彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

9/28(月) 部田凛々子②

 それから半分ほどさばいて時計を見ると、始業まであと10分というところだった。
 そういえば凛々姉は……と。手を組み、外をぼんやりと見つめていた。
 ……いつからそうしていたんだろうか。


「凛々姉、こっちは半分しか終わらなかった」

「そう。ご苦労さま」


 さっきの微笑みが嘘のように、まったく生気を感じられない。


「本当に大丈夫?」


 つい、聞いてしまうくらいに。


「……どうかな」


 凛々姉は所在無げにPC画面を見つめた。


「あたし、向いてなかったね」


 ぽつりと弱音をこぼす姿は、美しいと思うのが悔しいくらい、儚げだった。
 そのまま眺めていたいような気持ちを捨てて、すぐにかぶりを振って否定する。


「充分よくやってるよ」


 でも、凛々姉は力なく首を振った。


「いや。ただみんなに笑って欲しいだけなのに、逆に苦しめているのかもしれない。夢を見るんだ。『お前のせいだ』、『やりたいことが叶わなかった』、『お前が出しゃばるから』……みんな、口々にあたしを責めるのよ」


 顔色がかなり悪い。ギリギリっぽいな……。


「そしてみんな必ず最後にこう言うの。『部田さんは全然頑張れてなかった。勝手に会長をして、勝手に潰したんだよ。全然ダメだった』って……」

「それは夢だ。少なくとも俺や虎蛇のメンバーはそんなこと思ってないし、みんな凛々姉の虎蛇が好きだよ……」

「……でも虎蛇だって、あたしが振り回してる」

「だから、振り回されたいんだってば!」


 眉をぴくりと上げる凛々姉を見て、自分の言葉が変だったと気づく。笑ってから、もう一度言うことにした。


「凛々姉に振り回されたいバカが、残ってるんだからさ」

「……本当におばか」


 ため息をつかれた。


「内情がわからず好き勝手言うヤツらは言わせとけって、凛々姉も言ってたよな。だから、まずは俺たちを信じろよ」

「……」


 凛々姉は何も言わず、PCを閉じた。


「ごめんなさい。放課後までには切り替えるわ。HRに出ましょう」


 そして下に置いていたカバンを取り上げて、窓の戸締りを確認しはじめた。
 ……やっぱ様子が変だ。どうしてこんなにネガティブなんだ。
 きっかけの原因を突き止めて心の枷を外さないと、放課後になっても、あまり気分は変わらないんじゃないのだろうか?
 不安は消えなかった。

コメント

コメントを書く

「学園」の人気作品

書籍化作品