彼女たちを守るために俺は死ぬことにした

アサミカナエ

8/10(月) 月見里 蛍①

 ようやく部屋に空きが出て、病室を移った。
 個室は快適だけど、代わりに前のようなわいわいとした雰囲気はなくなった。
 でも、さみしいかといえばそうでもない。


「「よっしゃ、とったあああああ!!!」」

「海高のピッチャー人間じゃねーな」

「あの4番を封鎖するとは、やりおる!」


 遊びに来ていた野中と、甲子園の中継を観て盛り上がっていた。
 クーラーの効いた病室は、扇風機しか支給されていない実家よりはるかに居心地がいい。


「おっ……しゃああああ、勝ったーー!!」

「うわほーーーーー!!」


「ギャアギャアうるさいわよ!!」


 ノックもしないで部屋に怒鳴り込んできたのは美原さんだ。
 しかし俺がひとりじゃないのに気づくと、急に勢いがしぼんでいく。


「え……小鳥遊の……友だち?」


 野中を見て目を白黒させている。
 まあ、今まで親以外の外部の人間を連れてくることなかったしな。
 美原さんは察した様子で、頭をぽりぽりとかいた。


「友だち呼ぶのはいいけど、外に声漏れてるわよ。気をつけなさい」

「あ、待って美原さん!」


 扉を閉めて出て行こうとした美原さんを呼び止める。


「なに?」

「ほたるに全然会えないんだけど」

「そう……」


 野中のことを気にして一瞥するが、扉を閉め、険しい顔のままベッドに近づいてきた。


「ホスピスに行く準備をしてるところなのよ。予定よりちょっと早まってね」


 エミちゃんも言ってたな。完全に動いてるってわけだ。


「そんな顔しないでよ。したいのは月見里のほうなんだから」

「わかってるよ……」

「あの子がこっちにいる間、しっかり支えてあげて」


 押し殺したような静かな声だった。
 こくりと頷いてから尋ねる。


「何日に移動?」

「そうね。本当は明日にでもしたいのだけど、事情があって木曜かしら」

「急だな……」

「病院とはそういうものよ」

「ここにいるとよくそれがわかるわ」


 苦笑してからカレンダーを見る。
 あと3日後、か。


「今日は夕方なら落ち着いていると思うわよ。月見里」

「お、サンキュー!」


 今日は特に用事ないし、後で行こう。容体も気になるしな。
 美原さんは深く頷くと、次は野中に顔を向けた。


「こんにちは。小鳥遊の主治医の美原よ。なにかあったら看護師か、あたしを呼んでちょうだい」

「……」

「じゃあ、あんまりうるさくしないように」


 そう言うと、今度こそ美原さんは部屋を出て行った。



「……なんでだんまりなんだよ野中」

「タバコ臭い女は嫌いなんだよ」

「そーですか」


 ため息をついて、布団の中からひとつの冊子を取り出す。


「じゃあ水曜の夜にするか。どうだね貴臣くん」

「水曜ね……お、晴れじゃん。決まりだな?」


 ニヤリほくそ笑むと、俺たちはがしっと手を組んだ。

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