彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

2017年 冬①

 “平均以上”じゃダメだった。
 常にトップにいなければ、一目なんて置かれない。

 勉強だけは誰よりもした。部屋に置いてある本はビジネス書や自己啓発本ばかり。
 運動だって、毎日浜で鍛錬していた。

 あたしは天才じゃないから、そうするほかなかった。

 間違えているはずがない。全てが必要だったこと。

 これらの下積みがあったからこそ、あたしは生徒会長に立候補できたんだから。



………………

…………

……



「じゃあ確かに拝受しますね。部田さんのような優秀な人が生徒会長になれたら心強いわ。私の代よりも風紀がよくなるでしょうね」

「そんな、ありがとうございますっ」


 担任に出せばいいけど、憧れの生徒会長に挨拶したくて、直接生徒会室に立候補の届けを持って来てしまった……。

 ゆずりは生徒会長はあたしの理想だ。
 ううん、あたしだけじゃない。先生も生徒もみんな生徒会長が好きで、杠先輩が生徒会長になってから、学校が穏やかになった。
 例えば掃除時間にポイント制度を取り入れたことで、校内だけでなく町の美化活動までも推進し、市長からも表彰されてたのが印象深い。
 他にも提案された新しい制度はどれも小さなものだけれど、生徒同士でのいざこざも減り、校内が穏やかになった。
 あたしも先輩みたいに人の役に立ちたい。自分の名前を、何か功績の爪痕を残したいと希望に満ちていた。


「杠の後任かー。うん、すごくいいね!」

「期待してるー!」


 物珍しそうにしている生徒会執行部の先輩たちに囲まれてしまった。


「でもまだ決まったわけじゃないんで……」

「えー、毎年立候補する人いないし。部田ちゃんで決まりでしょ」

「そ、そうなんですか?」

「杠だって推薦だったしね」

「うふふ。そうだね。ここ数年は生徒会長は推薦の流れだよね」

「うちやること細くて多いからさー。内申書の点数稼ぎにしても割に合わないっ!! 会長になると仕事これ以上でしょ。あんたやっぱりすごいよ杠!」

「そんなことないよ」

「それに代々の会長が立派すぎて、ポジションが恐れ多いっていうか。他薦じゃないと無理めな空気だよね……。あっ、部田ちゃんは勉強も運動もトップクラスだって聞いてるし、非の打ち所がないよ?」


 やっぱり生徒会長はすごいんだ……!
 ちなみに、会長以外のポジションはすぐに埋まってしまうらしい。


「そんなわけで、期待してるわね。頑張って」


 杠先輩の握手は、両手で包んでくれる、丁寧で温かい握手だった。


「はい、頑張ります! ありがとうございます!!」


 生徒会執行部のみなさんに一礼して部屋を出た。
 みんなの期待を受ける。高揚感がすごく気持ちよくて、自分に合ってると思った。
 よしっ、演説考えなきゃね。杠先輩にも相談してみよう! 久しぶりにわくわくしてきた。
 中学校になったら絶対に、生徒会長になるって決めてた。その目標を、これから1カ月で叶えていくんだ。
 今までの努力を思えば1カ月なんて、まばたきの一瞬のようなもの。
 そしてこれは、あたしにとってのステップでしかない。あたしの将来のための、踏み台ってだけのことなのだから。

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