彼女たちを守るために俺は死ぬことにした
9/9(水) 穂積音和②
凛々姉が虎蛇のカギを開けて入り、その後に俺も続いた。昨日の放課後に彼女がひとりで片付けたらしき書類が、テーブルの上に山積みされているのが目に入る。
電気をつけなくても明るい部屋は、放課後の雰囲気と少し違う。まだ空気が寝ぼけているように不透明な、朝の虎蛇も嫌いじゃなかった。
「その辺でいいよ、ご苦労さん」
凛々姉の机の後ろ……ホワイトボードと椅子の間に荷物を下ろした。その途端、気が緩んだからか立ちくらみがした。
「ちょっと、あんた大丈夫?」
「あー、うん。昨日夜更かしして」
毎朝、強い日差しをモロに浴びていることにも一因がありそうだ。思っていたよりも疲れていたんだな。
「最近軟弱じゃない? 遊園地のときだって」
「ねー。偶然だなー。凛々姉の前では安心しちゃうのかなー」
「……バカ。男なんだからしっかりなさい」
「男女差別する気っすか、かいちょ」
「男女区別だよ。穂積や日野、芦屋に重いもの持ってもらうわけにはいかないからね。……それにしても少し暑いかもね。お茶飲む?」
「飲む。んじゃ窓開けるわ」
凛々姉は俺に背を向けて冷蔵庫に手を伸ばした。
俺は扇風機のスイッチを入れて、窓を全開にする。こもっていた空気が、新しい空気と入れ替わるのを感じた。
机の上にお茶がことりと置かれた。
「おう、ありが……」
「実は緊張してる」
凛々姉はそう言うと、目を合わせずに自分の席に座った。両手でグラスをしっかりと持って、水面に視線を落としている。
いきなり何を言い出すんだ。ま、まさか。俺との二人きりのシチュエーションに……?
「文化祭では、誰もがっかりさせたくないの」
ああ、そっちですよね!
「しないよ」
もし何かトラブったとしても、それは凛々姉だけの責任じゃない。
凛々姉には言えないけど、みんなが協力して頑張れば、失敗したって、それは自然といい思い出になるもんだ。青春補正ってチートは、使えるときに使っていこうぜ。
「ねえ、チュン太」
なにか決心したように顔を上げる凛々姉の顔はいつになく不安げで、俺が軽卒な言葉を出すような雰囲気じゃないのは分かった。だから黙って続きを促す。
「もし、あたしが間違えたことをしたら……止めてくれる?」
久しぶりに聞く弱気な発言に驚く。
「あたしは自分を信じてる。けれど万が一、周りが見えなくなったとき。あんたの言葉なら、聞いてみようと思う。今は自分のプライドよりも文化祭の成功が優先だから」
弱さをぶつけてくれながらも、芯はいつものようにしっかりと持っていた。そんな彼女だから、俺は尊敬している。
「凛々姉のためなら、身体も張るし、本気のビンタだってしてやるよ」
「よかった。5倍返しするところまでも分かって受け止めてくれるよね」
げっ!? それはないんじゃない!?
「なに情けない顔してるの。ジョークだよ、会長ジョーク」
両手をニギニギさせながら、真顔である。絶対冗談じゃない。この人ならやる。いや、殺る!!!
「それ、飲んだなら洗うからグラス貸しなさい。そろそろ出るわよ」
「あ、うん。ありがとう」
時計をチラリと見たあと、凛々姉がグラスを持って立つ。入ってきたときと同じく、俺は窓を閉めることにした。
「今年はチュン太がいて、信頼できる心強いメンバーがいる。だから大丈夫よね。うまくやるわ」
後ろでそんなつぶやきを聞きつつふと窓の外を眺めると、音和といちごが並んであいさつをしているのが見えた。
「あいつら、本当に愛しいな」
「え?」
自然と頬が緩む。
「大丈夫だよ。今の凛々姉なら失敗はしない。……俺だってもう、昔とは違うんだから」
電気をつけなくても明るい部屋は、放課後の雰囲気と少し違う。まだ空気が寝ぼけているように不透明な、朝の虎蛇も嫌いじゃなかった。
「その辺でいいよ、ご苦労さん」
凛々姉の机の後ろ……ホワイトボードと椅子の間に荷物を下ろした。その途端、気が緩んだからか立ちくらみがした。
「ちょっと、あんた大丈夫?」
「あー、うん。昨日夜更かしして」
毎朝、強い日差しをモロに浴びていることにも一因がありそうだ。思っていたよりも疲れていたんだな。
「最近軟弱じゃない? 遊園地のときだって」
「ねー。偶然だなー。凛々姉の前では安心しちゃうのかなー」
「……バカ。男なんだからしっかりなさい」
「男女差別する気っすか、かいちょ」
「男女区別だよ。穂積や日野、芦屋に重いもの持ってもらうわけにはいかないからね。……それにしても少し暑いかもね。お茶飲む?」
「飲む。んじゃ窓開けるわ」
凛々姉は俺に背を向けて冷蔵庫に手を伸ばした。
俺は扇風機のスイッチを入れて、窓を全開にする。こもっていた空気が、新しい空気と入れ替わるのを感じた。
机の上にお茶がことりと置かれた。
「おう、ありが……」
「実は緊張してる」
凛々姉はそう言うと、目を合わせずに自分の席に座った。両手でグラスをしっかりと持って、水面に視線を落としている。
いきなり何を言い出すんだ。ま、まさか。俺との二人きりのシチュエーションに……?
「文化祭では、誰もがっかりさせたくないの」
ああ、そっちですよね!
「しないよ」
もし何かトラブったとしても、それは凛々姉だけの責任じゃない。
凛々姉には言えないけど、みんなが協力して頑張れば、失敗したって、それは自然といい思い出になるもんだ。青春補正ってチートは、使えるときに使っていこうぜ。
「ねえ、チュン太」
なにか決心したように顔を上げる凛々姉の顔はいつになく不安げで、俺が軽卒な言葉を出すような雰囲気じゃないのは分かった。だから黙って続きを促す。
「もし、あたしが間違えたことをしたら……止めてくれる?」
久しぶりに聞く弱気な発言に驚く。
「あたしは自分を信じてる。けれど万が一、周りが見えなくなったとき。あんたの言葉なら、聞いてみようと思う。今は自分のプライドよりも文化祭の成功が優先だから」
弱さをぶつけてくれながらも、芯はいつものようにしっかりと持っていた。そんな彼女だから、俺は尊敬している。
「凛々姉のためなら、身体も張るし、本気のビンタだってしてやるよ」
「よかった。5倍返しするところまでも分かって受け止めてくれるよね」
げっ!? それはないんじゃない!?
「なに情けない顔してるの。ジョークだよ、会長ジョーク」
両手をニギニギさせながら、真顔である。絶対冗談じゃない。この人ならやる。いや、殺る!!!
「それ、飲んだなら洗うからグラス貸しなさい。そろそろ出るわよ」
「あ、うん。ありがとう」
時計をチラリと見たあと、凛々姉がグラスを持って立つ。入ってきたときと同じく、俺は窓を閉めることにした。
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