彼女たちを守るために俺は死ぬことにした
9/25(金) 部田凛々子①
文化祭まで1週間を切った。
実行委員会たちは基本別の部屋で仕事をしているけれど、放課後、虎蛇への出入りや常駐する人数も増えた。それに伴い、資料の取り扱いの監視もより強化している。
「あのー、集中できないのですが……」
「じーーーーーー」
音和セキュリティグループ(重要書類を監視する係)がやりがいを見つけて張り切っていた。
文化祭実行委員会たちの仕事は、顔合わせの次の日に振り分けた。その中心になったのがいちご。あい活!で学校中の人と接触しただけで、彼らの適材適所を見出してくれた。
手先が器用な人。絵がうまい人。文章を書くのが得意な人。デザインができる人。空間把握に長けている人など……。正直、あの短期間でよく見わけられたと思う。
自信がないと言っていた人たちも、小さなタスクをひとつずつ達成していくうちに、表情が明るく、前向きになってきた。自分から話しかけてくれたり、案を出してくれるような人も出てきた。
小さなタスク設定もいちごのアドバイスだった。
クラスにも残って準備する人が増えているし、ステージの練習をする音もどこからか聞こえてくる。学校がにぎやかだった。
そして音和の沽券に関わるから弁解しておくが、音和はただ監視しているだけじゃなく、本人は台本を読んでいた。
「実はクラスの演劇で白雪姫Bをすることになった」
「なんで!? 主役とか大変じゃん。またあいつらに押し付けられたのか!?」
「ううん逆。虎蛇が忙しいから、クラスは負担がないように……って、だいたい寝てるシーンの多い役に変わってくれた」
音和も、あれからクラスとうまくやれているみたいだ。
なんとなく、ゴールも見えてきた気がした。このままの感じで、最後までうまく進めばいいんだけど。
しかし学校全体が浮かれた空気をまとっていると、そんな瘴気にあてられた人が、予想していなかった問題を起こしてくるものである。
「おい部田!!!」
この日は、血の気の多そうな3年男子が、ぞろぞろと虎蛇に来場した。
俺たちは何事かとびっくりしたけど、凛々姉は理由を知っているようで、一瞥して「ああ、無理よ」と答えた。
「はあ? だから納得できねーから来たんだけど!」
男のひとりが噛み付く。凛々姉は作業の手を止めて、煩わしそうに顔を向けた。
「あれは誰も使わないし忘れられているしで、ここ数年は老朽化している上にメンテナンスもしていない。安全面で保証できないと判断したわ」
「でも学校にある備品は使ってもいいって言ってたよな」
「あれは設備。無理ね」
「お前が予算出さないから、こっちだってやりくりして考えたんだぞ!」
凛々姉はわざとらしく大きなため息をつく。
「本当は有志のステージには、お金をいただきたいくらいなのだけど?」
「くそ、もうテメーには頼まねえ。直接職員室で交渉してやる!!」
「ご勝手に」
嵐が去って行った。
「……凛々姉、なにあれ」
「ああ。有志ステージで、ゴンドラを使いたいんだって」
言いながらも目は手元の資料から外さない。
「うちゴンドラなんかあるの?」
「体育館の二階にカバーをかけた大きな機械を見たことない? あれがゴンドラ。ウチの昭和の産物ね」
そういえば二階の通路にでかくて邪魔な謎の機械が置いてあるけど、あれって乗り物だったのか。
「バンドステージで、あれに乗って歌いたいと言い出したから調べたら、平成初期までは使った形跡があるけど、本当に長く放置されているのよ。動いたとしても乗って暴れたら落ちる可能性が高い。あいつらが静かに乗っているわけがないし、使わない方がいいとの判断よ」
「全く、あんなもの早く撤去すればいいのに……」と、凛々姉は誰に言うでもなくこぼした。
ゴンドラで登場とか、サムくね?と思うけど、目立ちたいだけの文化祭マジックにかかって、現実が見えていないのだろうな。
つか凛々姉も淡々と怒ってたし、だいぶ元気がないみたいだ。もうああいう変な問題児が来ないといいんだけど。
