彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

9/15(火) 穂積音和

 うーん。朝のゴミ箱って、あんま入ってないんだ。
 せっかく嫌がらせのために早起きして学校に来たというのに、なかなかうまくいかなくて、ゴミ箱を蹴って八つ当たりした。
 机の上にぶちまけられる汚いものがないかなと教室をぐるぐる回っていると、黒板が目に入った。
 あ、チョークの粉!
 さっそく粉が入ったケースを外して、机の上でひっくり返す。
 これで写真撮って……っと。よし、ちょっとコンビニでも行って時間潰してくるか。



┛┛┛



 コンビニでアンジュともなかと待ち合わせして、じっくり時間をつぶしてから3人で教室に向かった。クラスがざわついていればいい気味だわ!
 前から教室に入って、穂積の席をちらりと見る。まだ本人は来ていないみたいだけど。
 男子が穂積の席の近くに集まっていて、よく見え……
 ……は??
 机の上の、粉がない?

 あたしたちは顔を見合わせる。いや、確かに汚したはずなんだけど!?


「……ちょっと確かめてくる」


 自分の席に寄らず、穂積の席周りにいる男子グループに近づいた。ふん、彼氏もいるのかよ。


「カイおはよっ」

「おうー。なあ、穂積の机がチョークの粉で汚れてたらしくてさ。お前どう思う? 穂積のドジか嫌がらせかって話で盛り上がってんだけどw」

「えっ、でもきれいじゃん」

「二宮が掃除したんだよなー」


 穂積の隣の席の男子、二宮くん。彼氏のカイには劣るけど、韓国っぽい感じのイケてる系男子。
 なんでこういういい感じの男子ばっか、穂積に構うんだか。


「だって朝イチからこれって、ちょっとテンション下がるじゃん?」

「嫌がらせだったら引くよなー。でもドジっぽい気もするんだよなーw」


 あーはいはい! うちのクラスの男、優しいかよ。
 ……足がつくし、あんまり自分から動きたくなかったけど。


「ねーここだけの話なんだけど、穂積って2年生を二股してるって有名だよ。クラスの男子たちにも手を出そうとしてるって噂あるし、心配なんだけど……?」


 作戦その2「ビッチの噂を男子に広めてもらう」。
 うまく男子たちが動いてくれたら、あたしは手を汚さないで済むし。
 つうわけで、“彼氏を心配している彼女”のリアル感を出すために、潤ませた目で見上げて、ぎゅっとカイの手を握る。信用してもらうためならあたしだって女優になるし。


「あーそういえば、朝あいさつ運動してるとき、近くにサーヴァントみたいな先輩がいたな」


 あ。ひとり食いついた!


「サーwwwヴァントwwww」

「スタンドじゃんwwww」

「穂積、ブ◯ャラティに似てるっちゃ似てるけどwwww」

「穂積ちゃんって……魔性の女なの? 実はそういう感じなの?」

「「「「…………ぷふーーーー!!!」」」」


 男子らはお互い顔を見合わせて吹き出し、ゲラゲラと笑う。


「あいつカラダで誘惑すんの?」

「そらちょっとそれ犯罪だろー」

「どっちの意味でだよwwwwww」

「wwwwwwwwww」


 ……あーー、手応えびっみょー。うちのクラスの男子ってバカばっかだな……。


「……カイもできればあんまり話さないで欲しいかも。あの子、陰でクラスの男子のこと……ううん、やっぱなんでもない」

「えー、俺らのことがなんなんだよミサ」


 わざと気になるように、途中で悲しげに切り上げてきた。
 一旦離れて様子見するか。
 もうすぐホームルームだけど、今日あの子来るんだろうか。


 席に戻って3人で話していると、予鈴とともに穂積が教室に駆け込んで来た。そのまま席について、ふーっと安堵のため息ついてる。


「あ、男子がビッチに声かけたっ!」

「なに話してるんだろね〜」


 アンジュともなかが、穂積の様子をこっそり実況していた。
 声は聞こえないけど、穂積がなんか言って男子が笑ってる。
 ああ……イライラする。


「あいつの弱点まじでなんなわけ……」

「基本受け身だから、よくわかんないよね〜」

「あ、文化祭実行委員じゃん!?」


 閃いたように、アンジュが小声で叫ぶ。あいつ確かに、文化祭の委員会にはすごく執着してるもんな。
 もう一度穂積に目を向けた。
 おとなしくなるまでは、いろんな手を試してみるか。

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