましたけど! 生徒会の指示だそうですよ?」


 印籠のようにいちごがICレコーダーを前に出す。
 と、その後ろに、カメラを首にかけてコソコソと様子を伺う男が目に入った。ってか!


「あれ? 宮下くんじゃん!!」

「あ、はい。お久しぶりです」


 凛々姉のスカートの中身を撮影しようとして虎蛇を追い出された、元書記で勇者の宮下くんだ。
 凛々姉は思い出したのか、能面になっていた。


「1年生くんが怪しい動きをしている写真はもちろん、そこのガラの悪い先輩たちが、生徒会とつながっている決定的な写真も抑えてます」


 と、カメラを掲げる。七瀬がうんうんと頷き、宮下の肩を組む。


「あたしが証拠掴むためにカメラマンを頼んでみたんだけどー、宮下っち、虎蛇やめてからもウチらの活動を追っかけていたんだって。すでにいろいろ撮ってたの見せてくれたよー」


 たまらず、俺は叫ぶ。


「宮下くん、聞かせてくれないか!! 君ほどの男が、なぜあのとき、凛々姉のスカートの中を!?」


 宮下くんは静かに口角をあげた。


「たとえ待ち受けるものが破滅だけだと知っていても。人跡未踏の無謀な地にこそ、ロマンは眠っているのだよ……」

「お、おとこだ!!!」

「あんたたちはもう黙って……」


 凛々姉は怒りと羞恥でぷるぷると震えていた。


「ハハハ待てよ、それが証拠? 俺たちが八代くんと会っていたのは、友だちだからで」

「山吹色のお菓子」

「っ!!!」

「……って美味しいですよね。ひよことか♡」


 詩織先輩の言葉に有志の男子たち全員がすくみ上がり、おとなしくなった。……ここではこれ以上、深堀りしないほうがいいやつかな。


「調べていてどーにも不思議なのが、ぜーんぶ、最終的には生徒会に行き着くんだよねえ。これってどういうことなんですかー?」


 いちごの手からICレコーダーを抜き取った七瀬が、生徒会長吉崎いのの首筋に突きつける。

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