彼女たちを守るために俺は死ぬことにした
8/12(水) 月見里 蛍⑤
「どうしたの、小鳥遊くん」
ほたるの顔を見てぎょっとした。
そんなことを考えてはいけないのに。
辺りは薄暗さのベールをまとい、その薄い笑いが気味の悪さを増長させた。
ほたるが病院の倉庫で見せた表情とダブる。
「い、いや……」
「悪いと思った? お詫びに、一緒に死ぬ?」
「それは……っ。まだダメだ。納得してない」
ほたるの肩から、小さなショルダーバッグが地面に落ちた。
「……私を傷つけたのに?」
強い視線が刺さる。だけど、俺の答えは変わらない。
「……それでも、俺はほたるに生きて欲しいんだよ。ちゃんと寿命を全うして欲しいんだ」
バカのひとつ覚えのようなことしか言えない、自分の語彙力のなさがここにきて痛かった。
「それは傲慢だよ……。私は、辛い」
「辛くてもっ!」
「だって、生きても! お兄ちゃんはいつもそばにいてくれないんでしょ!」
山の中で、かなきり声が響く。
「……っ」
言葉に詰まって立ち尽くす。
それを見抜いたように、ほたるは嘲笑した。
「ほら、そうなんじゃん」
「……」
どんどん、心の距離が離れて行く気がした。
「前も言ったけど、お兄ちゃんって全然死ぬことに向き合ってなくてむかつく!」
そう叫ぶと、ほたるは顔を覆ってしゃがみ込んだ。
「私も、お兄ちゃんも、いなくなるんだよ! それは遠い未来なんかじゃない!」
「……そうだけど」
「じゃあ、なんで分かってくれないの? 私は怖い。明日死ぬかもしれない恐怖に。そのとき、最後の記憶がもしひとりぼっちならって考えると。堪えられないよ。壊れそう……っ!」
何度も拭うきれいな顔から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちて行くのをただ見ていることしかできなかった。
「お兄ちゃんは、私が一緒に死にたいっていうのを、本気じゃないと思ってる」
「そんなことない。受け止めてる。だけど死なせたくない」
「じゃあ、ひとりで死なせたいの?」
「違うよ!」
「じゃあどうしてくれるの!」
「それは……っ」
ああ、なんで何も言葉が出ないんだ。考えろ。ほたるを安心させる言葉を。
何やってんだよ。入院中、長い時間があったのに。
どうして……一番欲しがっている言葉がわからないんだ?
「さよなら」
ほたるはそう言うと、落ちていたバッグの中から手を抜いた。
そして倒れ込むように前進してきた。
手には、銀色の光るものを握って。
彼女はいつでも本気だった。
そして無関心を装って、寂しがり屋だった。
ここで、二人で死ぬのが彼女の思い描いていた未来だったのかもしれない。
だけどその足取りは病気のせいでとてもおぼつかなくて、簡単に避けることができてしまった。
「!?」
「ごめん、ほたるっ!」
手に持つナイフを叩き落として、そのまま彼女を抱きしめた。
「ごめん、ごめんごめんごめん! それでも死なせられない、ごめん!!」
もう、人を殺す力さえも残っていない彼女のことが無性に悲しかった。
「……っうう……わああーーーーーーーっ!!」
彼女を抱きしめたまま、ふたりはその場で泣き続けた。
ほたるの顔を見てぎょっとした。
そんなことを考えてはいけないのに。
辺りは薄暗さのベールをまとい、その薄い笑いが気味の悪さを増長させた。
ほたるが病院の倉庫で見せた表情とダブる。
「い、いや……」
「悪いと思った? お詫びに、一緒に死ぬ?」
「それは……っ。まだダメだ。納得してない」
ほたるの肩から、小さなショルダーバッグが地面に落ちた。
「……私を傷つけたのに?」
強い視線が刺さる。だけど、俺の答えは変わらない。
「……それでも、俺はほたるに生きて欲しいんだよ。ちゃんと寿命を全うして欲しいんだ」
バカのひとつ覚えのようなことしか言えない、自分の語彙力のなさがここにきて痛かった。
「それは傲慢だよ……。私は、辛い」
「辛くてもっ!」
「だって、生きても! お兄ちゃんはいつもそばにいてくれないんでしょ!」
山の中で、かなきり声が響く。
「……っ」
言葉に詰まって立ち尽くす。
それを見抜いたように、ほたるは嘲笑した。
「ほら、そうなんじゃん」
「……」
どんどん、心の距離が離れて行く気がした。
「前も言ったけど、お兄ちゃんって全然死ぬことに向き合ってなくてむかつく!」
そう叫ぶと、ほたるは顔を覆ってしゃがみ込んだ。
「私も、お兄ちゃんも、いなくなるんだよ! それは遠い未来なんかじゃない!」
「……そうだけど」
「じゃあ、なんで分かってくれないの? 私は怖い。明日死ぬかもしれない恐怖に。そのとき、最後の記憶がもしひとりぼっちならって考えると。堪えられないよ。壊れそう……っ!」
何度も拭うきれいな顔から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちて行くのをただ見ていることしかできなかった。
「お兄ちゃんは、私が一緒に死にたいっていうのを、本気じゃないと思ってる」
「そんなことない。受け止めてる。だけど死なせたくない」
「じゃあ、ひとりで死なせたいの?」
「違うよ!」
「じゃあどうしてくれるの!」
「それは……っ」
ああ、なんで何も言葉が出ないんだ。考えろ。ほたるを安心させる言葉を。
何やってんだよ。入院中、長い時間があったのに。
どうして……一番欲しがっている言葉がわからないんだ?
「さよなら」
ほたるはそう言うと、落ちていたバッグの中から手を抜いた。
そして倒れ込むように前進してきた。
手には、銀色の光るものを握って。
彼女はいつでも本気だった。
そして無関心を装って、寂しがり屋だった。
ここで、二人で死ぬのが彼女の思い描いていた未来だったのかもしれない。
だけどその足取りは病気のせいでとてもおぼつかなくて、簡単に避けることができてしまった。
「!?」
「ごめん、ほたるっ!」
手に持つナイフを叩き落として、そのまま彼女を抱きしめた。
「ごめん、ごめんごめんごめん! それでも死なせられない、ごめん!!」
もう、人を殺す力さえも残っていない彼女のことが無性に悲しかった。
「……っうう……わああーーーーーーーっ!!」
彼女を抱きしめたまま、ふたりはその場で泣き続けた。
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