実行委員会たちは基本別の部屋で仕事をしているけれど、放課後、虎蛇への出入りや常駐する人数も増えた。それに伴い、資料の取り扱いの監視もより強化している。
「あのー、集中できないのですが……」
「じーーーーーー」
音和セキュリティグループ(重要書類を監視する係)がやりがいを見つけて張り切っていた。
文化祭実行委員会たちの仕事は、顔合わせの次の日に振り分けた。その中心になったのがいちご。あい活!で学校中の人と接触しただけで、彼らの適材適所を見出してくれた。
手先が器用な人。絵がうまい人。文章を書くのが得意な人。デザインができる人。空間把握に長けている人など……。正直、あの短期間でよく見わけられたと思う。
自信がないと言っていた人たちも、小さなタスクをひとつずつ達成していくうちに、表情が明るく、前向きになってきた。自分から話しかけてくれたり、案を出してくれるような人も出てきた。
小さなタスク設定もいちごのアドバイスだった。
クラスにも残って準備する人が増えているし、ステージの練習をする音もどこからか聞こえてくる。学校がにぎやかだった。
そして音和の沽券に関わるから弁解しておくが、音和はただ監視しているだけじゃなく、本人は台本を読んでいた。
「実はクラスの演劇で白雪姫Bをすることになった」
「なんで!? 主役とか大変じゃん。またあいつらに押し付けられたのか!?」
「ううん逆。虎蛇が忙しいから、クラスは負担がないように……って、だいたい寝てるシーンの多い役に変わってくれた」
音和も、あれからクラスとうまくやれているみたいだ。
なんとなく、ゴールも見えてきた気がした。このままの感じで、最後までうまく進めばいいんだけど。
しかし学校全体が浮かれた空気をまとっていると、そんな瘴気にあてられた人が、予想していなかった問題を起こしてくるものである。
「おい部田!!!」
この日は、血の気の多そうな3年男子が、ぞろぞろと虎蛇に来場した。
俺たちは何事かとびっくりしたけど、凛々姉は理由を知っているようで、一瞥して「ああ、無理よ」と答えた。
「はあ? だから納得できねーから来たんだけど!」
男のひとりが噛み付く。凛々姉は作業の手を止めて、煩わしそうに顔を向けた。
「あれは誰も使わないし忘れられているしで、ここ数年は老朽化している上にメンテナンスもしていない。安全面で保証できないと判断したわ」
「でも学校にある備品は使ってもいいって言ってたよな」
「あれは設備。無理ね」
「お前が予算出さないから、こっちだってやりくりして考えたんだぞ!」
凛々姉はわざとらしく大きなため息をつく。
「本当は有志のステージには、お金をいただきたいくらいなのだけど?」
「くそ、もうテメーには頼まねえ。直接職員室で交渉してやる!!」
「ご勝手に」
嵐が去って行った。
「……凛々姉、なにあれ」
「ああ。有志ステージで、ゴンドラを使いたいんだって」
言いながらも目は手元の資料から外さない。
「うちゴンドラなんかあるの?」
「体育館の二階にカバーをかけた大きな機械を見たことない? あれがゴンドラ。ウチの昭和の産物ね」
そういえば二階の通路にでかくて邪魔な謎の機械が置いてあるけど、あれって乗り物だったのか。
「バンドステージで、あれに乗って歌いたいと言い出したから調べたら、平成初期までは使った形跡があるけど、本当に長く放置されているのよ。動いたとしても乗って暴れたら落ちる可能性が高い。あいつらが静かに乗っているわけがないし、使わない方がいいとの判断よ」
「全く、あんなもの早く撤去すればいいのに……」と、凛々姉は誰に言うでもなくこぼした。
ゴンドラで登場とか、サムくね?と思うけど、目立ちたいだけの文化祭マジックにかかって、現実が見えていないのだろうな。
つか凛々姉も淡々と怒ってたし、だいぶ元気がないみたいだ。もうああいう変な問題児が来ないといいんだけど。
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