彼女たちを守るために俺は死ぬことにした
9/28(月) 部田凛々子⑦
びくっと凛々姉の肩が揺れる。
「生徒会長になれなくても、仕方なかったし頑張ったし、楽しかったよねって。それからも仲良くできると思ってたんだ。でも、その後凛々姉が病院に行くほど心を壊すなんて……俺は浅はかだった」
彼女の高貴な心をズタズタにするとは知らずに、喜んで相手の当選を手伝っていたのだから。
心療内科に通っていたことを、凛々姉は隠していた。
それを知ったのは本当に偶然。1年の春休みに駅前へ行ったとき、病院に入っていく後ろ姿を見てしまったから。
最低だけどそれでようやく、俺は事の重大さを思い知った。
「あんなにもすべてをかけていたって聞いてたのに。人生をかけて死に物狂いで頑張っていたのに。生徒会長は凛々姉が自分の行動を肯定するための証明になるはずだった。それが中1の俺にはわかっていなくて、どこかで軽んじていたんだ。……本当にごめんなさい」
深く、頭を下げた。
どんな理由があったとしても凛々姉を深く傷つけたのは事実で、取り返しのつかないことをしてしまった。
なのに俺は許されたと勘違いして、罪を償っているからとたかをくくって。そしらぬ顔をして虎蛇にいたのだとすると、まじで最低で最悪すぎる。
「……あたしは周りが見えてないんだな。今も、昔も」
きゅっと目をつむって、眉間にしわを寄せる。凛々姉はそうやってしばし思考して、長くて細いまつ毛をそっと持ちあげた。
「行動の表面しか見ていなくて、その奥を想像しようとすら思わなかった。……すごく不安だったの。裏切ったのにあたしのこと好きだと言って、馬鹿にされていると思った。だからあんたが憎かったのよ」
溢れた涙は頬を伝い、顔を寄せていた窓に移って、雨のように流れ落ちた。
「憎めば楽だったから。あなたがどうしてそうしたかを、知ろうとしなかった。だって、好きだと言ってくれたのも嘘だったら? そうじゃなくても、あたしはギリギリだったのに……っ」
「そ、それは嘘なんかじゃ! 嘘でそんなことが言えるほど、自分に自信ないしっ」
凛々姉は顔を窓につけたまま、視線だけこちらに向けてにこりと笑った。
「うん、わかってるよ。もう、全部、つながったから……」
そんな少女のような微笑みが、不安な心をあおる。
だめだ。
普通なら、安心するはずの笑顔が、どうしてよくない未来しか感じられないんだろう。
「言えた義理じゃないけど……。俺を、俺たちを、もう一度信じて欲しい。一緒に文化祭をしよう」
「信じたとしても、あたしは……」
彼女はゆったりと首を振る。
「あたしは自分の弱さを抑えきれなくて、みんなにぶつけてしまった。またいつこうなってしまうかわからないのが恐ろしいよ。あたしは上に立つ人間だって思い込んでいたけれど、違った。だからチュン太、これからあんたに仕切ってもらいたい。あたしは降りたほうがみんなのためだわ」
「いや、それはない! だって、虎蛇は凛々姉が作った……!」
「あなたも全員と仲いいでしょ。それこそ、あたしなんかよりも」
ふうとひとつ、ため息を漏らして。
「あんただったら。あたしの願っていた全てを、うまく形にできるわ……」
肩の荷がおりてホッとしたような顔をしている凛々姉に、俺の言葉が届く手応えがない。
もう、これまでなのか……。
本当にこれで、終わりなのかよ……。
「生徒会長になれなくても、仕方なかったし頑張ったし、楽しかったよねって。それからも仲良くできると思ってたんだ。でも、その後凛々姉が病院に行くほど心を壊すなんて……俺は浅はかだった」
彼女の高貴な心をズタズタにするとは知らずに、喜んで相手の当選を手伝っていたのだから。
心療内科に通っていたことを、凛々姉は隠していた。
それを知ったのは本当に偶然。1年の春休みに駅前へ行ったとき、病院に入っていく後ろ姿を見てしまったから。
最低だけどそれでようやく、俺は事の重大さを思い知った。
「あんなにもすべてをかけていたって聞いてたのに。人生をかけて死に物狂いで頑張っていたのに。生徒会長は凛々姉が自分の行動を肯定するための証明になるはずだった。それが中1の俺にはわかっていなくて、どこかで軽んじていたんだ。……本当にごめんなさい」
深く、頭を下げた。
どんな理由があったとしても凛々姉を深く傷つけたのは事実で、取り返しのつかないことをしてしまった。
なのに俺は許されたと勘違いして、罪を償っているからとたかをくくって。そしらぬ顔をして虎蛇にいたのだとすると、まじで最低で最悪すぎる。
「……あたしは周りが見えてないんだな。今も、昔も」
きゅっと目をつむって、眉間にしわを寄せる。凛々姉はそうやってしばし思考して、長くて細いまつ毛をそっと持ちあげた。
「行動の表面しか見ていなくて、その奥を想像しようとすら思わなかった。……すごく不安だったの。裏切ったのにあたしのこと好きだと言って、馬鹿にされていると思った。だからあんたが憎かったのよ」
溢れた涙は頬を伝い、顔を寄せていた窓に移って、雨のように流れ落ちた。
「憎めば楽だったから。あなたがどうしてそうしたかを、知ろうとしなかった。だって、好きだと言ってくれたのも嘘だったら? そうじゃなくても、あたしはギリギリだったのに……っ」
「そ、それは嘘なんかじゃ! 嘘でそんなことが言えるほど、自分に自信ないしっ」
凛々姉は顔を窓につけたまま、視線だけこちらに向けてにこりと笑った。
「うん、わかってるよ。もう、全部、つながったから……」
そんな少女のような微笑みが、不安な心をあおる。
だめだ。
普通なら、安心するはずの笑顔が、どうしてよくない未来しか感じられないんだろう。
「言えた義理じゃないけど……。俺を、俺たちを、もう一度信じて欲しい。一緒に文化祭をしよう」
「信じたとしても、あたしは……」
彼女はゆったりと首を振る。
「あたしは自分の弱さを抑えきれなくて、みんなにぶつけてしまった。またいつこうなってしまうかわからないのが恐ろしいよ。あたしは上に立つ人間だって思い込んでいたけれど、違った。だからチュン太、これからあんたに仕切ってもらいたい。あたしは降りたほうがみんなのためだわ」
「いや、それはない! だって、虎蛇は凛々姉が作った……!」
「あなたも全員と仲いいでしょ。それこそ、あたしなんかよりも」
ふうとひとつ、ため息を漏らして。
「あんただったら。あたしの願っていた全てを、うまく形にできるわ……」
肩の荷がおりてホッとしたような顔をしている凛々姉に、俺の言葉が届く手応えがない。
もう、これまでなのか……。
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