彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

8/13(木) 部田凛々子④

………………

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……


 あれから5時間。ぐるぐると連れ回され(しかも全行程早足!)、見事な屍が完成していた。


「……ぬるいわねえ」

「少しはねぎらってくれませんかねえ」


 ベンチでぐったりと消沈する俺を、凛々姉がうちわであおいでくれている。
 ハードスケジュールがっていうよりも、さすが屋外、クソ暑すぎる。こんなに貧弱だったっけかなー、俺。
 あーなんか、せっかく凛々姉が珍しく楽しそうなのに。ダウンするとか、みっともねー。


「今日は暑いから。飲みなさい」


 いつの間にか飲み物を調達して来てくれていたらしく、ペットボトルが差し出される。乾いた身体にスポーツドリンクが、ありがたかった。


「ありがとう。えっと、次はエクスプレス……だっけ。もうすぐ予約の時間だよね」

「ああ。そうだったわね……」


 入園してすぐ、先パスで予約していた人気アトラクション・ドリームエクスプレスの搭乗時間がそろそろ迫ってる。


「……これ飲んだら行こう」


 腕時計を見ながら凛々姉に告げた。今スグと言えないところがマジで情けない。ああ、動悸よ早くおさまってくれえ。


「……別に、乗らなくてもいいわよこんなの」


 と。隣から吐き捨てるようなつぶやきが聞こえた。
 えー。凛々姉、怒ってるのかよ。でも俺、行かないとはひとことも言ってないんだけど。
 早めに行かないと、好きなシートに座れないとか? まあこれだけ好きならこだわってはいそうだけど……いやでもさ、乗らないよりマシじゃね? こういうのって、お互いの譲り合いが必要じゃん? いい加減わがままがすぎるだろーそれは。
 一言、文句を言おうと鋭い目で隣を見ると、口をへの字に曲げた凛々姉とにらみ合う形になった。でもこっちのが正論だしな、負けん!


「あのさあ、体力がなかったのは申し訳ないけど」

「そうね。体力がないんだから休んでいなさい」

「いやだからってそんな言い方ねーだろ。行かないとは言ってないし、まだ時間的にも間に合うじゃん?」

「たしかにまだ乗れる。でもそれで、あんたが倒れたらどうするのよ!」

「……は?」


 そのまま詰め寄ってきた凛々姉に、ぐいっと襟元を引かれる。近距離で見つめ合うが、頭の中はハテナでいっぱいだ。


「体調悪いあんたを無理に引き連れ回してまで楽しもうとか思うわけないでしょ。あんたはいつも……もっと自分のこと大事にしなさい!」


 え。お、こられた……。心配してくれてたの?


「……俺にそういうこと、しなくていいよ」

「なっ……!」

「しなくていいよ」


 にっこりと笑って牽制する。
 凛々姉に心配されること。気をつかわれること。大事にされること。
 俺にはそんな資格、ないから。

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