彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

9/14(月) 穂積音和①

 穂積が登校してきた。


「くすくす」

「あんたガン見しすぎw」


 あたしたちは3人で教室前の廊下に立ち、階段をのぼってくる様子を見ていた。


「〜〜♪」


 しかし穂積はウチらに気づかない。


「ね、穂積チャン、イヤホンしてない〜?」


 もなかの言うとおり、周りを気にしていない姿は音楽に集中しているように見える。


「なにあいつ生意気」

「カバンがでっかいリュックになってる!」

「机に持ち物ないと思ったらそーゆーこと。ナメてるわね」


 自分たちの前を通るときに、サッと足を出す。引っかかることなく、ぴょんっと飛び越えて行ってしまった。


「……」

「プププ、ミサ失敗してんなよウケるwww」

「ウケないっ!!」


 赤面しながらアンジュの脇腹を小突いた。



 ………………

 …………

 ……



「えー本気ー? もなちょっとやだな〜」

「ここまでさせるあいつが悪いんだからね!」


 今度は穂積がトイレに入ったのを確認して、あたしたちも入った。
 鏡で化粧中の人を全員追い出して個室を調べると、ひとつ、使用中の個室を見つけた。


「早くっ!」


 声をかけると、打ち合わせ通りアンジュが掃除道具入れからホースを引っ張り出してきて、手早く蛇口に先をつけ始める。


「もなかは出てこないようにドア押さえて!」

「内開きだからちょっと無理だよ〜」


 チッ。下調べ不足だった。
 アンジュからホースの先を渡され、お互い頷き合う。そしてトイレのドアが開いた瞬間、ホースの先を持って水をぶっかけた。


「!?」


 個室から、うつむいた穂積が出てきた。
 だけど薄手のレインコートを着て、手にはご丁寧に傘まで持っている。


「あんた……」

「中村さん? 水浸しだけどお掃除頑張ってね」

「勝手に行くんじゃねーよ! もなか入り口!」

「え、え」

「っやだーーーーーーーーーー!!!」


 穂積の絶叫にアンジュともなかがひるむ。その間に穂積は走って出て行った。
 キュッと蛇口が閉まる音がして、ホースからぼたぼたと垂れていた水が止まった。


「……なにあいつだっるー!」

「これってウチらが掃除すんの〜?」


 アンジュともなかが口々に不満をこぼす。


「って、ちゃんと閉じ込めてよ!!」


 あたしはカッとなって叫んだ。



 ………………

 …………

 ……



「も〜最悪〜」


 前の席に座ったもなかが、あたしの机にばたりと倒れ込んできた。
 あのあといそいでトイレの床を掃除して、戻ってすぐに授業を受けたんだけど、イライラが収まらない。


「やっぱ穂積を呼び出して話つけるか」

「でももうウチらのこと完全に警戒してるじゃん。呼び出すの無理くない?」


 確かにアンジュの言う通り、何も言わないけど、明らかにあたしたちのこと避けてる。


「いっそ別の人の名前で呼び出せば〜?」

「それいい。そもそも普通、呼ばれてNOなんて言わなくない? 立場わかってないのがイラつくんだよね」

「穂積チャンと仲いい子を離すとかして、孤立してもらうとか〜」

「もともとあいつボッチなんですけどー(笑)!」

「孤立してんのにしゃしゃってくんじゃねーし。トイレでレインコートなんて着て、信じらんない。そもそも先輩と仲良くしてるのが本当意味わかんない」

「ウチらの悪口言ってるよね〜」

「それ最低! あ、あいつ移動するんじゃない?」


 廊下側を向くようにして、あたしたちの間に座っていたアンジュが先に気づいた。穂積はリュックに持ち物をまとめ終え、外に出ようとしてる。
 移動するときに一人になる。それを狙って、捕まえることにしていた。

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