彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

9/23(水) 部田凛々子⑦

 新しい花火が火を吹いて、目の前でばちばちと閃光を発する。


「次はどれにしようかなー」


 お〜、楽しんでくれてるじゃん。


「俺さあ、今年の夏、花火してなかったから。最初で最後の花火ができてよかったよ」

「そうなの? ……でもあたしも結局これが今年初ね」

「お互い忙しかったんだなあ」

「こう見えて受験生だから」


 バケツに終わった花火を捨てて、次の花火を適当に掴んだ。


「凛々姉の誕生日に行った遊園地、楽しかった」

「……ありがと。いい誕生日だったよ」

「ロリ耳だっけ。あれさぁ、ずっと喜んでつけてたけど、夢の国のゲートを抜けたらスッと真顔になって取ってたのウケたんだけど」

「あれはそういうものだから」

「誕プレってことで買ったのに、ちょっとショックだったなー」

「えっ! そう、なの? それはごめん……」

「どうせ家に帰って捨てたんだろー。ちえっ」

「そんなわけないっ! ちゃんと机に飾ってる!」

「そ、そうなんだ?」

「まあいただきものだから。そりゃね」


 意外だった。ファンスタ好きだと思ったけど、そんなに大切にしてもらってるとは。可愛いところあるじゃん。


「んじゃ、写真は?」

「!」

「? ほら、ラビリンとのスリーショット」

「……スマホに送ってもらって、そのままよ」

「買ってた方は?」

「あぅ……べ、別にどう使ってたっていいでしょ!?」


 え、なんかに使ってんの? 俺に呪いとかかけてないよね!?


「というか、あたしがそういうの好きなの、誰にも言ってないでしょうね?」


 今好きって認めたよな。怒ってるから気づいてないのかな。やれやれ。


「言ってないけど。みんなで行けばいいのに」

「いや、だってあたし、そういう可愛いのは……」


 もごもご言いながら拗ねた。


「えー、凛々姉可愛いのになあ」


 自分のブランディングとかあるんかね? 女子はわからん。


「……可愛いとか、あんたそういうの誰にでも言ってるといつか刺されるわよ……」

「さすがに誰にでもは言わんぞ……。つかなんか音しない? ちょっと黙って」


 腰を上げてあたりを伺うと、渡り廊下を先生が歩いているのが見えた。しかもチラチラこっちを見ている気がする。
 結構煙も出てたし、バレたかな……。


「凛々姉、使ってない花火、全部袋に突っ込んで!」


 古い校舎だから足音が響いて気づいたのはよかったけど、俺たちの声も向こうに聞こえてた可能性もあるな。やべやべ。
 花火を落とさないように押さえて、バケツの水を校舎裏へぶちまける。


「こっちはOKよ!」

「んじゃそれと自分のカバン持って、そこのはしご上がって!」


 俺もカバンを引っ掴むと、凛々姉の後を追った。



ガチャガチャ……
ガタン。


「…………声が聞こえた気がしたけど、気のせいか?」

「幽霊とか見つけないでくださいよ〜」


 あぶねえ、危機一髪……。
 案の定、屋上に教師が来てしまった。
 俺たちは入り口から見えないように、給水塔までのぼり、はしごからも見えないように裏側で肩を寄せ合い息をひそめた。もちろん、教師がはしごを上がって奥まで調べられたらアウトだ。
 しばらく話し声が聞こえていたが、諦めたらしく、屋上の鍵を閉めて出て行く音がした。
 ふう。と二人で安堵のため息を漏らす。隣で凛々姉は非難めいた視線をよこした。


「不良はどうしてこういう、心臓に悪いことが好きなのかしら」

「カップルになりたいんじゃん。ホラ、吊り橋効果的な」


 適当なことを言うなとばかりに睨まれるが、すぐに顔ごと逸らされた。


「んじゃ、見つかる前に帰りますか」

「……そうね」


 ちらりと隣を伺うと、凛々姉はまんざらでもないような、久しぶりに柔らかい表情だった。
 優等生の女子とイケナイことをする、背徳感が楽しい夜だった。

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