彼女たちを守るために俺は死ぬことにした
9/16(水) 穂積音和①
クラスでも文化祭の準備の時間が増えてきて、ようやく、みんなも文化祭を意識し始めたような浮ついた雰囲気になってきた。
1年A組の出し物は演劇「白雪姫」。知ちゃんがいるから虎蛇に入ったけど、クラスの出し物はゆううつ……。
共同作業は苦手だし、あんまり派手なことしたくない。
必ず全員参加だからひとまず小道具係になったけど、放課後のクラス準備は、部活動の人と一緒に抜けることにした。
リュックに私物を詰め込んで、廊下に出たところで肩をぽんぽん叩かれて足を止めた。
「穂積ぃー」
中村さんたちがニヤニヤして立っていた。中村さんたちは白雪姫役とかだから、脚本ができるまでは暇っぽい。
この人たち、相変わらず嫌がらせをしてくるけど、今のところ全部ショボくてなんとかかわせてる。
今はできるだけ話さないでって日野さんに言われてるし。早く行きたい……。
「クラスの準備、投げ出して帰るつもり?」
「……虎蛇あるから」
「自分のクラスの仕事しないで、文化祭全体の仕事するって、本末転倒じゃないー?」
「でも……」
「ちゃんとクラスの役に立ちなさいよ。どうせどこ行ってもあんたなんか役に立たないんだから!」
ぐいっとリュックを引かれて尻もちをついた。
「なにー、この下手くそなストラップ!」
田中さんの声に、ぱっと後ろを振り向いた。
「ちょっと見せなよ」
リュックにぶら下げていた、日野さんのぬいぐるみが引っ張られる。
「ダメ、それに触らないで!」
過剰反応をしたらダメとも言われてたのに、慌ててしまったのが逆効果だった。余計に面白がられて、ストラップを取られてしまう。
「穂積ってお子さまだよねー」
「へー、手作りじゃん」
「返して……!」
手を伸ばすとぬいぐるみが宙を浮いた。田中さんから中村さんに渡る。
「キャハハハ、汚いな! 触りたくなーい!」
ぬいぐるみが宙を舞い、水川さんへ。
「やだ〜〜」
ぬいぐるみは床に叩き落とされる。あたしの手が届く前に田中さんに蹴飛ばされた。
「そんな必死にならなくても。男からもらったの?」
「やだー、穂積さんのビッチー!」
取り返そうと飛びつくたびに、ぬいぐるみが蹴られる。
埃をまとって、黒くなっていく。
日野さんの優しさが、汚されていくようで嫌だった。
この人たち、心がないの?
あたしは田中さんの足にしがみついた。
「ちょっ、やめっ! 離せよ!」
焦った田中さんに叩かれたけど、より腕に力を込める。
「返してくれるまで一生離さない!」
「はー!? キモいんだよ、離せって!」
「ちょっとやめなよ〜!」
水川さんも引っ張ってきた。
蹴られても叩かれても引っ張られても踏まれても、絶対に離さないっ!
「いいよ、返してあげる」
余裕そうにぬいぐるみを拾いながら、中村さんが言う。
「はい、返したーっ!」
「あっ」
大きく振りかぶって投げられたぬいぐるみは、思いっきり弧を描くようにして空を飛び、手すりを飛び越えて中庭の大木の枝に引っかかった。
「あーごめんごめん、引っかかるとは思わなかったー」
中村さんが冷笑を浮かべる。
「もう返したから離せよ!」
田中さんが蹴るのと同時に、体から力が抜けてその場に手をついた。
木は校舎ほどの高さがある。引っかかってるのは3階廊下からの目線より少し下くらい。
木までの距離は離れてるから、ここからじゃ道具を伸ばしても届かない。どうしよう……。
「見て見て、めっちゃ上手に乗ってるー、あはははは!」
「大丈夫だよ! 秋になったら落ちてくるって〜!」
なんで笑えるの。ひどいよこんなの……!
1年A組の出し物は演劇「白雪姫」。知ちゃんがいるから虎蛇に入ったけど、クラスの出し物はゆううつ……。
共同作業は苦手だし、あんまり派手なことしたくない。
必ず全員参加だからひとまず小道具係になったけど、放課後のクラス準備は、部活動の人と一緒に抜けることにした。
リュックに私物を詰め込んで、廊下に出たところで肩をぽんぽん叩かれて足を止めた。
「穂積ぃー」
中村さんたちがニヤニヤして立っていた。中村さんたちは白雪姫役とかだから、脚本ができるまでは暇っぽい。
この人たち、相変わらず嫌がらせをしてくるけど、今のところ全部ショボくてなんとかかわせてる。
今はできるだけ話さないでって日野さんに言われてるし。早く行きたい……。
「クラスの準備、投げ出して帰るつもり?」
「……虎蛇あるから」
「自分のクラスの仕事しないで、文化祭全体の仕事するって、本末転倒じゃないー?」
「でも……」
「ちゃんとクラスの役に立ちなさいよ。どうせどこ行ってもあんたなんか役に立たないんだから!」
ぐいっとリュックを引かれて尻もちをついた。
「なにー、この下手くそなストラップ!」
田中さんの声に、ぱっと後ろを振り向いた。
「ちょっと見せなよ」
リュックにぶら下げていた、日野さんのぬいぐるみが引っ張られる。
「ダメ、それに触らないで!」
過剰反応をしたらダメとも言われてたのに、慌ててしまったのが逆効果だった。余計に面白がられて、ストラップを取られてしまう。
「穂積ってお子さまだよねー」
「へー、手作りじゃん」
「返して……!」
手を伸ばすとぬいぐるみが宙を浮いた。田中さんから中村さんに渡る。
「キャハハハ、汚いな! 触りたくなーい!」
ぬいぐるみが宙を舞い、水川さんへ。
「やだ〜〜」
ぬいぐるみは床に叩き落とされる。あたしの手が届く前に田中さんに蹴飛ばされた。
「そんな必死にならなくても。男からもらったの?」
「やだー、穂積さんのビッチー!」
取り返そうと飛びつくたびに、ぬいぐるみが蹴られる。
埃をまとって、黒くなっていく。
日野さんの優しさが、汚されていくようで嫌だった。
この人たち、心がないの?
あたしは田中さんの足にしがみついた。
「ちょっ、やめっ! 離せよ!」
焦った田中さんに叩かれたけど、より腕に力を込める。
「返してくれるまで一生離さない!」
「はー!? キモいんだよ、離せって!」
「ちょっとやめなよ〜!」
水川さんも引っ張ってきた。
蹴られても叩かれても引っ張られても踏まれても、絶対に離さないっ!
「いいよ、返してあげる」
余裕そうにぬいぐるみを拾いながら、中村さんが言う。
「はい、返したーっ!」
「あっ」
大きく振りかぶって投げられたぬいぐるみは、思いっきり弧を描くようにして空を飛び、手すりを飛び越えて中庭の大木の枝に引っかかった。
「あーごめんごめん、引っかかるとは思わなかったー」
中村さんが冷笑を浮かべる。
「もう返したから離せよ!」
田中さんが蹴るのと同時に、体から力が抜けてその場に手をついた。
木は校舎ほどの高さがある。引っかかってるのは3階廊下からの目線より少し下くらい。
木までの距離は離れてるから、ここからじゃ道具を伸ばしても届かない。どうしよう……。
「見て見て、めっちゃ上手に乗ってるー、あはははは!」
「大丈夫だよ! 秋になったら落ちてくるって〜!」
なんで笑えるの。ひどいよこんなの……!
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